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龍の腕は世界を抱く  作者: 萌葱クレイオ
第二章 儚き夢の旅路へ
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44話 竜気覚醒

読んでいただきありがとうございます。

本日五話目。

 



 ――竜気覚醒。




 それは人と幻想種が繋がり、初めて発動が可能になる力。

 竜気を力に変える竜術とは桁違いの力をもたらす秘術。

 それは正しく「竜気そのものになる」と言われる奥義。


 人だけでは成し得ぬ境地。幻想種だけでは辿り着けぬ境地。

 それ即ち、人竜の極地。


 レイは自分の中にある竜気の、その更に向こう。

 繋がった先にある半身、シオの竜気を手繰り寄せると、不確かだった二人の繋がりが明確なものとなってレイの肉体に現れる。


 人と幻想種が一つになって生まれる奇跡。

 人竜一体となって生まれる力の奔流は、ギンをも唸らせ、グレイ爺には戦慄が走る。


『――させんッ!!』

「シオ!」

「応っ!」


 かつて竜気による身体強化の発動に時間がかかったのと同じく、竜気覚醒もまた発動には時間がかかる。

 それを見抜いたギンが発動を阻止しようと突っ込んでくる。だがそれはレイとシオの二人を調子づかせることに繋がる。

 止めなければならない、とギンが思ったのであれば、それは間違いなくギンにとっても恐れるべき力であると言う事の証拠に他ならず、レイとシオは天高く舞い上がる。


 本来ならば距離を置いて安全な場所で発動してからギンを迎え撃つべきなのだが、これまでの経験上ギンから目を離すことがどれだけ危険かを学んでいる以上、ギンから目を離すことは出来ない。

 反対に、目を離すことに繋がる身を隠されることを防ぐためにも、危険だと印象付けることで身を隠されるのを防ぐ。攻防一体の捨て身の作戦は、予想以上に効いたようで、ギンはこれまでにない真剣な様子で迫る。


 しかし、竜気覚醒によって放出される竜気の量は身体強化などとは比べ物にならない程に莫大。ただレイとシオの二人分では収まらない量の竜気を制御するためにも、竜気覚醒が発動するまで極限の集中状態を維持するためにもレイの体は無防備に晒され、他の竜気を使った行動が取れない。万が一竜気が暴走したとなれば、レイは竜気に呑まれて、かつてグレイ爺が葬ったと言われる竜気の成れの果てに化してしまうことだろう。


 故に、竜気の制御が乱れないようシオがレイの足となってギンから逃れる作戦を取るのだった。


 近付くだけで身を切り刻まれる風の鎧を纏ったギンの体が肉薄し、レイとシオの体に傷が生まれるも、すんでのところでシオ達は上空へ逃れ、その後を追ってギンもまた空を駆けて後を追っていく。


 レイとシオが去った後には湖の碧にも負けない青い欠片が残され、散っていくのだった。





 通りすがりにレイが集中状態から放った矢も、風の鎧に阻まれて通用しない。

 それでも、シオの背に跨って連射すると、数本が風の鎧の隙間を縫ってギンの白銀の体毛に届く。それでも、双頭の魔物の体すら貫けなかった矢の一撃では体毛一本動かすことは叶わずに湖へと落ちていく。


『効かぬぞっ!』

「全然届いてねぇぞレイ!」

「ッ、来るよ、シオ!!」


 シオとギンの速さは互角。

 強いて言うならば僅かにギンの方が速いが、決定的な違いとしてギンには洗練された魔法があった。


 風の神性竜種が苦手なはずもない得意中の得意な風の魔法。

 竜魔闘法に加えて風の魔法で速度を上げるギンの速さは、嫌と言う程味わった。それと同時に、レイを背に乗せてギンから逃げ回ったのも多数。


 その度に不意を突かれたパターンは百近く存在していて、その全てをシオは頭に叩き込んでいた。


「振り落とされるなよ――ッ!!」


 五年の間に成長したシオには立派な角が生えており、その角に掴まって風の抵抗を受けないように身を屈める。


 瞬間、背後から迫る本気の風の魔法。

 まともに当たりでもしたらシオでさえも無事では済まされない威力が込められた魔法に冷や汗を流すが、これまでの鍛錬とは異なるギンの本気を引き出せたことにシオは口角を吊り上げた。


 そして、それら全ての魔法を回避するためにシオは激しく身を捩らせて上空へと昇っていく。


 こんな魔法が地上で、森で乱発されれば辺り一帯は更地になってしまう。

 本気の魔法はレイとシオが予測した以上のもので、シオは避けきれずに体に傷をつけるが、それでも止まらない。


『……シオ、貴様も本気なのだな』

「当たり前だろ、くそっ……。レイが本気なんだ。俺が本気になんなくてどうするよ」

『クカカ、だが、竜気覚醒の制御がままならんようだが、どうする? ただ逃げ回るだけでは我には勝てぬぞ? ――レイ、その弓では我には届かんぞ』

「――それは、試してみないと分からないでしょ?」


 ギンよりもはるか上空に立つシオの背に立つレイから矢の雨が降ってくる。

 極度の集中状態のせいか、レイの呼吸音が空全体に響くような、不思議な感覚にギンが眉を顰めるも、降り注ぐ全ての矢を防ぐ。



『クカカ、この距離、慣れぬ空での戦闘でここまで正確に的を射抜くか……。これまでの手合わせで弓矢を使わなかったのは、全てこの時の為か? だが、その一時の術も、我の前では無に等しい』



 ギンのその言葉の通り、風に乗って届く矢如き、風の神性精霊の前では無力。



 喝、とギンの咆哮が轟くと、ギンの操るままに風が吹く。



 矢筒に入っていた全ての矢が風に阻まれ、突風にあおられ、地に落ちていく。

 これでは時間稼ぎにもならない、と慌てふためく姿をその目に映そうと上空を見上げるも、そこには変わらず、矢を番えたままのレイの姿があった。


 何を考えている、と疑問を浮かべた刹那、レイはシオの背から飛び降りた。

 空と同じ、青より青い空の色を引きながら落ちてくるそれは、瞬く間にギンに迫る。


 矢のような小さな物体を弾き飛ばすには十分な風量も、レイのような人間一人を動かすには、一瞬の溜めが必要になる。その溜めを作る隙を与えずに突っ込めば、ギンに接近することも可能である。

 その接近できたチャンスの中で最後の一本の矢を番えギンに向けるも、その矢は届かないと高をくくっているギンは避けるまでも無く、そのまま魔力の溜めに入る。


「シオ!!」

「ぶち込め、レイ!」


 瞬間、レイの合図とともにシオの竜気がレイの持つ矢に込められ、青く光を放つ。


 竜気覚醒によって人竜一体となり、より深く繋がっているからこそできる芸当に、目撃したギンの顔から余裕が消える。


 ――竜気の特徴は、放出することにある。


 竜気による身体強化が発動されずとも、有り余る竜気を放出することくらいは竜気覚醒の制御中にもできる――否、無理矢理その余裕を絞り出したのであった。


 矢自体が崩壊する寸前まで高められた竜気。

 それが放たれた時、地上で見守っていたグレイ爺までも目が眩むような閃光が起こり、ギンが起こしたわけでもない突風が上空に吹き荒れた。








「……っぱ、避けるよねぇ」








 ギンは首を傾けただけで竜気の矢を躱し、青い閃光となって矢はギンの遥か後方で燃え尽きていた。

 それでも、届かないはずだったレイの矢は、白銀の毛並みの一端を引き裂いて燃え尽きたのだった。


「――でも、届いた」


 レイは完全にギンの隙を突いたとも言える自慢の一撃が避けられたことに愚痴を零しながらも不敵な笑みを浮かべながら、ギンの冷たい視線を受けて落下していく。

 そのすれ違う一瞬、ギンの目にはレイの体から青い欠片が剥がれ落ちていくように見えた。


『ヒヤリとしたが、これで終わりか? 竜気覚醒と言うのも存外、呆気のないものだ』

「さぁね。こっからは俺にできることは一つしかねぇ」

『レイを助けに行くか? 助けに行かねば身体強化も使えない状態のレイでは、地面に叩きつけられておしまいだろう。助けに行かなければならないだろうが……、我が見過ごすとでも思っているのか』

「それはこっちから頼みたいくらいだぜ。それによ、やってみなくちゃ分からん……。と、言いたいところだが、今の俺じゃあ、まず間違いなくお前を抜くことは出来ないだろう。ってなわけで、時間稼ぎ、付き合ってもらうぜ?」


『――三秒だ』


「せめて十秒とは言われたが……。レイ、悪ぃ、無理そうだわ!!」


 眼下に向かって声を上げると、何やら叫び声が聞こえてくるが、なんて言ってるのかまではシオには届かない。恐らくは「もっと頑張ってよ!」と駄々をこねているのだろうが、ギン相手に三秒持たせられれば十分だろう。





(……相変わらず、意味わかんねぇ強さをしてやがる)





 レイがグレイ爺の指南を受けていた間、シオはギンに竜術に加えて魔力の操作も学んでいた。

 いくつかの魔法を使うことができるようになると、レイからは羨望の眼差しを受けるため乗り気で学んでいたが、学べば学ぶほど、ギンの底のない強さを知るようでとにかく恐ろしかった。


 竜気に関しては神性竜種として相応しい、レイ同様計り知れないものを宿すシオだが、魔力に関しては幻想の森に来てから初めて触れ、学んだずぶの素人に過ぎない。

 それでも、ギンの魔法技術に関してはグレイ爺は疎か、人が並び立てるのかどうか怪しい程に遥かなる高みにいるのが分かる――否、理解させられた。


 竜気や魔法に関しては、いつかグレイ爺が述べたように才能が全てではあるが、才能ある者のスタートラインは誰もが同じ。それは人であろうと亜人であろうと魔物であろうと、幻想種であろうとも同じ。

 初めはギンも、シオと同じ位置にいたはずなのだ。

 それから先は、努力の伸び代次第。それは個々で素養の僅差が多少あれど、竜気も魔力も必ず努力すればするだけ答えてくれるものであることを知っているからこそ、シオもまたレイと同じように傷付いては転んで、挫折して立ち上がってを繰り返してこの五年間を過ごしてきた。レイの前では何の気も無しに振舞っていたが、龍、幻想種の身であってもそれは苦痛に満ちた修行の日々だった。


 けれども、グレイ爺のような人間という限界が定められた枠の中で、人類最高峰の力、竜魔闘法を生み出したのも、努力。

 そしてレイもまたグレイ爺に並ばずとも劣らないまでに弓矢に体術のスキルを育て上げられたのも、起きている時間のほとんどを鍛錬に、修行に注ぎ込んだからこその成果であり、そこにシオというブースターを得て、竜気覚醒にようやく手が届く。


 そこまで時間をかけて手に入れたものが今こうして自信に繋がっているのだが、果たしてどれだけの時間をかけ、どれだけの努力をひたすらに続ければシオの魔法の技術はギンと同じ域に到達するのかは、想像もできない程にギンは遥か高みに座していた。



 竜気覚醒が竜術の頂点にあるとすれば、ギンの魔法は竜気覚醒と同じ域に匹敵する程に極められたものだと頭にも体にも刻まれている。


 だがしかし。

 だからと言って今ここで諦める理由には決してなり得ない。


 いつの間にかレイの諦めの悪さが自分にも移っていたみたいだ、と笑うシオを見て、ギンは訝しく思う。



 ――三秒? 上等だ。死ぬ気でギンの予想を上回って、レイの期待に応えてやる。



 レイが十秒頼んだと言う事は、シオなら出来ると言う信頼の現れ。

 愛する相棒にそんなことを言われては、応えてあげない訳がないだろうから。

 それこそが、レイの兄貴分のあり、レイが信じてやまない相棒としての矜持だから。


 高みに存在するギンの魔法にもそれ相応の努力が、時間が費やされているのだろうけれど、シオにだって譲れないものがある。レイの期待に応えないわけにはいかねぇんだ、と意気込んでギンを見据える。









 ――次の瞬間、遥か高みに存在するギンの本気の魔法が、シオの眼前に展開される。









「……殺す気か?」


 乾いた笑いが出てくるのは、その魔法にシオに対する殺意が込められていない事、非致死性の威力に留められているのが分かるから。


『安心して眠れ。愛弟子を殺めるほど、我はお前を恨んではいないからな』


 非致死性とは言え、この数に滅多打ちにされればどんな魔物も生を諦めるだろう。

 それだけの数を前に、シオはどこか嬉しそうに口角を上げる。


 それは、グレイ爺を遥かに凌ぐ実力を誇るギンに愛弟子と呼ばれることの誇らしさが込み上げてきたから。

 ギンは自分が展開した本気と言っても過言ではないこの魔法の乱打の中、シオに生き残って見せろと言っており、加えて、間違いなく生き残るだろうと確信している様子が、魔法の嵐の向こうからヒシヒシと感じられる。


 誇らしき師匠、魔法の極地に佇むギンに期待されているという事実を前に、シオは心が高揚するのを感じる。





 ――轟。





 一秒にも満たない会話の後、ギンがシオ一人に対して過剰なまでの魔法の暴力を降り注がせる。


 時に暴風、時に飃風。

 四方から押し潰さんとする気圧の壁も、鱗に守られた肉体を容易に引き裂く風の刃も竜巻も。


 それらすべての魔法を、シオは避ける、躱す、受け止め、時に相殺させる。


 だがそれも、ギンの宣言した三秒を過ぎてから被弾が増え始め、五秒、六秒と続く頃にはシオは全身を滅多打ちにされ始める。

 全身から血を流し、意識が朦朧とする中でも、シオは決して竜気の制御を誤らずに自身の中で渦巻かせ続ける。


 神性竜種が使う、竜気の多さに物を言わせるブレスを吐くのかと警戒していたギンだったが、身を守るための魔法も使わずに驚異の反射速度の身で魔法を避け続けたシオに違和感を覚え始めた頃、口端からも血を垂らしたシオの体から突然、竜気が薄まったのを感じ、慌てて魔法の発動を止める。

 その体では受けきれない、愛弟子を殺してしまうから。


 直後、魔法の雨が降り止んだ向こう側で、天を仰ぐシオははっきりと笑って見せた。



「……きっかり八秒。持たせてやったぜ」



 それはギンに誇るように、誰かに言い聞かせるように呟かれた瞬間――世界が制止したかのような感覚がギンを襲う。









 ――竜気覚醒。真名解放、空を導く龍(シエラルゼア)









 耳元で囁かれたその言葉の直後、ギンの視界を青い欠片の行列が遮る。


 ザァッ、と音を立てて横切るそれが掻き消えると、目の前にいたはずのシオの姿も消えていた。


 だがその直後に、ギンの耳にシオが会話する声が届く。


「レイ、持って後三分ってとこだぜ」

「――いや、正直あと一分でもキツイんだけど……!」


 ギンの眼下には、空に溶け込むような青き輝きを放つレイとシオが苦しそうに汗を流しながらギンを見上げていた。


『……無限に近い神性竜種の竜気を人の身に降ろして尚も人の形を保っているのは奇跡としか言えないだろう。だが、それも幾許かの猶予も無さそうだ。確かに、その竜気覚醒の神髄であれば我に勝てるやも知れんな。流石は人と幻想種が起こす奇跡、世が世なら(ゼア)の奇跡と称えられよう。だが――』


 レイの体に内包する竜気はグレイ爺もギンも凌ぐほどの量。だがそれも、レイ個人では半分程度しか制御できるに至っておらず、今目の前に降臨する竜気そのものを制御しているのは、紛れもなくシオであった。


 シオがギンの魔法を竜術も魔法も使わずに凌いだのには、自分とレイの二人分もの竜気を制御するのに集中していたからだった。

 星を揺るがす程の竜気がレイの体に降りている状態は、誰が見ても苦痛を伴う様子で、普段のレイからはかけ離れた風貌で息を吐く。


 逆立つ黒髪はいつか付けられた生涯消えぬ傷跡を晒し、琥珀色の瞳は今や黄金の輝きを放つ。

 竜気の影響はそれだけに留まらず、レイの手足を、首を、頬を人の形からかけ離れるようにして青色の、天色の鱗が生えては剥がれてを繰り返す。それこそが竜気は人の身に余ることの証明であり、シオの制御があって尚もレイの体を食い破らんと竜気の浸食が進む。


 それでも、ギンとグレイ爺を合わせても全く持って足りない程の規模の竜気をその程度の浸食で留めている事実にギンは驚愕する。

 シオは正しく片手間でギン相手に八秒持たせたのかと、手加減ありきの無謀な作戦を見抜いて思わず笑みが零れる。


 今尚成長途中のレイとシオ。その二人が人竜一体となって発動して見せた竜気覚醒。

 グレイ爺は地上で、興奮のあまりわなわなと震えているが、ギンもまた二人の未来、完成された竜気覚醒を思うだけで体の昂ぶりが止まらなかった。


『――だが、若輩に、生まれたばかりの童に負けるほど、我も老いたつもりはないぞ』


 レイもシオも、肉体の維持で手一杯な状況でギンは間合いを詰めてくる。


 既に限界近いレイとシオが竜気覚醒を使えるようになったのは、僅か半月前。

 グレイ爺にもギンにも黙って鍛錬を重ね、この時のために死に物狂いで鍛え、使い物になるまでに至った。


 (ゼア)の名を知り、真名を解放できるようになって間もない時間で発動にこぎつけただけでも優秀極まりないのだが、それだけでも十分に優れた成果だろう。

 だが、レイはここまできて、やっぱりできませんでした、ではグレイ爺の願いを叶えてやることは出来ない。本気で戦ってくれているギンにも立つ瀬がない。


 慣れない体に屈したところで、グレイ爺が苦言を呈することなんてないことは分かっている。

 どんな小さなポイントでも見つけて、褒め称えてくれるに違いない。

 だが、グレイ爺の願いを叶えられず、後悔を残す結果を、レイ自身は絶対に受け入れられない、許せない話だった。


 鱗が剥がれ落ちて生じる苦痛から強張っていた全身を弛緩させると、竜気の浸食が強くなっていくも、それらはシオに丸投げして、空を駆るギンをその目で捉える。


 竜気の身体強化とはまるで違う、自分自身が竜気になったかのような不思議な感覚の中で、レイは自然と力の使い方を知る。それはまるで初めから知っていたかのように、シオに説明されるでもなく、体が動く。



「――空爪ッ!!」



 水面ではなく、大気を固定して生み出した足場を固定し強く踏み込むと同時に、大きく振り被った右腕に急速に竜気が集まっていく。


『っ!?』


 目の前に迫ってくるギンに向けて竜気の塊を投げつけるかのように振るった腕を見て、ギンは咄嗟に身を守る魔法を構築するも、迫る巨大な五本爪が空を裂く。


 風の鎧は竜気によって削ぎ落されるも、咄嗟に体を動かしてその攻撃を避ける。

 避けきれなかった白銀の毛並みが空を散るも、真正面から受け止めてしまえば深い傷は免れなかったことだろう。そして眼下を見てみれば、レイが振り下ろした五本爪が触れた木々が粉砕され、見事なまでに五つの道が出来上がっていた。


『末恐ろしいな』


 魔法で更地にできるギンがそう言って無傷で姿を現すと、続けて風の魔法をレイに向かって放つ。

 当然レイも無防備なままそれを受けるはずもなく、振り下ろした右腕ではなく、空いている左手を宙にかざす。


 また同じ技がくるのかと警戒を示すギンだったが、此度の左腕に竜気は感じられずに、レイはピンと立てた二本指をまるで指揮棒かのように振るった。


 すると、常にレイの体から剥がれ落ちる天色の鱗、地上に落ちていったはずの青い欠片たちがギンの魔法を数の暴力でかき消す。

 目の前にそり立った青の壁は魔法を弾き返すだけに留まらず、その勢いのままギンの身に迫っていく。

 攻撃と防御を同時にこなす天色の鱗たちはレイの体の一部のように華麗に舞い踊り、ギンを追い詰めていく。


 ザァッ、と迫りくる数多の鱗を鬱陶しく感じたギンは、風を弾けさせる要領で何倍にも増幅させた咆哮を放ち、鱗を弾き飛ばした刹那――、勢いの失せた鱗の中から竜気を纏った人影が現れる。


 さしものギンでも、竜気そのものである鱗の中に紛れたレイを感知するのは困難を極めるもので、鱗と共に運ばれてきたレイの掌には、想像を絶するほどの竜気が渦巻いていた。










「――破空……っ、竜掌波ァッ!!!」










 避ける間も、魔法を発動させる隙も与えぬまま、レイはその手に宿した竜気を、躊躇なく打ち放つ。


 直後、広大な森の上空から、雲が消えた。





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