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42 竜騎士団2年目 援軍

足を固定されて動きが止まった霜巨人を後ろから赤い光が貫く。

光は強力な魔術で、その場でケイ達の戦いを見守っていた誰もが、何が起こったのか分かっていなかった。

一撃で急所を貫いた光はそのまま横へスライドし、霜巨人の上半身と下半身は光によって分断されて地面に倒れた。


光の発生方向に目をやると、そこには立っていたのは一人の巫女。いつの間にか結界の外に出ていたミコトである。巫女服で手には短杖を持っている。4本の尻尾がゆらゆらと揺れていた。


先ほど光を放ったと思われる短杖を頭上に掲げた姿勢。すぐに杖の先に光の玉が発生し、直後、何条もの光が四方八方に向けて放たれた。それぞれがホーミング性能を持つようで、次々と魔物達を貫く。


不審者たちに向かって放たれた光線は魔物使いが展開した魔術防壁によって防がれた。

偶々魔物使いの付近にいた鬼数匹も防壁によって守られたものの、一撃によって敵の戦力は激減している。


無個性な男はいつの間にかコヨミから離れて他2名の近くへと移動していた。

ケイとコヨミはミコトの近くへと移動し、3対3の構図になった


「待たせたわね」

「遅いよ」


ミコトはコヨミと軽口を叩いたのち、ケイに話かけてきた。


「ありがとう。おかげで助かりました」

「いえ、そんな」

「これを使ってください」


渡されたのは剣の柄のような短い棒。両端の形状をみると独鈷杵だろうか。魔導具であることは間違いない。魔力を流し込むと刃が形成されて1メートル近くまで伸びた。

まるでライトセーバーだ。


ケイが渡した魔導具を使えることを確認してから、ミコトが不審者たちに目を向けた。

この間、魔物使いが何か動く様子は見えなかった。


「さて、仕切り直しです。この辺の魔物は一掃して形勢逆転ですよ?」

「・・・そうかな?」


言葉少なに魔物使いが答えると、魔物達が近づいてくる音が聞こえ始めた。


(里を徘徊していた魔物達を呼び集めたのか?)


しばらくにらみ合っている間に魔物が集まってきた。さすがに霜巨人や大鬼はいなかったが、大物として氷竜が1匹混じっていた。


「こんなもの?」

「・・・」


ミコトの問いかけに対し、魔物使いは何も話さない。

先ほどの魔術をみるとミコトの実力は高そうだ。こちらの3人であれば魔物たち全員を相手にできるだろう。


魔物が集まり始めてしばし、コヨミが異変に気付いた。


「ミナ?」


暗がりから現れたのは、コヨミと同じ鎧を身に着けた一人の女性だった。

思わず前のめりになるコヨミをミコトが抑える。


女性は一匹の鬼に拘束されていた。


「あの人は?」

「聖騎士団員。今日の宿直は私と彼女だったの。もう絶望的だと思ってた」


再開を喜びたいところであるが、それを許さない存在が現れた。女性の背後から一体の大鬼が現れる。


「大鬼、なの?」


ミコトのつぶやきはごく自然な感想だった。

外見や背丈は先ほど斃した個体とほぼ同じだが大きな差が一つある。肌の色が浅黒かった先ほどの個体に対し、新たな個体の肌は深紅。

ケイは竜騎士団が所有する過去の討伐記録の中に、似た大鬼についての情報を閲覧したことがあるのを思い出した。


(特殊個体?)


ミナは魔物使いの傍に移動させられ、小太りの男によって首にチョーカーを着けられた。

先ほどコトネが装着していた爆弾と同じものだ。


「お前たちは殺す」


小太りの男が吐き捨てるように言った。

不審者たちの殺意を受けてもミナに動揺のようなものは見られない。口を開かず、じっとこちらを見ている。


「・・・」


ミナから視線を外したコヨミは、不審者たちに対して剣を構えた。


「いいのか?」

「彼女も聖騎士よ。覚悟はある」


魔物使いの近くには大鬼特殊個体が控えている。

体格は先ほどの大鬼よりもこちらの個体の方が大きいか?


「ケイさん、あれ、分かりますか?」

「特殊個体の可能性があります。過去資料では火属性特化型の大鬼。物理と火はほぼ無効という記載でした」

「・・・やれますか?」

「ええ」


ミコトは大鬼をケイに任せたいようなので、引き受けることにした。

自然と3人の相手が決まる。ケイは大鬼、ミコトは魔物使い、コヨミは暗殺者と向き合った。

あちらも異論ないようだ。


ケイの手にする武器は先ほどミコトから受け取った、魔力を流し込むことで刃を発する柄。

対する大鬼特殊個体が手にしているのは大剣。刀身が赤熱しているのが分かる。


(見た目は分かりやすく火属性。一撃でも貰ったらヤバイと思った方がいいな。あと、この魔道具がどこまで使えるか確認しないと)


ケイの持つ柄は刃の形成にわずかではあるが魔力を利用する。今夜の連続戦闘の影響で残り少ないケイの魔力でも、今は刃の維持ができている。

わざわざこれを選択して持ってきてくれたということは、何か意味があるはず。

・・・武器になりそうなものがこれしかなかった、という可能性もあるが。


一通りそんなことを考えたのち、ケイは動いた。特殊個体に向けて振りぬいた刃は大剣によって防がれ火花を散らした。貫通するタイプの刃ではない。


一旦距離を取り大剣と接触した部分を確認する。先ほどの接触による刃の欠けや変形は見られなかった。自動修復されるようだ。


(破損の恐れは少ない・・・が、しんどいな)


大鬼には魔物使いの、自分にはミコトによる補助魔法バフがかけられるのを感じつつ、ケイは長期戦を覚悟した。



◇◇◇◇◇◇


直接、間接的に援護魔法が飛び交う中をケイと大鬼は切り結んでいた。

案外使い勝手のいい魔道具の恩恵もあり、五分五分の戦いができているが、それは決め手に欠けるということでもある。


連戦により蓄積された疲労によって切れそうになる集中力を繋ぎ留めつつ、大鬼と死闘を繰り広げていたケイは、突然聞こえた小太りの男の声から状況が変わったことに気づいた。


「おい、近づくな!爆発させてもいいのか?」

「・・・」


コヨミが暗殺者を下したのだ。ケイが視線を向けたとき、暗殺者は多量の血を流して地面に倒れ伏していた。

返り血を浴びたコヨミが、ミナを盾にした小太りの男に対してゆっくりと近づいていく。


「来るな!離れろ!おい!?」


至近距離まで近づいた後、一気に距離を詰めて小太りの男の右手を斬り飛ばした。

落ちた右手の指には爆弾起爆用の指輪が輝いている


「あああああ!」


取り乱す小太りの男を無視して、コヨミはミナを抱きしめた。


「無事でよかった」

「・・・・・・」

「ミナ?!!」


反応を返さないミナを不審に思ったとき、コヨミは腹をナイフで貫かれた。

貫いたのはミナ。いつの間にか右手にナイフを持っている。


「え・・?」

「ゴメンね?」


ミナは貫いていた刃を引き抜いた。

支えを失ったコヨミは倒れ、傷口から大量の血液が流れ出る。明らかに致命傷。


「コヨミ!くっ!」


動揺したミコトに対し、魔物使いの術が飛ぶ。連続する火球による攻撃を回避ではなく、魔術防壁で防御してしまったミコトは、その場から動けない。

ケイも大鬼と切り結んでおり、すぐに駆け付けることはできない。


このままではコヨミの命が危ない、という場面であったが、ケイに焦りはなかった。

ミナの背後に、見覚えのある人影が見えたからだ。



一方のミナは姿形が変わっていく。

聖騎士団員の女性だった姿は、額に角が生えた女性へと変わる。その容姿、特徴は魔人であることを示していた。


「どう・・・して?・・・」

「さようなら」


魔人はコヨミの問いかけには応じず、落とした剣を拾い上げて倒れているコヨミにとどめを刺そうとした。

勢いよく振り下ろされた剣は、首の皮まで数ミリという距離で弾かれた。コヨミの全身を強力な魔術防壁が覆っている。


「?」


不審げな表情に変わった魔人は、何かに気づきコヨミから大きく飛び離れた。

直後、魔人がいた場所に雷が落ちる。


雷を回避した魔人は振り向いた。視線の先にいたのは二人の竜騎士団員。

マヤとレイジだった。


「間に合った」


マヤがコヨミに駆け寄り、回復魔術をかける。

出血が止まり、一命を取り留めたようだ。


その間、魔人とレイジは互いに無言。相手の実力を推し量っているようだった。

しばらくして、魔人は魔物使いに向けて命令した。


「撤退だ」

「了解」


大鬼特殊個体と魔物使いが魔人の近くによるとその姿がゆっくりと消えていく

レイジはすかさず攻撃魔術を放ったが、魔人による魔術防壁によって防がれた。

数秒後、不審者たちは消え去った。


その場に残っているのはケイ達が斃した魔物の亡骸。

少し遠くにいた氷竜はいつの間にか消えていた。


里の中を徘徊していた魔物達のうち、小物は多くが置き去りにされたようで、そこかしこから物音が聞こえてきた。魔物使いの制御を外れ、使役させていたときの鬱憤を晴らすように魔物達が暴れようとしている。


「魔物達を止めないと!」


ケイの言葉に対し、レイジが答えた。


「本当は捕獲したいが・・・やむを得ないか・・・」


レイジの頭上に巨大な魔法陣が浮かびあがる。そのまま十秒経過すると、里に残る無数の魔物、各々の頭上に小さな魔法陣が表れた。


「降雷」


巨大な魔方陣が強く光ると小さな魔法陣から下に向けて雷撃が放たれ、魔物達に直撃した。

一瞬の轟音と絶叫の後、里に沈黙が訪れる。

レイジに頭上の巨大な魔法陣は、雷を放った数秒後、小さな魔方陣とともに全て消えた。


レイジはケイに近づいてきた。


「終わり」

「さすが、すごいですね・・・」

「いきなり呼び出されて連れてこられた。説明してくれ」

「それは、はい。説明、します」


とはいったものの、ケイの体力も限界に近い。

ふらついたところを、ミコトに支えられた。


「お話は、お社の中で」

「そうですね。お願いします」


その場にいた人物はミコトの力によって結界を越えてお社の中へと移動した。


ケイが隠れ里を2度目に訪れてから数時間。時刻は真夜中を越え、朝が近くなっていた。


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