↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物探偵事務所~罪を背負いし神父~  作者: 星野翔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/6

終章 弾かれた刃と暗闇の救済誓言

第一幕:漆黒の大鎌

黄昏の血色なる残光のもと、廃墟における殺意はすでに頂点へと達していた。


キン・レオンの双眸から血光が荒れ狂い、指先にある五本の数尺に及ぶ太刀金刃が、凄烈極まる切削力を纏って冷たい大気を切り裂く。それは、泥の中で呻き声を上げるタイガーの咽元めがけて、容赦なく直撃せんとしていた!


「――死ねっ!」


『ガキィィィン――――ッ!!』


清脆かつ重々しい、巨大な鐘を打ち鳴らすがごとき金属の衝突音が、天と地を震わせるが如く激しく爆発した!


キン・レオンの、いかなる堅固な装甲をも容易く穿つはずの五指の利刃が――タイガーの咽元までわずか数寸という空中で、一歩タリとも揺るがし得ぬ強大な死霊魔力によって、一瞬にして弾き飛ばされたのだ!

荒れ狂う衝撃の余波がキン・レオンの右腕を微かに痺れさせ、その巨体をたまらず数歩後退させる。


「この技は……まさかっ!?」


キン・レオンの瞳孔が劇的に収縮し、猛然と顔を上げた――。


その視線の先には、漆黒の如き墨染めの大鎌が、妖しく不気味な幽緑の光を放ちながら、タイガーの身前に横たえられていた。

その大鎌の独特な形状と、そこから放たれる魔力の律動を、キン・レオンが聞き違えるはずもない。


それは幼き日から見慣れ、亡き恩師が無数の戦場を共に駆け抜けた伝説の武器――「鴉狩りの大鎌」であった!


第二幕:白骨と魔晶の瞳

その大鎌の柄を伝い、キン・レオンがゆっくりと視線を上に這わせた瞬間。

ボロボロに朽ち果て、まるで死の鳥のように広がる黒き羽翼の斗篷(マント)を纏う影が、吹き荒れる冷たい風砂の中に静かに佇んでいた。


その姿を直視した瞬間、キン・レオンはまるで全身を雷に打たれたかのように、その場で石像のように硬直した。呼吸すら、完全に停止する。


その影の左眼の部位には、妖異な紫色を放つ「魔晶の瞳」が深く埋め込まれていた。

その足元は、墨の如き漆黒の「鴉爪の靴」が冷たい地面を踏みしめている。


だが、見る者の背筋を心の底から凍らせたのは――その深い斗篷の下にはすでに、一切の皮膚も、血肉も失われており、ただ白く不気味に光り輝き、幽かな死気を漂わせる無残な「白骨の骸(むくろ)」のみが残されていたという、衝撃の真実だった。


眼前の存在が、すでに冷たい枯れ骨と化していようとも。

その山岳の如き巍峨たる立ち姿と、そのあまりに馴染み深い気配を、キン・レオンは死んでも見誤るはずがなかった。


「クロード……様……っ!?」


キン・レオンの両膝が、音を立てて力なく折れ崩れた。

その声は砂を噛むように掠れ、咽び泣きのように震え、その眼の端からは滾る血の涙がとめどなく溢れ出て、冷たい地面を赤く濡らしていく。


第三幕:復活の暗夜天使

恐るべき白骨の骷髏(ドクロ)が、ゆっくりと首をもたげた。

左眼の魔晶の瞳が冷たい微光を宿し、あごの骨がガチガチと噛み合わさりながら、低く、しゃがれながらも――かつてと変わらぬ、あの温もりを湛えた懐かしい声を発する。


「久しぶりだな、キン……」


クロードは静かに鴉狩りの大鎌を収め、自らの白く乾いた骨の手のひらをじっと見下ろしながら、平穏な口調で語りかけた。


「今の私は……『暗夜天使』クロードだ。あの時、あの戦場で死んだ私を、駆魔公安の上層部が密かに回収し、『死霊王』の魔核をその肉体に埋め込むことで、心なき死霊兵器へと改造しようとした……」


クロードは、自らの左の眼窩を指し示す。


「だが、この『魔晶の瞳』の持つ特殊な力のおかげで、私は奇跡的に生前の記憶と自我を保つことができた。しかし、その眼を開き、戦乱と搾取、そして終わりのない殺戮の絶えないこの世界を、改めて目の当たりにした時……私の胸のなかに、一つの強い念が萌え芽生えたのだ」


クロードは漆黒の夜空を仰ぎ見た。その白骨の巨躯から、底知れぬ哀愁と深い慈悲が漂う。


「私は、死霊術の力を用いて死者を蘇らせ、この魔晶の瞳の権能によって、彼らの魂の深淵にある憎悪と殺戮の心を完全に洗い清めることができる。そうして……戦乱も無く、すべての死者が永遠の安らぎを得られる、真の理想郷を築き上げるのだ……」


そこまで語ると、クロードは長く、そして深い溜息をついた。


「だが……理想というものは、かくも容易くは成し得ない。ディアナは生前、殺戮を最も嫌っていた……。私は、彼女が天国から見下ろす前で、この両手を再び血に染めるわけにはいかないのだ。……私にはもう、自らの手で誰かを殺すことなど、できはしない……」


第四幕:一切の罪業を背負う背中

恩師の口から語られた、あまりに悲劇的でありながら、しかし神聖な美しさに満ちたその偉大な願景を聞き届けた瞬間。


キン・レオンの長きにわたる孤独、狂暴、そして絶望に満ちた魂は、かつてないほどの圧倒的な救いと、深い解脱を見出した!


「師父……ッ!!」


キン・レオンはたまらず泥の中に両膝をつき、指先の太刀長爪をゆっくりと、その肉体の奥へと完全に引っ込めた。

彼は頭を仰ぎ、血走った両眼で、白骨と化しながらもなおこの世界を庇護しようとする恩師を見つめ、その魂をすべて捧げる誓約を絶叫した。


「クロード様……主よ……! あなた様がもう殺しをなさぬのなら、主よ……この世界ですべての罪業も、すべての流血も地獄も、この僕一人がすべて背負って見せます……ッ!!」


キン・レオンは冷たい泥地に額を深く、深く擦り付けた。その声には、極限の狂熱と、二度と揺らぐことのない絶対の決意が込められている。


「僕はあなたの最も鋭き爪となり、牙となりましょう! あなたの代わりに、天下のあらゆる障害と、すべての罪悪をこの手で斬り伏せます! だがどうか主よ……どうか僕を導き、戦争の無い、誰も殺し合う必要のないあの美しき世界を……この目で再び見せてください……ッ!!」


クロードは、冷ややかな白骨の手を静かに伸ばし、少年のその頭上に優しく置いた。


吹き荒れる冷たい風雪の中。

かつての「白衣の死神」は「暗夜天使」へと変貌を遂げ、かつての人望厚き衝鋒隊長は、自ら進んで最深の地獄へと墜ち、「百獣の王」となった。


「暗夜流星」の真の理想と、血色に染まる新たな序幕が、今この瞬間――正式に、その幕を開けたのだった……!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。