50 竜騎士団3年目 新年度1日目 志望動機
初日午前のデスクワークは特に問題なく終了した。
昼休み、食事をとりながらケイとマヤは世間話をしていた。
「そういえば、朝の話の続きなのですが」
「新人について?」
「そっちじゃなくて、竜騎士団の定義についてです」
「定義・・・あぁ!そんなことを話してたわね」
「ちょっと考えてみようかと思って」
「いいんじゃない?こういうときでもないと真面目に考える機会はないと思うよ」
「で、定義を考えるにあたり、ふと思ったことがあって」
「なになに?」
「そもそも、皆さんがどうして竜騎士団に入団したのでしょうか」
ケイは自分が竜騎士団で働く理由を思い返し、他の団員の考えも知りたくなった。
とはいえ、プライベートでデリケートな可能性もある話題。
タイミングを見計らっていた。
今は詰め所に二人だけ。マヤに聞くには絶好の機会だ。
「ちなみに、僕が入団した理由は知っていると思いますが、小さいときに団長に命を助けられて、同じところで働きたい、自分が助ける方に回りたいと思ったからです」
「2年前そう言ってたよね。覚えてるよ。」
「正直、竜騎士団が何をしているのか、入団当日までいまいち理解してなかったです。とりあえず魔物を狩れる程度には強くないといけないと思ったので、学校では真面目に鍛錬した・・・つもりです。覚醒から6年、それなりの物にはなっていたと思っています。ここまでが表向きの志望動機です」
「そう」
「正直言うと、竜騎士団に入れなくても、それはそれでもよかったんです。実家を継ぐっている逃げの手が残っていましたし。あと、前の知識もあったので、何の職についても食いっぱぐれることはないだろうという打算はありました」
「わかるわ~」
「友人・・・当時の友人の中には卒業後の進路に関して色々と相談に乗ってくれたり、中には勧誘してくるのもいたので、当時、結構楽観的でしたね」
「友人ってカオリちゃん?」
「ええ。相談というか、話を聞いてくれた感じです。その他にも数名。勧誘してきたのは・・・同級生ですね。あいつ元気でやってるかな・・・」
「ちなみに、どこに勧誘されたの?」
「いや、詳しくは聞いてなくて。ダメなら連絡頂戴ってことだったので、竜騎士団に入ることになったって連絡したら、おめでとうって。それっきり」
「ふーん」
それっきりなんとなく話が途切れ、沈黙が訪れる。
普段はおしゃべりなマヤが珍しい。と同時に、地雷を踏んでしまったかと汗が噴き出てきた。
何か喋らなければ、とケイが焦ってきたところでマヤが口を開いた。
「ケイ君はずるいよね」
「ずるい?」
「私の話を聞きたいからって先に自分の話をしてさ。これで私が何も話さなかったら、私悪者になるじゃない」
「そういうつもりでは・・・」
(すいません。そういうつもりでした・・・)
「いいよ。大した話じゃないから。私の話は本当、つまらないよ」
そう前置きをしてマヤは話を始めた。
「私はさ、ケイ君みたいな目的があったわけではないの。何となくの流れで竜騎士団に就職した。・・・きっかけは進路相談。就活の時期、さてどうしようかなって時に当時の担任に言われたの」
「・・・」
「日時指定でもう一度進路相談に来て欲しいって。で言われるままに当日進路相談に行ったら、そこに前竜騎士団長がいたの。その場でスカウトされて、特に変な話でもないし、勤務条件も悪くなかったから、決めた」
「即決ですか?」
「まさか。私もその進路相談の時まで竜騎士団を知らなかったんだよ?即決はできないよ。うちの親に報告も必要だし、返事は待ってもらったよ」
「ご両親は反対しなかったのですか?」
「反対したよ。もっと安全で条件のいい職場に就職してもらいたかったみたい」
「ご両親の気持ち、わかる気がします。でも、マヤさんはそれを説得したのですね」
「前団長が両親に話をしてくれてね。マヤさんの幻術が必要なんです!って。帝国の脅威に対抗するために娘さんの力が必要ですって言われたのを覚えてる。当時は自分の幻術は誰にも負けないって思ってたから、悪い気はしなかったよ」
「なるほど。ご両親はマヤさんのやる気と前団長の熱意に負けたと」
「ざっくり言うとそういうこと。・・・ね、つまんないでしょ?」
「いえ。参考になりました」
「ふふっ」
マヤは少し恥ずかしそうな、懐かしいような表情をしていた。
「今度は私も聞かせてもらおうかな」
「何でしょうか?」
「少し前、聖地関係者がケイ君を訪ねて来た?」
「ええ。コヨミさんとコトネさんが来ました」
「そこで鍵についての話を聞いたのよね」
「はい。使い方と注意点についてざっくりと」
「んー。“保証人”についての話は聞いた?」
「“保証人”?いえ、何も聞いていませんが」
「そっか。・・・その場にカオリちゃんいた?」
「ええ。自分の隣に」
ケイの答えを聞き、マヤは少し悩むそぶりを見せたがそのまま話を続けた。
「外部の人間が聖地の鍵を受け取る場合、各々に聖地の住人が保証人になるの。鍵を持った人物が何かしたら、例えば聖地のことを外に漏らしたりしたら、保証人も連帯責任で処罰される。最悪だと聖地追放」
「え?そんなシステムがあるのですか?」
「あるのよ」
真面目な顔でマヤが答えた。
「推測だけど、ケイくんの保証人はコトネさん。レイジさんの保証人はコヨミさんでしょうね。各々命を救ってもらった相手だし、巫女であるミコトの推薦があれば、保証人になることくらい承諾するでしょうね」
「訪問時にはそんな話全くなかったのですが・・・」
「この話には続きがあってね」
マヤの声が、ケイに聞こえるかどうかというくらいまで小さくなった。
「聖地の住人にとって保証人になるということはその人と一蓮托生になるということだから。特に異性が保証人になる場合、色々と深い関係になることが多いの」
「それって・・・」
「新しい血を入れるという意味もあるらしいわ。コトネさんたちがそのつもりなのかどうかは分からないけど。カオリちゃんがいたから話を切り出せなかったのかもね」
「・・・」
ケイは先日のことを思い出した。
あの日の二人の装いは、そういうことだったのか?
複雑な気持ちになったケイは、さらに一つの事実に気づいた。
(マヤさん、カオリ、団長は聖地の鍵を持っている。保証人がいるのか?)
「ミコトはあれで結構色々考えてるから、別の意図があるかもしれないね。ちなみに・・・」
マヤが続けた。
「私の保証人はミコト。カオリちゃんの保証人はフブキちゃんだよ」
「あ、はい」
ほっとした。
「ちなみに、団長の保証人は・・・?」
「そういえば、知らないな。聞くようなことでもないし・・・。案外、聖地に愛人がいたりするのかもね」
「まさか、団長に限ってそんなことないでしょう」
「それもそうね。・・・ともかく、私が言いたいのは、ケイくんが下手なことをするとあの二人のどちらかに迷惑がかかるってこと。行動は慎重にね」
「肝に命じます。ありがとうございます」
「いいのいいの」
そうこうしているうちにもうすぐ昼休みが終わることを告げる予鈴が鳴り響く。
ケイは竜騎士団という組織をどう定義するか考えていた
だが、すぐに良い定義を思いつくわけもない。
そこで、竜騎士団の顧客は誰か、言い換えると誰のために働いているのかを先に定義しようと考えた。
竜騎士団の顧客が定義できれば、その顧客のために何ができるか、何をすべきかという見方で組織を定義できると思ったのだ。
しかし、これも上手くいかない。竜騎士団が公務員である以上、顧客が辺境伯の住人であることは明白。これでは目新しいことは何もない。
困ったケイは各団員の入団背景が解決のヒントになるかもれないと考えた。その結果が先ほどのマヤとの会話である。
マヤは自分の話をつまらないと評していたが、そんなことはない。
ヒントとなる単語はいくつかあった。
(ケンイチさんや団長にも聞いてみよう。共通点があればそれがキーワードになるはず)
メンバーの予定をチェックする。
同時に、先ほどマヤによって投下された看過できない情報の処理も必要だ。
(カオリは保証人のこと、知っていたんだろうなぁ・・・念のために後でレイジさんにもあの日に何を話したのか聞いてみよう)
新年度1日目。多くの情報がアップデートされていた。
誤字脱字報告ありがたいです。
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