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戦争を経験した90歳のおばあちゃん、転生したら聖騎士を目指すことになりました。  作者: 黎明の星


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第20話『魔力は分かりにくいですねぇ。』

第20話『魔力は分かりにくいですねぇ。』


 次の授業で、イスターニャは一つの石を机の上に置いた。

 前に触れた光の石だった。


「今日はこれを使います」

「また適性を調べるんですか?」

「いいえ。今日は魔法を使うための練習です」


 リリナの目が少し大きくなる。


「もう魔法を使うんですか?」

「まだ使いませんよ」

「まだですか」


 少しだけ期待していたので、思わず聞き返してしまった。

 イスターニャが小さく笑う。


「その前に覚えることがあります」

「何でしょう?」

「魔力です」


「魔力……」


 聞いたことのない言葉ではない。

 けれど、それが自分の中の何を指しているのかは分からなかった。


「魔法を使うには、まず自分の魔力を感じる必要があります」

「感じるんですか?」

「ええ」


 リリナは自分の両手を見る。

 昨日までと何も変わっていない手だった。


「どうやって感じるんでしょう」

「それを今から探してみましょう」


 イスターニャが光の石をリリナの前へ寄せる。


「触れてみてください」

「はい」


 石へ手を置く。

 すぐに内側から淡い光が灯った。


「光りました」

「そのまま少し待ってみてください」


 リリナは手を動かさずに石を見つめる。


「何か感じますか?」

「何か……」


 指。

 手のひら。

 腕。


 順番に意識してみる。


「……分かりません」


「では、一度手を離しましょう」


 リリナが手を離すと、石の光が消えた。


「もう一度です」


 触れる。

 光る。


「どうですか?」

「やっぱり分かりませんねぇ」


「もう一度やってみましょう」


 手を離す。

 光が消える。

 もう一度触れる。

 また光る。


 何度やっても石は同じように反応する。

 けれど、自分の身体で何が起きているのかは分からない。


「先生は分かるんですか?」

「今は分かりますよ」

「最初からですか?」

「いいえ」


 その答えに、リリナは少し安心した。


「先生にも分からない時があったんですね」

「もちろんです。最初から何でもできる人ばかりではありません」


 それなら自分も同じらしい。


「もう一度やってみます」


 今度は石ではなく、自分の手へ意識を向けながら触れてみる。


 光が灯る。


(何が違うんでしょうねぇ)


 手を離す。


 何もない。


 もう一度触れる。


「……」


 ほんの少しだけ、何かが違う気がした。


「先生」

「はい」

「何かあるような気がします」


 イスターニャはすぐに答えず、リリナを見る。


「どんな感じですか?」

「それが分からないんです」


「熱いですか?」

「違います」

「冷たい?」

「それも違います」


 痛くもない。

 痺れてもいない。


 ただ、石に触れている時と離している時では、どこかが違う。


「手の中……でしょうか」

「手の中?」

「でも、そこなのかもよく分かりません」


 言葉にしようとすると、余計に分からなくなる。


「それで大丈夫ですよ」

「大丈夫なんですか?」


「今まで感じようとしたことがなかったものですからね」


 リリナは石を見る。


「これが魔力なんでしょうか?」

「そうかもしれませんし、まだ違う感覚かもしれません」


「分からないんですね」

「今は、ですね」


 イスターニャは答えを決めつけなかった。


「まずは違いに気づけたことが大切です」

「違い……」

「感じられないものを動かすのは難しいですから」


「動かす?」


「魔力を感じられるようになったら、次はそれを動かす練習をします」

「その次は?」

「身体の外へ出す練習です」


 リリナは少し考える。


「それで光になるんですか?」

「そこまでできるようになってからですね」


「遠いですねぇ」


 思っていたより先が長い。


「急ぎますか?」

「いいえ」


 リリナは首を振る。


 歩く時もそうだった。

 頭では分かっているのに、身体は思った通りに動かなかった。

 言葉だって、意味を知っているだけでは口から出てこなかった。


 できるようになるには、できるようになるための順番があった。


「まずは感じるところからですね」

「ええ」


 リリナはもう一度石へ触れる。

 淡い光が灯った。


 目に見えるのは石の光だけ。

 自分の中に何があるのかは、まだよく分からない。


 それでも、さっきよりほんの少しだけ違いを探せる気がした。


「今日は光を出せませんね」

「今日は、ですね」

「次は出せますか?」

「それはリリナ様次第です」


「難しいことを言いますねぇ」


 イスターニャが笑う。


 リリナも小さく笑って、もう一度手のひらへ意識を向けた。


 まだ名前を聞いただけの魔力。

 まだ自分で使ったこともない光魔法。


(まずは、これが何なのか分かるところからですねぇ)


 淡く光る石に触れながら、リリナは見えないものを探し続けた。

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