第20話『魔力は分かりにくいですねぇ。』
第20話『魔力は分かりにくいですねぇ。』
次の授業で、イスターニャは一つの石を机の上に置いた。
前に触れた光の石だった。
「今日はこれを使います」
「また適性を調べるんですか?」
「いいえ。今日は魔法を使うための練習です」
リリナの目が少し大きくなる。
「もう魔法を使うんですか?」
「まだ使いませんよ」
「まだですか」
少しだけ期待していたので、思わず聞き返してしまった。
イスターニャが小さく笑う。
「その前に覚えることがあります」
「何でしょう?」
「魔力です」
「魔力……」
聞いたことのない言葉ではない。
けれど、それが自分の中の何を指しているのかは分からなかった。
「魔法を使うには、まず自分の魔力を感じる必要があります」
「感じるんですか?」
「ええ」
リリナは自分の両手を見る。
昨日までと何も変わっていない手だった。
「どうやって感じるんでしょう」
「それを今から探してみましょう」
イスターニャが光の石をリリナの前へ寄せる。
「触れてみてください」
「はい」
石へ手を置く。
すぐに内側から淡い光が灯った。
「光りました」
「そのまま少し待ってみてください」
リリナは手を動かさずに石を見つめる。
「何か感じますか?」
「何か……」
指。
手のひら。
腕。
順番に意識してみる。
「……分かりません」
「では、一度手を離しましょう」
リリナが手を離すと、石の光が消えた。
「もう一度です」
触れる。
光る。
「どうですか?」
「やっぱり分かりませんねぇ」
「もう一度やってみましょう」
手を離す。
光が消える。
もう一度触れる。
また光る。
何度やっても石は同じように反応する。
けれど、自分の身体で何が起きているのかは分からない。
「先生は分かるんですか?」
「今は分かりますよ」
「最初からですか?」
「いいえ」
その答えに、リリナは少し安心した。
「先生にも分からない時があったんですね」
「もちろんです。最初から何でもできる人ばかりではありません」
それなら自分も同じらしい。
「もう一度やってみます」
今度は石ではなく、自分の手へ意識を向けながら触れてみる。
光が灯る。
(何が違うんでしょうねぇ)
手を離す。
何もない。
もう一度触れる。
「……」
ほんの少しだけ、何かが違う気がした。
「先生」
「はい」
「何かあるような気がします」
イスターニャはすぐに答えず、リリナを見る。
「どんな感じですか?」
「それが分からないんです」
「熱いですか?」
「違います」
「冷たい?」
「それも違います」
痛くもない。
痺れてもいない。
ただ、石に触れている時と離している時では、どこかが違う。
「手の中……でしょうか」
「手の中?」
「でも、そこなのかもよく分かりません」
言葉にしようとすると、余計に分からなくなる。
「それで大丈夫ですよ」
「大丈夫なんですか?」
「今まで感じようとしたことがなかったものですからね」
リリナは石を見る。
「これが魔力なんでしょうか?」
「そうかもしれませんし、まだ違う感覚かもしれません」
「分からないんですね」
「今は、ですね」
イスターニャは答えを決めつけなかった。
「まずは違いに気づけたことが大切です」
「違い……」
「感じられないものを動かすのは難しいですから」
「動かす?」
「魔力を感じられるようになったら、次はそれを動かす練習をします」
「その次は?」
「身体の外へ出す練習です」
リリナは少し考える。
「それで光になるんですか?」
「そこまでできるようになってからですね」
「遠いですねぇ」
思っていたより先が長い。
「急ぎますか?」
「いいえ」
リリナは首を振る。
歩く時もそうだった。
頭では分かっているのに、身体は思った通りに動かなかった。
言葉だって、意味を知っているだけでは口から出てこなかった。
できるようになるには、できるようになるための順番があった。
「まずは感じるところからですね」
「ええ」
リリナはもう一度石へ触れる。
淡い光が灯った。
目に見えるのは石の光だけ。
自分の中に何があるのかは、まだよく分からない。
それでも、さっきよりほんの少しだけ違いを探せる気がした。
「今日は光を出せませんね」
「今日は、ですね」
「次は出せますか?」
「それはリリナ様次第です」
「難しいことを言いますねぇ」
イスターニャが笑う。
リリナも小さく笑って、もう一度手のひらへ意識を向けた。
まだ名前を聞いただけの魔力。
まだ自分で使ったこともない光魔法。
(まずは、これが何なのか分かるところからですねぇ)
淡く光る石に触れながら、リリナは見えないものを探し続けた。




