49 竜騎士団3年目 新年度1日目 組織の定義づけ
新年度初日、市庁舎には今年度の新人達が続々と登庁してきた。
今年は例年とは異なり竜騎士団詰所にも多くの新人が押し掛ける、ということはなかった。
市庁舎に溢れる新人たちを横目にケイは竜騎士団詰所までやってきた。
扉を開けると、中ではいつものごとく団長とマヤが既に着席している。
当然、新人の姿はない。
「おはようございます」
「おはよう」
「おはようございます」
出席札をひっくり返す。
先週までツララが座っていたケイの隣の机には、今はなにも置かれていない。分かっていたこととはいえ、少し寂しい。
「今年の新人はいつ来るのでしょうか?」
空き机を挟んで座っているマヤに聞いてみる。
「新卒の子なら2週間後、だね。聖騎士団からの出向者はもう少しあと」
「あ、予定分かったのですか?」
「今日スケジュール公開ってことで、総務人事からこれが届いたの」
マヤから手渡された紙には、新人の名前と新人研修のスケジュールが記載されていた。
「ようやくですか。新年度初日に配布とは、人事、竜騎士団にも新人がいることを忘れてたわけではないですよね?」
「他の庶務さんたちにも聞いてみたけど、例年こうみたい。人事異動も発令が2週間前。民間なら1か月前にオープンのところもあるらしいのに、市役所は未だにこうなのよね」
苦笑するマヤの顔から、紙へと視線を移す。
「共通教育で2週間ですか。最初の新人研修期間としては、こんなものなんですかね。他の騎士団は1か月近く研修期間あるみたいですけど」
「後半は座学じゃなくて所属によって変わる実地訓練みたいなものらしいから、竜騎士団にとってはこれでいいのかも。今年からの試みだし、最初はこんなものじゃないかな」
「そうかもしれませんね」
手元の紙、名前欄には一人の名前が記載されていた。
今年度、竜騎士団は1名の新人を迎える。
この情報だけは半月前には分かっていた。
去年、一昨年と新人を受け入れることになっていたにもかかわらず、受入当日まで詳細を知らされていなかったマヤが、今年は早く情報を寄越せ、と団長に言い続けていた結果である。
新人は他騎士団の新人たちと一緒に研修を受ける予定である。現在進行形で大会議室に集まっている新人たちの中に該当の人物がいるはずだ。
「というか、どうして竜騎士団がこれまで新人共通教育の対象外だったのかが謎なんですけど・・・」
「そこはほら、色々裏事情があったらしいよ。主に過去の市長の判断だとか」
「マジですか。歴代市長はどれだけ転生者を嫌ってたんですか・・・」
「嫌ってたというのは違うかな。恐れていたというか、不可侵の存在にしていたというか、そんな感じ」
そうなのか、と思いつつ、肝心の新人に情報に目を通す。
「新人は・・・ナツキ、18歳、男・・・」
「知り合い?」
「いえ、知らない子ですね。領都学校でも関わりはないです」
「面談のときの様子だと、ケイとは随分と違うタイプに見えた。ただ、ポテンシャルは十分とみている。半年後の本採用目指して育成していきたい」
団長が話に加わった。
「先ほど話していた件にも関係してくるが、今年度から竜騎士団の採用を他の騎士団と同様の扱いにしてもらった。公に募集をかけて、応募者の書類審査、面接を経由して採用という一連の流れに乗っている」
「別枠だった理由は、やっぱり転生関係ですか」
「その通り。今までは応募をクローズにすることで採用の入口を絞っていた。これを、応募はオープンに受け付けて、書類審査の段階で絞るように変えた。最終的に入団できる人物の条件は変わっていないので、その条件に合わない人物は途中で撥ねられることになるが、まずは竜騎士団の知名度を上げる方が先決だと考えた結果だ」
「BtoBの会社の宣伝が至る所にあるのと同じ。まずは我々の存在をターゲット層に知ってもらわないと話にならない、と」
「そういうこと。その代償として書類審査の手間は増える。人事はいい顔しなかったが、書類では最低限の審査しかしない。つまり応募者が対象リスト上にいるかのみ判断する、ということで了解を得た。何のリストかは言うまでもない」
人事担当者的には業務が増えるので渋ったが、名前照合だけでいいということでゴリ押した、と。
さらに言うと、事情によりお祈りしなくてはいけない学生は最初から決まっている。
そのような学生に対して、なるべく早く結果を伝えることで次の就職活動への影響を最小限にするよう配慮しているということか。
「応募者はどれくらい来たんですか?」
「3人らしい。ルートを領都学校卒業生に絞ったこともあってそんなに多くはなかったが、初年度としてはまずまずといったところだ」
「これが募集要項」
マヤがさらに紙を手渡してくれた。
業務内容、募集人員、賃金、福利厚生etcが記載されている。
業務内容以外は他の騎士団のコピペだ。
特徴的なのはやはり業務内容の部分。
“魔物の特殊個体に関連する業務(討伐、資料作成等)”
求める人物像は
“3年以内に特殊個体を単独で斃せるようになっていただく必要があります。強くなるための自己研鑽を積み重ねることができる人物
「この人物像はどうなんでしょうか・・・」
「何か気になる?」
「僕みたいな凡人は、いきなり特殊個体狩りと言われたら二の足を踏んじゃいますね」
今では普通に特殊個体を狩っているケイであるが、一市民的な感覚だと、特殊個体討伐は非常に危険な任務。就職時点でそれをやりたいと思う人物は少ない気がする。
そういう意味では、3人も応募があったのが驚きだ。本人のやる気は重要。
「一応、フォローは入れてるんだけどね。下の方読んでみて」
マヤのコメントに従い募集要項を読み進めると下に補足が書いてある
“業務に必要な知識、技術は先輩たちが教えます。安全に業務ができるように適時フォローするので初心者の方でも安心です”
「うーん」
ケイは頭をひねった。これで“アットホームな職場です”とでも書かれていたらブラック企業の募集と誤解してしまいそうだ。
とはいえ、今のケイに上手い書き方が思い浮かんでいるわけではない。
「文言に多少怪しい感じがありますが・・・最初だしこんなものでしょうか」
「来年度に向けての改善案とかあるかい?」
「そうですね。キャッチコピー、とか・・・」
そこまで言って、ケイにある考えが沸き上がってきた。
竜騎士団とはどういう組織なのだろうか。
上に書いてある内容は間違っていない。特殊個体を狩るのが主業務。だが、それは竜騎士団の本質だろうか?手段では?
「組織の定義づけ・・・」
「ん?」
「竜騎士団の組織の定義をはっきりさせるところから始めてはどうかと思います」
「“転生者による特殊個体討伐部隊”ではない?」
「それは単なる現状説明な気がします。ありきたりというか当たり前というか、あまり魅力をかんじないというか・・・すいません、偉そうなこと言ってます。・・・ただ、もっと本質的でキャッチーな定義を募集要項に乗せてみたい、って思いました」
「分かり切った答えではない、でも本質的で目を引く定義か」
カイ団長は少し間をおいて答えた。
「先代市長らによって型に嵌められていた期間が長いからかな。私も自然とその考えに染まっていたようだ。確かにケイの言う通り。竜騎士団を我々自身がどう定義するか、それが今後の我々の目指す方向になる。考えてみよう。ありがとう、ケイ」
そこまで言ったところで、外から執務室がノックされた。
応答ののちに中に入ってきたのは市長秘書のお姉さんだった。
「おはようございます。カイ団長、お時間です」
「あ、はい。行きます。・・・二人ともすまないが、私は用事で出かける。留守番よろしく」
「はい」
「了解です」
そのまま団長がいなくなったことで、この話題は一旦終了となった。
入れ代わりにケンイチが詰所へとやってきた。
詰所の奥にはいつの間にかクロカゲが座っている。いつもの竜騎士団詰所の光景である。
「団長はどこに?」
「訓話らしいよ。毎年各騎士団の団長が集合した新人に対して一言話すの。今年からは竜騎士団団長挨拶もあるんだって」
「これも知名度アップのためですかね」
「ま、今年の新人にはウチの新団員もいるんだし間違ってないよ」
「そうですね」
先ほど受け取った応募要項をマヤに返しながら、ケイは竜騎士団組織改革のとっかかりを見つけた気がしていた。




