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57 竜騎士団3年目 定例ミーティング

歓迎試合から一週間ほど経過した日。市長室にはいつもの面々、市長、団長、ケイの姿があった。

応接机を囲み定例ミーティングが始まる。


「新人はその後どうだ?自信を失ってはいないか?」


市長の最初の言葉はナツキの現状を心配するものだった。答えるのは団長。


「変わりはない。少なくとも表面上は」

「そうか。本人の気持ちだからな。我々には推測しかできないか。・・・やりすぎだったのではないか?」

「そこは反省している・・・」


市長にはフウカ受け入れ初日に発生した歓迎試合のことは既に報告済み。

結末を聞いた市長はナツキのメンタル面を心配していた。


思いの他短時間で決着した歓迎試合1回目。

2回戦目も結果はフウカの勝利。


再びのナツキの希望により泣きの一回、3回戦目が行われたが、これもフウカの勝利に終わっていた。

ナツキにとっては初めての本格的な対人訓練が3連敗で終わることになった。


実際のところ、3試合目は団長も渋ったのだ。


2試合目、ナツキは1試合目の反省を生かして戦い方を変えたものの、経験の差か、それを上回る勢いでフウカが上手に対応したため、1試合目と同程度の試合時間で決着がついてしまった。


さすがに3試合目になるとフウカも空気を読んでナツキに勝利を譲るか、とも思ったのだが、そんなこともなくフウカはそのまま完封勝ちをしてしまった。


「資料によると、彼の学校での対人戦闘の成績は極めて優秀。ほぼ敵なし状態だったようだ。社会人になって最初の洗礼としてはいささか強烈だったな」


ケイが口を挟んだ。


「彼は真面目に基礎訓練をしています。負けたのはショックだったかもしれませんが、心が折れたりはしていないと思います」

「だといいが。人の心は外からは見えない。取り繕うことだってできる。どういった影響があるかは後々になってみないと分からないから、注意してほしい」


市長のコメントに対し、団長が答える。


「当然、フォロー、教育はこれからも続ける」

「彼は今日何を?」


「レイジと一緒に討伐任務に出ている」

「大丈夫か?」

「今回は山奥が現場だ。討伐対象のランクも低い。純魔導士としての特殊個体討伐方法を理解してもらうには、やはりレイジに頼むのが一番いい。市民からの苦情がないであろう所を選んであるので存分に特殊個体討伐がどういうものかを学んでもらう」

「ま、いいだろう。任せる」


市長は話題を変えた。


「で、彼にトラウマを植え付けたかもしれない女史の方は竜騎士団に馴染んでいるか?」

「馴染んで・・・いるな。意外にも」


フウカの方は、あの以降も特に問題などは起こさずに竜騎士団事務所で業務をこなしている。

ただ、最近は時間を見つけてはフラフラと市庁舎の色々な部署に顔を出しているらしい。


ケイの同期の他騎士団メンバーからの情報やマヤの庶務ネットワークによってフウカの行動はある程度把握されている。

あとはユリの部屋で何やらやっているようである。


今のところ人間関係という意味での問題は発生していない。

市長が感慨深げに言った。


「彼女も丸くなったということか」

「卒業から10年以上経った。人が変わるには十分な時間だ」

「そうだな。聖騎士団が彼女を送り込んできた理由は何だと思う?」

「戦闘力が高くて竜騎士団メンバーと面識のある人物、という意味での選定だろう。他騎士団の受け入れ人員はどうだった?」

「他出向者についても各々受け入れ先に顔見知りはいた。それも、比較的関係が良好な人物が」


今回が交流初回ということもあるのか、既にある程度人間関係が構築されてる人物を送り込んで来ているのだろう、と市長は説明した。


「こちらにも思惑があるように聖騎士団むこうにだって思惑はある。ただ、この交流を失敗させたくないのは共通認識だ。そういう意味で彼女が選ばれたのは悪くない」

「受け入れる側は苦労するけどね・・・」


団長の言葉には実感がこもっていた。


この一週間、団長は毎晩フウカとユリに拉致されていた。

フウカはお酒が好きでめっぽう強い。


初日はいつものお店で歓迎会が開かれたのだが、フウカはその場にいる誰よりも酒を飲んでいた。そのくせ顔色が全く変わらない。2次会に行くということで二人に引きずられる団長はドナドナされる子牛のようだった。


「そういう面では彼女は相変わらずか」

「変わってないな。少なくとも表面上は」


ケイは市長の言葉が気になった。


「市長もフウカさんと面識があるのですか?」

「学生時代にちょっとな」

「だからフウカさんが竜騎士団への出向者に選ばれたということでしょうか」

「市長の影響がないとは言わないが、大きな理由はやはり私がいるからだろう」


2回目の質問に答えたのは団長だった。


「団長の・・・」

「私は昔からあの二人が起こしたトラブルの後始末をさせられていたんだ・・・」

「・・・」


団長たちの関係性が察せたところで市長の注釈が入る。


「それは前竜騎士団長の影響が大きい。カイは親父さんにあの二人の面倒をみるように言われてそれに従っていた。別にいじめられていたとかではないぞ」

「あ、はい」


市長は続けた。


「彼女は武闘派。なのに直近では事務処理部署に所属していた。何かやらかした、というところまでは分かっているが・・・カイ、何か聞いているか?」

「去年度の聖地侵攻事件、あれの関係らしい。行方不明の聖騎士団員が直属の部下だったとか。そういう意味で今回の出向は聖騎士団むこうにとっても渡りに船だったんだろう」

「そうか。私としては、ケイが共闘したという聖騎士団が出向者として来ると思っていた。当たらずとも遠からず、ということか」

「だな」


ケイもコヨミが来るのではないかと予測していた。

コヨミ姉妹が自宅を訪問してきたとき、そんなことをほのめかしていたいたからだ。


コヨミは聖地で鬼たちを相手に互角以上に戦っていた。下位の特殊個体であれば対処できると思われた。

一方のフウカはというと・・・


「実際、フウカさんに討伐任務を任せるつもりですか?」

「何か不安点がある?」

「不安点というか・・・まだ実力が見えていないので私としては判断できなくて」

「そうだろうね」

「新人に圧勝したのだろう?その程度では竜騎士団としては許可できないか?」

「それは・・・」


ケイは先日の歓迎試合を思い出した。


フウカは確かにナツキを完封したが、ケイが可能性を感じたのはナツキだった。熟練者レイジと比較するとまだ荒削りな魔術。多少反応に遅れがあり、スキの大きな立ちまわり。今は弱いかもしれないが、彼には伸びしろがある。


一方のフウカは、なんというか、完成されているように見えた。

自分が言うのもなんだが、形通りというか、綺麗にまとまっているというか。


聖騎士団の使う剣の特殊性と、ナツキが無意識に遠慮していたから拾った勝ちであり、フウカの実力がナツキよりも極めて高い、というわけではないというのがケイの見立てである。


「竜騎士団は何をやって来るか分からない特殊個体と戦います、団員には咄嗟の判断とそれを実現するための実力が必要という意味で、ナツキ君のほうを評価します。フウカさんは良くも悪くも対人特化の騎士団員という印象を受けました。3連勝というのは相性による結果だと思います」

「カイの意見は?」

「基本的にはケイの意見に賛成だ。あの試合だけで判断するなら。ただ・・・あのときは‘典型的な聖騎士団’としての戦いを依頼したから。彼女本来の戦い方を一度確認する必要がある」


「本来のフウカさんの戦闘スタイルは違う、ということでしょうか?」

「学生時代のスタイルではなかったね。彼女はもっと、忙しい戦い方をしていた」

「忙しい、ですか」

「手数で攻める感じだね。一撃の重さではなくて速さ重視、連携攻撃で一方的に相手を攻める。それが悪いわけではないけど、厳しい言い方をすると、自分よりも格下にはめっぽう強いけど、格上に対する逆転劇が成立しにくい戦い方だ」

「なるほど・・・」


何となく納得した。


「討伐対象を適切に選べばフウカさんも討伐任務をこなせると思う。心配ならば、ケイも一度試合してみるといい」

「わかりました」


市長はカップのお茶を飲み、一拍置いてから口を開いた。


「”天狐”の情報はどうだ?」

「進展なしだ」

「そうか」

「タイミングを見て話をする」


団長も目の前のお茶に口をつけた。

ケイもつられて目の前のお茶に手を伸ばす。今日のお菓子は水まんじゅう。


その後、定例の報告をしてミーティングは終了した。


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