56 竜騎士団3年目 歓迎試合
1時間後、屋外の戦闘訓練場に竜騎士団の面々の姿があった。
「ううん。この感じ。久しぶりだわー」
「本当にやるんですか・・・?」
中心部で相対しているのはフウカとナツキ。
どちらも竜騎士団用の戦闘服を身に着けていた。
準備運動として体を左右にひねるストレッチをしているフウカに対し、ナツキは未だに気分が乗らないようだ。準備運動もおざなりな感じである。
初めての実践型式訓練が一回り年の離れた聖騎士団出向者。ナツキの困惑はよく分かる。
ケイとしては、先ほどフウカがこの訓練を希望したとき、団長が止めてくれるものばかり思っていた。
そんな予想に反し、団長は一点注文をつけただけで訓練許可を出し、ナツキを相手にすることにも異議を唱えなかった。
団長はフウカさんに弱みでも握られているのかと思ったが、そういう雰囲気でもない。
「聖騎士の戦い方か。参考になるかもな」
ケイの隣で観戦しているのはケンイチ。
周囲にはケンイチだけではなく、ルイやレイジの姿もある。
先ほど解散した竜騎士団員全員が改めて集合していた。全員興味があるらしい。
「では、ナツキとフウカさんの模擬試合を行う。範囲はこの訓練場。命に係わるような行為は禁止。戦闘不能になるか、降参するか、‘危機一髪’が発動した時点で終了」
‘危機一髪’は最近開発された。いわゆる身代わり人形のこと。
あらかじめ発動範囲と対象者を登録しておくことで、対象者が受ける大ダメージを一回だけ肩代わりしてくれるものだ。
「こんなものがあるとはね・・・早速最新技術を私に開示しているわけだけど、いいの?」
フウカさんは訓練場の外に置かれた等身大マネキンを示しながら言った。
個人携帯できるようなものではないので討伐任務では使えないが、訓練で使うのであれば非常に便利な代物だ。
「できれば、内緒にしておいてほしい。ユリさんの努力の結晶だから、少なくとも魔術特許取るまではね」
「まだ試作品だから色々制約があるの。欠点がある程度解消されてちゃんと使えるモノになったら公にするつもり・・・お願いできない?」
団長とユリさんが答えた。
「ま、わたしも半年は竜騎士団所属なわけだし。元巣への報告書には何も書かないでおくわ」
フウカさんは軽い感じで返答した。
「それより、私は聖騎士団員らしい戦い方をするんだっけ?」
「そう。お願いできる?」
「また漠然とした注文だけど・・・やってみるわ」
「よろしく」
納得したフウカに対して、いまだ納得していないのがナツキである。
「不満かい?」
「そういうわけではないですが・・・あまりに急すぎるというか・・・」
新人として団長の指示には逆らいにくいが、本人としてはやりたくないという気持ちが透けて見える。
「代わりましょうか?」
「いや、今回はナツキにお願いしたい」
ケイの申し出は却下された。
「戦闘訓練は学生時代にもあっただろう?基本ルールはそれと同じ。手加減不要だ」
「ですが・・・」
「大丈夫。この結果は評価対象ではない。胸を借りるつもりでやるといい」
「・・・わかりました・・・」
しぶしぶではあるがナツキも納得したようなので、二人以外は訓練エリアの外に出た。
「それでは、はじめ!」
団長の合図により、戦闘訓練が始まった。
相対する二人は対象的。
女性としては背が高めのフウカに対して、男性としては背が低めのナツキ。
フウカの獲物はシンプルなショートソード。鍔にあたる部分が小さいのが特徴。
ケイが普段使う騎士団の正式採用剣よりも短いその武器には見覚えがあった。
聖地でコヨミが予備の剣として使ったものと同じだ。
「あれは聖騎士団の備品でしょうか?」
「でしょうね。わざわざアレを持っているということは、フウカとしても一般的な聖騎士としての戦い方を見せてくれる気なんでしょ。フウカが得意なのはもっと短いナイフのような刃物だったはず。私の知る限りはね」
「聖騎士団としての戦いを可能な範囲で見せるようにお願いしたからね。フウカさんの私物を使ってしまうとどうしても彼女の得意な戦い方、固有技術に話しが及んでしまう。それは今回の目的ではないから」
ユリと団長の言い方だと、二人はフウカの戦闘スタイルを知っているようだ。
昔馴染みなのであれば当然か。
一方のナツキはというと、自分の身長と同じくらいの杖を持っていた。
一部、複雑な彫り物が施された箇所があり、そちらを上に向けていた。
「あっちはナツキの私物。学生時代に使っていたものらしい」
「ユリさん、彼の武器はまだ準備していないんですか?」
「一回実際に戦い方を見た方がいいと思ってね。そういう意味でも今回はいい機会なの」
「なるほど・・・あれ、自分はそんなこと聞かれませんでしたけど・・・?」
2年前のケイは何も言わずに正式採用剣を渡されていた。
「ケイはそういう得物についてのこだわりがないということだったし、戦闘技術は基本に忠実なものだったから」
「それはそうですが、ちょっと寂しいです」
「この2年でケイも成長したし、専用武器に持ち替えてもいい時期だと思う。剣よりも相性が良い武器がありそうだし・・・いや、今は二人の様子を見る方が優先だ」
「はい」
ケイたちは相対する二人に視線を戻した。
二人の間の距離は5メートル。
現時点ではどちらに有利とも言えない間合いである。
普通に考えたら、純魔術師であるナツキはもっと距離を開けたいし、フウカがコヨミと同じように剣術による戦闘を行うのであれば距離を詰めたいはず。
開始の合図以降お互い動いていないのは遠慮しているからなのか。それとも各々の思惑によるものなのか。
外からわかる動きを先に見せたのは以外にもナツキだった。
ナツキの身体に力が巡りはじめた。自己強化特有の反応である。
おそらくは反応速度上昇効果のあるものだが、ケイはその様子に違和感を覚えた。
一方のフウカは右手にショートソードを握った状態で左手を前に向けた。
開いた手の平と同じくらいの小さな陣が浮かぶと、次の瞬間、赤い光が発生した。
光はナツキに向かって一直線に突き進むが、直撃する前に魔術防壁によって防がれた。
ピンポイント防壁。着弾場所まで見切っている。
ケイはフウカの放った光に見覚えがあった。聖地でミコトが放った光と似ている。
「あれは赤光。火属性と光属性の複合魔術。着弾の速さと破壊力の適度なバランス、使い勝手がいい魔術のひとつだ」
普段は口数の少ないレイジが少し早口で解説してくれる。魔術オタクだけあって一目でネタを見破っている。
「防いだのは中和防壁の亜種。反対属性をぶつけて無効化したようだな。着弾までの時間で攻撃魔術を解析していたということだ。なかなか」
レイジが解説しているうちに事態は次の段階へと移行していた。
ナツキがバックステップによって距離を開けると同時に反撃の魔術を発動。
風が渦巻き、直径1メートル程度のつむじ風・小竜巻がナツキとフウカの間に発生した。
小竜巻は不規則に少しずつ場所を移動しており、近くを通過するにはリスクがある。
フウカもそう判断したようで、渦巻く風を大回りで回避しながらナツキに向かって移動を開始した。
小竜巻が移動し、同時にナツキも移動。
ナツキとフウカを結ぶ直前上に小竜巻が存在するように位置取りをしている。20メートル近くの距離が開いた。
順魔導士であるナツキに有利なレンジだ。
「小竜巻を防御に使うか。悪くない」
レイジは簡単に言っているが、そもそも竜巻は風属性の大魔術に分類される。
普通なら建造物攻撃用に使われるものだ。
小さいため必要な魔力量は軽減されるとはいえ、発動難易度は変わらない。
小竜巻を維持しつつ、それを自由な場所に移動させるには魔術操作の技術の高さが必要となる。
ケイが感心している間に、フウカが急速にナツキとの距離を詰めた。
小竜巻の移動速度に目星をつけたのか、そこまで大回りするわけでもなく脇をすり抜けるかに見えたが直前に方向転換。再び距離を取った。
フウカが直前までいた場所には光の玉が飛んでいた。
合計4つの拳大の光球。爆発系の魔術特有の術式で、接触により起爆するタイプ。
ナツキは竜巻に加えてこの4つも自由に操作していた。
「堅い防御ですね」
「接近ルートを絞って、そこに地雷を設置する。いやらしいが有効な戦法だよ。ケイならどうする?」
「そうですね・・・」
団長の問いにしばし考える。とりあえず、竜巻を粉砕するか光の玉をつぶすか。
・・・我ながらゴリ押しだな。
いくつか突破方法は思いつくが、フウカはどうするのだろう。
解答はすぐに示された。再び放たれた赤光が光球の一つにぶつかり、爆発が起きた。
先に地雷を処理することにしたらしい。
光球の移動速度と赤光の照射速度では後者の方が上。フウカから見て竜巻の右側、そちらで全ての光球を起爆させる。舞い上がった土煙が一瞬互いの姿を隠したのを見計らい、フウカが移動を開始。
一方のナツキも視界を確保しようと思ったのか、小竜巻が急激に範囲を拡大し土煙を吹き飛ばして消えた。同時に再び光球が現れる。
見通しのよくなった視線の先にフウカはいない。
ナツキの想定とはズレた場所から小型の投げナイフが一直線に飛ぶ。
「っ!」
咄嗟に体をずらしてナイフを躱す。体制の崩れたナツキのさらに右方よりフウカが接近。
光球が迎撃に飛ぶが、今度はフウカが剣を振るい光球を両断した。
斬られた光球は爆発することなく霧散。
ナツキが体勢を立て直し再び距離を取ろうとするよりも先に、その首元にはぴったりと剣が突きつけられていた。
「・・・参りました」
さすがにフウカが直前で剣を止めたことは分かるのだろう。
降参の宣言により、試合は終了した。
「そこまで」
団長が声を変えて近づいていく。
フウカは剣を鞘に納めた。一方のナツキは悔しそう。
「二人とも、どうだった?」
「まぁまぁね」
「・・・お強いですね」
団長の問いかけにたいして二人が端的に感想を口にした。
ケイもナツキと同じ感想を抱いた。
とはいえ、ケイの見積もるところだと、フウカは今の自分であれば負けない。入団1年目の自分であれば負けていたかも。というレベル。
周囲で見ていた竜騎士団員も各々思うところがあるような雰囲気だった。
「では、これで歓迎試合を終・・・」
「もう一回、お願いします」
締めようとした団長の声を遮り、ナツキが再選を申し出る。
「・・・」
ナツキを見た団長はフウカに視線を移した。
フウカは頷き、了承の意を表した。
「・・・時間はあるし、‘危機一髪’は残っている。この際だから、もう一試合しよう」
ナツキとフウカ、二人を残し、再び団員達は訓練エリアの外に出る。
2試合目が始まった。




