希望
「今日はすごい日だったな……」
ベッドの上で伸びをしながら俺は言った。思い返してみても、色々ありすぎて大変な一日だった。肉体的にも精神的にも疲れているようで、さすがに眠くなってくる。
「だなぁ、しょうちゃん」
弟は泣きすぎて喉が渇いたらしい。絶対にもう二度と、大事なゆうちゃんを泣かせたくない。強く、そう思う。
甘えてゆうちゃんが抱きついてきた。なんとなく、くすぐったいような気恥ずかしいような。でも、そんな由紀がたまらなく愛しい。
「構って欲しいのかよ」
「うん、お願いします」
「じゃあ三秒、目つぶって」
弟は言われたとおり瞳を閉じる。
「ゆうちゃん、大好きだよ。おやすみ」
そう言って、俺は彼に優しくキスをした。その途端、ゆうちゃんの表情がふわっと笑顔に変わる。
「うん。今日はお疲れ様」
それを見て、思わず強くぎゅっと抱きしめる。あんまり力を入れすぎて、「苦しいよ」って苦笑いされてしまったけど。
長かった一日が、ようやく終わった。明日から、俺はまたバイトと大学の、弟と妹は学校の日々が始まる。でも、これからはこれまでとは違う、新しい毎日が始まるんだ。
いつまでも家族みんな、そして誰よりもゆうちゃんが幸せでいられますように……そう心の中で願いながら、俺たちはそのままゆっくりと眠りに落ちていった。
あれから俺たちは何度も口付けを交わした。さすがにまだセックスは出来ないけれども。
男同士であって、兄弟であって。性別の壁を壊して、ようやくひとりの人として愛し合おうと思ったら、兄弟の壁があることを再確認した。あまりの壁の多さに泣きたくなる。
男兄弟で恋愛だぜ?狂ってるよな。でも俺は弟が好きで、弟は俺以上に俺のことが好きなんだ。
家族愛とかそんなんじゃない。倫理観を無視した恋ってのは知ってる。兄弟でこんなことしてるのは俺らだけだろうな……。
始めは弟との関係を思い出すたび、気持ちに反して吐いてばかりだった。こんなにも弟が好きなのに、理性が、体が拒否してた。精神的にもヤバくて、自分の手首をじっと見つめてる時があった。
実は、弟に別れを切り出した時、ポケットに睡眠薬が入ってたんだ。駄目だったら死のうと思って。自殺を考えてた俺は、かなり追い詰められてたんだと思う。
兄弟間で恋愛って難しいよ、死にたくなるよ。でも、支えてくれた人たち全てに感謝してる。今はもう、ゆうちゃん、あーちゃん、母さんを泣かせるようなことはしないって誓う。
弟妹は大切に、兄姉がいる奴らはたくさん甘えておけばいい。ひとつ屋根の下で生きてるってとんでもない奇跡だからな。
みんなに、ありがとう。