軍産複合体
軍産複合体の会議室は、夜の都市を見下ろす高層塔の最上階にあった。
透明な窓の向こう、魔素採掘場の蒼い光が脈動する。
それは富の心臓であり、兵器の源泉であり、権力の象徴だった。
長机に並ぶ将軍たちは、慣れた顔色で報告を聞いていた。
財界の重役たちは、銀のペンを弄びながら数字を確認していた。
そこには怒号も恐怖もない。
ただ利益の増減だけが、彼らにとっての“現実”だった。
しかし、ケイの名前が出た瞬間、その空気は静かに崩れた。
「UAP……統一科学魔術理論。」
参謀長の声は、書類を読み上げるだけのものだった。
だが内容は、彼らにとって最悪の警報だった。
魔術は再現可能になる。
魔素兵器は公開研究にさらされる。
制御式は、市民でも設計できるレベルへ落とされる。
魔素は神秘の燃料ではなく、観測者の位相反応だ。
つまり、独占の根拠が全て溶ける。
沈黙のあと、一人の軍需企業CEOが低く吐き捨てた。
「能力を市民に渡す学術はテロだ」
将軍が頷く。
「兵士を持たぬ革命軍が成立する。
秩序の崩壊だ。反乱の火種を万人に与える行為だ」
彼らにとって“秩序”とは、安全でも法でもない。
兵器の流通経路を握り、研究成果を軍に限定し、
魔素採掘権を国家機関と財団で封じ込めること。
市民が学ぶことは、統制を失うことだった。
UAPは、たった一つの理論でその防壁を破壊する。
構造を理解すれば、魔導砲はただの可変式共振器になる。
魔術師の天賦は、観測位相の訓練データに置換できる。
軍が独占してきた“奇跡の兵器”は、
教科書の末尾にある応用例へと落ちる。
恐怖ではない。
倫理でもない。
それは純粋な利益の問題だった。
参謀長は机に指を叩いた。
「反対派をまとめる。思想はいらん。資源の権利だけで十分だ」
重役たちは頷き、静かにメモを取る。
学術が武装解除を迫るなら、武装で学術を黙らせる。
それが彼らの合理であり、戦略だった。
彼らは信じている。
銃声の数は論文の枚数を超える。
燃える都市は議論よりも速く意思決定を進める。
利益は、最後には必ず暴力を選ぶ。
そして彼らの脳裏にあるのは、たった一つの標的だった。
都市へ帰還した亡命者。
理論を携えて歩く者。
ケイ。
彼は敵国の科学者ではない。
軍需利権を陥落させる“構造そのもの”だった。




