67 竜騎士団3年目 新人集合研修6
腕輪からの光が収まると、ケイは自分がもといた洞窟の中にいることに気づいた。
となりには雷鳥。
「ガァ―」
さっさと取れ、という感じで雷鳥が鳴声を上げる。
腕輪はケイの目の前、もとの台座の上にそのまま残っていた。
恐る恐る手を伸ばして拾い上げる。今回は何も起こらずそのまま手に取ることができた。
華美な装飾や宝石のようなものはない、単純な金属のリング。内側には何か文字が刻まれている。
が、ケイの知らない言語であり、読むことはできなかった。
「……ま…………いいか」
ケイは腕輪をもって祠の出口へと歩き出した。
薄暗い祠から出たケイは眩しさに目を細めた。
外は晴天。離れた場所に2つの人影が見える。青年とカイ団長は並んでこちらを向いていた。
「カイ団長?どうしてここに?今日は用事があったんじゃ……」
「ああ、まぁ、野暮用でね」
「野暮用……って、やっぱりアレは試練だったんですね。色々と都合が良すぎると思ったんですよ!」
抜き打ちでテストを受けさせられ、自然と口調が強くなる。
とはいえ、ケイも本気で憤慨しているわけではない。今回の出来事のおかげで壁を越える糸口が見つかったのだから。
「試練といえば試練なんだが……」
一方のカイ団長の答えははっきりしない。奥歯に物が挟まったような言い方だ。
そこで青年が会話に参加してきた。
「おめでとう。無事腕輪を確保できたようだね。いや良かった良かった」
鎧熊の子供を背負った状態でケイに向かって拍手。
シュールな光景だ。
「あの、貴方は一体何者ですか……?他騎士団の方ですか?随分若いようですが……もしかして暗部の方?」
「ケイ、この方は」
カイ団長が説明しようとしたのを青年が手を上げて止める。
「改めて、自己紹介しよう。私は‘勇者’。よろしく」
青年はサラっと自分の正体を口にした。カイ団長は何とも言えない表情をしていた。
「勇者……ですか」
「あれ、あまり驚かないね。実は予想してた?」
「驚いています。理解が追い付いていなくて、表情に出ていないだけです」
「そう?うん、ポーカーフェイスは得意なのかな」
気さくな感じで、青年改め勇者はケイへと近づき右手を差し出して来た。握手の姿勢。
ケイも手を伸ばし、手を握る。
「ん」
「!?!」
手を握った瞬間、勇者の雰囲気が変わった。これまでの人生で感じたことのないレベルの敵意を感じる。
蛇に睨まれた蛙のごとく、ケイは身動きできなくなった。握った手を通して何かが体の中に侵食してくるような感覚。
手は固定されて振りほどけない。背筋が一瞬で凍えた。
カイ団長が動こうとしたようだが、先んじて勇者が何かしたようで、腰の剣に手をやった姿勢で止まっている。
「まぁ、こんなものか」
その声と同時に手が離され、プレッシャーが霧散した。
「っ……はぁ、はあ」
思わず呼吸が止まっていたケイは荒い息で空気を取り入れる。足元がふらつく。
勇者はそんな様子を微笑みをうかべながら見ていた。
「君たちにお知らせだ。今日は前哨戦で、あと半年以内に本番が来る。申し訳ないが、そのとき私は手を出せない。竜騎士団員なら皆を守ってみせてくれ」
ケイには勇者が何を言っているのか全く理解できなかった。
「その腕輪は返してもらう。あとは……この子たちは私が面倒を見よう。大丈夫、今日一日大人しくしているよ」
鎧熊の親子たちを見ながらそう言った勇者は、雷鳥の方を向いた。
「君は……そうか、好きにするといい。ケイ君、この子は君と一緒に行きたいそうだ。よければ面倒を見てあげて。……じゃあ、またいつか」
勇者は好き勝手に自分の都合を喋ると、そのまま消えてしまった。
文字通り、姿が薄くなると、消えてしまったのだ。
鎧熊の一家も一緒にいなくなっていた。
「転移魔術」
団長が呟く。
転移魔術は帝都の魔導検収書でも研究されているものの、実用化までは至っていないはず。勇者はそれを使用できるということか。
「……色んな意味で、規格外の存在ですね」
「勇者はこの国ができたときには既にいたと言われている。どれだけの年を重ねたのか分からないが、既に人という種とは別の存在になっているのかもしれない」
「団長は面識あったんでしたっけ」
「帝都で一度ね。今日はその時の何倍も話をした……会話として成立していたかはあやしいけど」
団長はケイの近くに歩み寄ってきた。
「大丈夫だったか?」
「はい。なんとか」
「中で何があった?完全に気配が消えていたが」
「幻術にかかっていた、と思います。……これは私への抜き打ち試験ではなかったのですか?」
「そんな試験は予定していなかった。完全に事故だ。何があったのか、最初から教えて欲しい」
ケイは今日、勇者との遭遇から先ほど祠を出てくるまでの出来事を口頭で説明した。
祠の中、獣が現れた話をしたところで団長の表情が変わった。
「影が凝り固まったような黒い獣、金属質の鳴き声か」
「はい。ご存知ですか?」
「8年前、魔国による大規模侵攻作戦、その関連資料でそんなのを見た気がする。戻ったら記録を漁ってみてくれ」
「過去の討伐記録ですか?」
「いや、討伐記録ではなかったと思う。竜騎士団がそんな特徴的な魔物を討伐していれば私の印象に残っているはずだから、列島領で処理された個体だったかもしれない。いずれにせよ、マヤに調査を依頼すれば何かわかると思う」
「了解です」
その後、獣を斃した方法についてケイが説明すると、団長はまた表情を変えた。
笑顔がみえる。
「そうか、累加領域を習得したか」
「習得したとは言えませんが、意図して領域に入ることができたのは間違いないです」
「どういうことだ?」
「この鳥の協力で、何とかなったので……」
ケイは傍らの雷鳥を示しながら、事情を説明した。
全属性魔術変換を自分で行うことはできなかった、雷鳥の魔術を流用して自分の魔術に組み込んだということを聞き、団長は驚いた様子だった。
「魔物が使った魔術を取り込むなんて聞いたことがないぞ」
「でも、出来たんです」
「疑うわけではないが……いや、勇者が何か細工したと考えた方が自然か」
団長は雷鳥にちらっと眼をやった。
「さしあたって、雷鳥をどうするかだな」
「ですね」
雷鳥は首をクイっと曲げた。
「挨拶してる?」
「ガァ―」
「みたいだな」
ケイは続けて訪ねてみた。
「お前、言葉がわかるのか?」
「ガァー」
「翼広げてみて」
「ガ」
「その場で2回回って」
「ガ」
いずれも言うことを聞いた。
「大丈夫みたいです。どうしましょう」
「面倒をみるように言われたからな。連れて帰ってもいいだろう。飛竜舎で管理すればいい」
「分かりました。頼むから大人しくしてくれよ」
「ガ」
静かになった雷鳥を見ながら、個性的なモノが仲間になってしまったと感じるケイであった。




