第22話『これが魔力ですねぇ。』
第22話『これが魔力ですねぇ。』
次の授業の日、リリナは机の上に置かれた光の石を見つめていた。
以前と変わらない、小さな石だ。
けれど今日は、前より少しだけ早く触れてみたいと思っている。
「先生」
「はい」
「もう一度やってみてもいいですか?」
イスターニャが小さく頷いた。
「もちろんです。そのために用意しましたから」
リリナは石へ手を伸ばした。
指先が触れると、石の内側に淡い光が灯る。
何度見ても不思議だった。
けれど今日は光を見るためではない。
自分の中にあるものを探すためだ。
リリナは手のひらへ意識を向ける。
何かある。
そんな気がする。
けれど、それだけだった。
「……まだ、よく分かりません」
「では一度、手を離してみましょう」
言われた通りに手を離す。
石の光が消えた。
リリナはそのまま、自分の手を見つめる。
「どうですか?」
「さっきと違う気はします」
「どこが違いますか?」
「それが分からないんです」
自分でも困ってしまう答えだった。
違う気はする。
けれど、何が違うのか説明できない。
「では、もう一度」
「はい」
再び石へ触れる。
淡い光が戻った。
リリナは目を閉じる。
見えている光に気を取られないようにして、自分の手の中を探した。
あるような気がする。
前にも感じた、何か。
手を離す。
消える。
もう一度触れる。
また、ある気がする。
「先生」
「何か分かりましたか?」
「触っている時だけ、同じものがあるような気がします」
イスターニャはすぐには答えなかった。
「もう一度確かめてみましょう」
「はい」
リリナは石から手を離した。
しばらく待ってから、また触れる。
石が光る。
そして探す。
「……あります」
「手を離してみてください」
離す。
「今は?」
「ないと思います」
「では、もう一度」
また触れる。
淡い光。
さっきと同じところを探す。
「あります」
今度は先ほどよりも早く答えられた。
イスターニャが微かに笑う。
「同じ違いが分かりますか?」
「はい。たぶん」
リリナは石に触れたまま、自分の手を見る。
何かが熱いわけではない。
冷たいわけでもない。
痛くも、痺れてもいない。
それでも、触れていない時とは違う。
「これ……でしょうか」
「どうやら、それがリリナ様の感じている魔力のようですね」
リリナはもう一度、自分の手へ意識を向けた。
「これが魔力なんですか?」
「少なくとも、石に触れている時にだけ同じ感覚を何度も確認できています」
「はい」
「今はそれで十分です」
リリナは石から手を離した。
感覚が薄れる。
また触れる。
戻ってくる。
「本当にあったんですねぇ」
「ありましたね」
自分の身体の中にあると言われても、今まではよく分からなかった。
見えもしない。
触ることもできない。
けれど今は、ほんの少しだけ分かる。
これが、自分の魔力らしい。
そう思うと、昨日までより魔法が少し近くなった気がした。
「では、次へ進んでみましょうか」
「次ですか?」
「今度は、感じている魔力を動かしてみます」
リリナは手のひらを見る。
「これを動かすんですか?」
「はい」
「どうやってですか?」
イスターニャは少し考える。
「まずは、今感じているものを少しだけ別の場所へ寄せるつもりで試してみてください」
「寄せる……」
分かったような、分からないような言葉だった。
「決まった動かし方があるんですか?」
「今は細かいことを考えなくて大丈夫です。まず、自分で動かそうとしてみましょう」
「分かりました」
リリナは再び石へ触れた。
魔力らしい感覚を探す。
先ほどより早く見つけられた。
これを動かす。
少しだけ別の場所へ。
リリナはじっと手を見つめた。
動いてください。
そう思ってみる。
何も変わらない。
もう一度試す。
やはり変わらない。
「……動きません」
「最初ですから」
「もう一度やってみます」
リリナは集中する。
そこにあるものは分かる。
けれど、それだけだった。
掴もうとしても掴めない。
押そうとしても、押している感じがしない。
何度か試してから、リリナは小さく息を吐いた。
「難しいですねぇ」
「つい先ほどまで、魔力を感じることも難しかったでしょう?」
リリナは少し考える。
「そうでした」
「今日は一つ分かるようになりました。それで十分ですよ」
イスターニャの言葉に、リリナはもう一度石へ触れた。
淡い光が灯る。
魔力も、さっきより見つけやすい。
動かすことはできない。
けれど、そこにあることは分かる。
昨日までとは違っていた。
「先生」
「はい」
「これを動かせるようになったら、その次は身体の外へ出すんですよね?」
「そうです」
「そのあとに光ですか?」
「そこまで進めたら、ですね」
まだ先は長そうだった。
けれど、不思議と嫌にはならない。
むしろ今度は、どうすればこれが動くのか気になってきた。
リリナは石に触れたまま、もう一度自分の中の小さな違いを探す。
(これが魔力なんですねぇ)
分かったばかりのそれは、まだ少しも言うことを聞いてくれなかった。




