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異世界物理  作者: 南蛇井


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政治の反応 — “最も愚かな選択”

臨界事故の報告が各都市を駆け巡った日、

首都評議会の地下ホールには夏の雷鳴のようなざわめきが充満していた。

木扉の奥で議員たちは顔を寄せ合い、

沈黙ではなく恐怖の言葉を交換していた。


災害は連続していた。

魔術炉の崩壊、魔導砲の暴走、神殿の魔術遺失。

それらは理論的原因も解析経路も提示していない。

ただ「呪いの連鎖」として、市民の脳裏に焼き付いた。


指導層は理解に向かわなかった。

「理解すべき対象」ではなく

「封じ込めるべき敵」を選んだ。


こうして三法が成立した。


禁術取締法


研究の発表禁止。

理論構築は国家許可制。

未承認の計算式を公開すれば、最長終身拘束。


議場で一人の研究官が問いかけた。


「理論は罪ではなく、誤用が罪です。

我々は原因を——」


彼の声は途中で遮断された。

採決の槌が打たれた瞬間、彼は拘束された。

罪状は「危険思想の扇動」。


魔術純血令


婚姻は魔術血統間に限定。

魔素濃度の保持を優先し、

人体を資源として分類する。


公文の一行目はこう始まる。


「国家は魔素遺伝の保全義務を有す」


貴族たちは歓喜した。

教会は祝福した。

だが歓喜の裏にあるのは、

才能の寡占、継承の固定、

そして何より停滞の永続だった。


科学統制法


魔素研究は軍独占。

市民研究は禁止、学院研究は許可制、

民間企業は軍需契約の下請けへと矮小化された。


統制局の官僚は淡々と言い放つ。


「暴走の原因は民間の自由。

制御は軍の責務だ。」


その言葉には倫理も反省もない。

ただ権力と恐怖の等式だけが存在した。


改革は“反逆”となり、

疑問は“異端”となり、

学習は“危険思想”となった。


市民は疲弊を、知識人は沈黙を、

若者は諦念を学び始める。


だが誰も気づかない。

文明の崩壊は爆発ではなく漸蝕だ。

翳りはまず議会で、次に学院で、

やがて子どもたちの思考にまで降りてくる。


進歩は失われたのではない。

それが追放される環境が整えられたのだ。


そして都市国家群は、

ケイの不在を「静寂」と呼び、

その静寂を秩序と錯覚する。


未来は叫び声を上げない。

ただ、もう来なくなるだけだ。

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