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43 竜騎士団2年目 後始末

不審者たちが姿を消して以降も、里の住人達はお社の結界内に留まった。避難は翌朝異常事態に気づいて駆けつけた聖騎士団に保護されるまで続いた。


お社の周囲に結界を構築したのはミコト。フブキが合流した後、結界を維持する役割を一時的に交代し、援護のために表に出てきていた。

不審者撤退後、ミコトは再度フブキと役割を交代し、翌朝まで結界を維持。フブキは2度目の交代時点でほとんどの魔力を使い果たしヘロヘロ状態だった。今は小部屋の布団の上で横になっている。


フブキの隣で横になっている人物は二人。一人は、疲労のためにお社の中での待機を命じられたケイ。

待機を命じたレイジとマヤはコトネと共に里の中をパトロールし、生き残った魔物を見つけ出しては処理して回っていた。


横になっているもう一人の人物はコヨミ。派手に出血しているように見えたが、命に別状はなかった。

敵(ミナ)による最後の一撃をはじいたのは、レイジがコヨミを守るために発動した防護魔術だが、その魔術はコヨミの出血を無理矢理止める効果もあった。その後のマヤによる回復魔術と竜騎士団特製の回復薬の効果で、今はスヤスヤと眠っている。


フブキがケイに話しかけてきた。


「ケイさん、今日はありがとう」

「うん。みんなを守れてよかった」

「ケイさんを呼びに行って良かった・・・」

「そう言ってもらえると、頑張ったかいがあるよ」

「ありがとう・・・」

「フブキちゃん?」

「すー・・・すー・・・」

「・・・寝ちゃったか」


一人で夜の山中を駆けたことに始まり、里を徘徊する魔物から逃げ隠れ、守りの要となる結界維持まで行ったのだ。幼いフブキには負担が大きかったのだろう。

そうこうするうちにケイにも睡魔が襲ってきた。数分後にはケイも寝息を立て始めた。



◇◇◇◇◇◇



「で、どうしてケイはあの場で助けに行くと決めたんだい?」


正座しているケイの前にはカイ団長。

団長の隣にはマヤとレイジ。


「その、フブキちゃんの真剣さに打たれたのと、頼ってくれたのが嬉しくて」

「へー。かわいい女の子に頼られたら、ホイホイ助けに行っちゃうんだ。どんな危険があるかもわからないのに」


ケイの言い訳に対して反応したのはマヤだった。


「いや、それは・・・僕もそれなりに討伐任務こなしてきましたし、ちょっとした相手だったら大丈夫だろうと思ってしまって」

「ちょっとした相手?」

「もちろん、強い魔物だったらすぐに撤退して応援を待つつもりでした。里に入って見たら、鬼や雪熊ばかりだったので、行けるかな、と」

「で?魔物も弱そうだし、いけると思ったの?ここでミコトやフブキちゃんにいい所みせたら、ワンチャンあるかも、とか思ったの?」

「いえ!そんなことはないです!」


そこは強く否定する。


「でも、実際ケイが戦った相手は、格上だったよね?」

「俺達が間に合わなかったらどうするつもりだったんだ?」


団長とレイジがケイを問い詰める。

そうだ。あの小太りの男と暗殺者だけであればケイだけでもなんとかなった。

だが、魔物使い。あいつは明らかに強敵だった。


大鬼と霜巨人を斃すことができたのは、相手がケイを侮っていたからに過ぎない。大鬼の特殊個体を使役するだけの高い実力を持っていた。

向こうが最初から本気であれば、あの魔物達全部と一度に戦っていたとしたら、ケイはやられていた。


加えて最後に現れた魔人。アレはもっとヤバかった。

魔物使いよりも明らかに格上の振る舞い、雰囲気だった。レイジとマヤがいなければあの場にいた全員命はなかった可能性が高い。


団長は、魔人との遭遇戦はケイにはまだ早いと言っていたではないか。


「すいません・・・」

「謝って済む問題だと思うの?ケイくんかいなくなったら、カオリちゃんはどうなるの?あの年で未亡人?」

「まだ結婚していないし、未亡人ではないかと・・・」

「あ?」

「いえ、何でもないです・・・」


泣きたくなってきた。



◇◇◇◇◇◇



「ケイさん。起きてください」


ケイは目を覚ました。目の前にはミコトの顔。

ここはお社の小部屋。布団の上だ。

隣にはフブキ、その向こうにはコヨミが寝ているのが見える。


「・・・・・・」

「ケイさん?」

「あ、いえ。はい。おはようございます」

「ふふ。目が覚めましたか?」


心臓がバクバクしている。寝汗がすごい。

さっきまで見ていたのは夢か。団長たちに問い詰められる夢。精神衛生上よくない。


(でも、同じことを聞かれるだろうなぁ)


気分が落ち込んでしまったケイを、ミコトの言葉が現実に引き戻す。


「マヤたちが戻ってきました。団長さんも到着しましたので、お話しましょう」

「はい」


起き上がり、ミコトの後について部屋をでる。

お社の広間には関係者が集まっていた。


ミコトとコトネのほか、竜騎士団からはカイ団長、レイジ、マヤ、そしてケイ。

初めて見る顔として、壮年の男性とそれよりは若い男性。この二人はコヨミと同じ鎧なので、聖騎士団員だろう。


「お待たせしました」


ミコトが上座に、ケイがマヤの隣に座ると会議が始まった。




会議は粛々と進んだ。


コトネによる、不審者に捕まって里に魔物が溢れることになったという説明から始まり、ミコトによるお社への避難と立てこもりの経緯、ケイによる竜騎士団への連絡と不審者たちとの争い。マヤとレイジによる里の残存魔物掃討の結果。聖騎士団による現在の治安維持活動について、と時間経過にそって説明がなされる。


カイ団長はツララからの連絡を受けて、竜騎士団を緊急招集。

本人は領都から離れていたため、レイジとマヤをまずは領都近くの門から里へと向かわせたということだった。


聖騎士団の二人は辺境伯領における責任者。団長と副団長だった。

一通りの話を聞いたのち、聖騎士団団長は口を開いた。


「竜騎士団には、借りができましたな」

「いえ、違います」


聖騎士団長の言葉を否定したのはカイ団長だった。


「私たちは友人のために、私事で動いたにすぎません。今回の結果は竜騎士団という組織とは関係ありません。貸し借りというものではない」

「・・・そうですな。そういうことにしておきましょう」


ミコトが口をひらく。


「レイジさんとケイさんにも、里の‘鍵’を渡そうと思います。よろしいでしょうか?」

「規則に従うのであれば聖騎士団としては異論ありません」

「では、お二人には後日‘鍵’をお渡しします」


一息置いて、ミコトは言った。


「この場はこれまでとします。みなさんのご協力に感謝します」




ミコトと聖騎士団は話すことがあるということで、竜騎士団の面々とコトネは広間を出た。


「私はお姉ちゃんのところに行きます。皆さん、本当にありがとうございました」


コトネはお礼を言って去っていき、それと入れ替わるようにフブキが廊下の向こうから歩いてくる。


「フブキちゃん、もう大丈夫なの?」

「うん。寝たらすっきりしました。ケイさんこそ大丈夫でした?」

「大丈夫だよ」


団長が口を挟んできた。


「里が無事だったのは君たち二人のおかげだ。本当に、よくやった。」


団長の言葉は素直に嬉しい。夢とのギャップが凄い。

フブキは竜騎士団の面々に深々とお辞儀をした。


「みなさん、ありがとうございました」

「いいのよ。フブキちゃんのためだもの」

「マヤさん・・・本当にありがとうございます」


フブキの友人として、ケイのお手伝いはこれで終了だ。


「さて、みんな待ってるし、戻らないと」

「ケイさん・・・もうお帰りになりますか?」

「そのつもり。お願いできる?」

「はい。お送りします」

「皆さんは・・・」


ケイが団長達に話を振ると、団長は先ほどケイが起きるまでにある程度情報共有をしたことを告げた。

その上で、今日ここで詳しい話をするつもりはないとのことだった。


「ケイ。詳しいことは休み明け、竜騎士団事務所に戻ってから話そう」

「はい」

「では、レイジ、マヤ。帰ろう」


団長たち3人は領都近くの祠に通じる別の門から帰るということで、途中で分かれた。

里のあちこちで聖騎士団員が魔物の躯を回収している。

ケイが通過する門の側にも一人の聖騎士が警備にあたっていた。


「ケイさん、本当にありがとう。また、カオリさんには謝りに行き、ます」

「謝りにじゃなくて、遊びにおいで」

「はい」


ウェアと板を借りてスキーヤーに偽装し、ケイは里を後にした。




里を出たケイはそそくさとコテージまで戻ってきた。

日はもう高く昇っている。扉を開けると、奥からカオリが出てきた。

眼が赤い気がする。


「ただいま」

「・・・お帰り」

「みんなは?」

「もう帰ったよ」

「ツララも?」

「ツララちゃんは夜中に領都まで戻っていったよ。間に合ったの?」

「ああ。いい仕事だった。休み明けにはお礼しないと・・・ホノカやガイたちは何か言ってた?」

「無理するなよ、だって。みんなには急なお仕事だって言っといた」

「そうか、ありがとう。・・・カオリは待っててくれたのか?」

「もともとそういう計画の旅行だったじゃない。戻って来るって信じてた」


今回の同窓会、みんなは一泊して帰るのに対してケイとカオリだけはもう一泊して帰るという予定だった。

近付いてきて、ペシッとケイの胸を軽く叩いた手は少し震えているようだった。


「ごめんな。心配かけた」

「ううん。いいよ。ちゃんと無事帰って来たんだし。・・・お腹へってない?」

「へってる」

「何か作るからちょっと待って」

「ん・・・」


夕飯には少し早いが、ケイの腹は空腹を訴えている。ただ、それよりも


(命の危険を感じた後は、子孫を残したくなるって本当なんだな・・・)


コテージの中へと戻るカオリの後ろ姿を見ながら、そんなことを思うケイだった。


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