ヴァルディオの理解
指揮系統の臨時ブリーフィングは、深夜にも関わらず満席だった。
焼けただれた研究棟のライブ映像が壁面に映し出され、焦げた鉄の臭いが遠くの風に乗って侵入してくるような錯覚を呼ぶ。
その中央、議長席の端末には、ケイの処理ログが静かにスクロールしていた。
誰よりも先に沈黙を破ったのは、ヴァルディオだった。
「……都市規模の魔導砲は、彼一人で成立するな。」
その一言で空気が裂ける。
会議室の温度は変わらないのに、背筋に冷たいものが走った。
ラクシアは喉の奥が強張り、言葉を吐くまでに一拍遅れた。
「彼は学生よ。人間よ。研究生として扱うべき対象よ。兵器ではない。」
反論にも似た懇願。
だがヴァルディオは眼鏡の奥で笑い、丁寧に言葉を分解した。
「人間である必要はない。用途が完璧だ。」
彼は数式を語るのと同じ平静さで言う。
都市防衛理論の長年の穴、炉室連結の運用、欠損した調停因子まで——
すべてケイ一人で埋められる。
視線が一斉に当人へ向く。
ケイは首を傾げ、淡々と付け加えた。
「不完全です。都市規模には、炉心演算が最低三基必要。」
それは否定でも抗議でもない。
ただの事実確認。
条件式の不足を指摘する技術者の声。
理解した瞬間、議会の空気が硬質へと移行した。
学問の論争は終わった。
倫理の議題は凍結された。
ここから先は、国家的利用の工程だ。
ラクシアの指は震えたまま握り締められる。
研究を守ろうとした言葉は、焔に焼かれた研究棟の残骸よりも脆い。
ディルトンの声帯損傷も、暴走した魂鎖機器も、
全ては「大義」の前でただの統計に過ぎなかった。
アルノは正当性を得る。
学院は魂鎖研究の主導権を失い、可燃物のように焼却された施設と共に倫理を埋葬する。
議会はケイを、人材ではなく——資源として分類した。
外ではまだ鎮火作業の赤い光が揺れている。
研究棟から立ち上る煙は夜気に溶け、
それがまるで、学問という理想の死体を弔う黒旗のように見えた。




