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41 竜騎士団2年目 お社前

コヨミは粗末なショートソードを手に奮闘していた。

先ほど入手した2本の鎌は戦いの中で破損してしまった。もともと倉庫に放置されていた農具である。耐久度に不安があるのは百も承知なので、周囲の魔物から武器を奪った。

このショートソードを持っていたのは先ほど斃した小鬼である。


武器を手に入れたコヨミを前にしても不審者たちは態度を変えない。

小太りの男が馬鹿にしたような声を上げる。


「いい加減飽きてきたな。・・・そろそろ腕の一本潰していいんじゃないか?」

「いいだろう」


提案に同意した魔術師風の男が何やら指示すると、今まで動いていなかった3つ目の巨人が動き出した。


(これは、いよいよかしら)


自分の周囲を取り囲む魔物達はピンからキリまで種類も数も豊富。その中でも飛びぬけて能力が高いと思われる巨人が動き始め、コヨミは覚悟を決めた。


(ごめんコトネ。私もダメみたい)


その時、にわかにお社の反対側が騒がしくなった。


「どうした?」

「・・・岩竜がやられた」

「なに?誰にやられた?」

「・・・」

「おい!」

「少し待て。近くの魔物を向かわせる」


不審者たちからは見えないお社を挟んで反対側で獣の咆哮が聞こえてくるが、すぐに静かになった。


「またやられた」


視線を向けると、奥から誰かが歩いてくる。

数匹の鬼と狼がその人物を襲おうとしていずれも一太刀で切り伏せられ、以降は遠巻きにその男を取り囲んでいる。


近づいてきたところで、人影は先ほど乱入してきた男だと分かった。

土や木の枝で汚れた服で血の付いた鉈を持つ様子はまるで山賊だ。


「さっきの奴か」


小太りの男が呆れたように口を開いた。


「爆発に巻き込まれたとばかり思っていたよ。尻尾を巻いて逃げ出したのに、戻ってきたのか?」

「・・・」


近づいてくる男は何も答えない。


「まぁいい。おい!」


無個性な男が呼びかけに応じて飛び出していく。

枯れ葉の上を音を立てずに移動する様子を見ると、あの無個性な男はかなりの実力者だと推測できる。


先ほどの二人の戦いでは、助けに来た男は防戦一方だったので、厳しい状況だ。

そう思っていたのだが。


ギンッ!


鈍い音と共に無個性な男の持つ剣は根本から折れ、刃先があらぬ方向へと飛んで行った。

折ったのは助けに来た男が持つ鉈だった。一瞬隙ができた無個性の男を蹴り飛ばし、そのままもう一人の男はこちらに駆けてきた。





「無事のようだな」


ケイはコヨミに近づくと、コトネから託された彼女の予備の剣と道具を差し出す。


「これは?」

「助けに来た。・・・妹さんは無事だ」

「え?」


虚を突かれたような表情を浮かべるコヨミに対し、声をかける存在があった。

結界の中にいるコトネである。境内を突っ切って走ってきたコトネがコヨミに語りかける。


「お姉ちゃん、私、もう大丈夫だから!」

「コトネ!・・・よかった・・・」


剣を受け取ったコヨミは不審者たちに振り返る。

小太りの男は多少動揺したようで、無個性な男に怒鳴りつける。


「おい、何をやられてるんだ!」

「・・・」

「チッ。まあいい・・・感動の再開だな。アレの爆発から逃れたのか。なかなかやるようだな」


ケイは男の問いかけには答えず、再び近づいてきていた無個性な男の一撃を鉈で防ぐ。

剣を失った男はナイフを手にしていた。ナイフのスピードは先ほどまでの剣による斬撃より一段鋭い。


戦いの中、ケイが発動した拘束魔術を目の前の男が回避し、ケイ達と大きく距離を取った。

身のこなしの軽さはなかなかのものだ。


(やはり、隠密や暗殺が本職だろうな。俺の鉈では相性が悪い。ならば・・・)


ケイはコヨミに背中越しに声を掛けた。


「すまないが相手を交代してもらえないか?ナイフ使いとやるなら、俺の鉈よりも君の剣の方がいい」


ケイ達が戦っている背後では、コヨミが回復薬を煽っていた。

空になったビンが地面に落ちる音がする。


「ふぅ。構わないけど、変わりにこの魔物達はどうにかできるの?」

「できる」

「なら、選手交代」


二人は立ち位置を入れ替え、相手を交換した。

ケイは多くの魔物達を操る魔術師風の男と、コヨミは暗殺者風の男と対峙する。


「やれ」


小太りの男の言葉を引き金に魔物たちがケイに殺到した。ケイは魔術師風の男に向けて移動を開始し、間にいる無数のオーガを水の刃で補強した鉈で両断しつつ、最短距離を駆ける。


3匹を一太刀ずつで斃したケイであったが、4匹目の鬼はケイの鉈による一撃を自分が持つ斧で防御した。

動きの止まったケイの頭上から、3つ目の巨人が巨大な手で殴りかかってきた。


その一撃をステップで交わしたところに先ほどケイの一撃を止めた鬼が斧を振り下ろしてきたので、鉈で受け流しつつさらに回避行動をとる。鉈から不穏な音が聞こえ、柄の部分に小さなヒビが走った。


体勢を崩したケイに周囲の鬼が殺到した。


回避は困難と判断したケイは魔術を発動。自分を中心とした半径3メートルほどのリング状に金属片を無数に生成し高速移動させる。

その金属片が描く円の外側にあたる部分には刃がついていた。イメージは電動回転草刈り機。


鬼たちは金属片によって命を刈り取られた。

戦闘開始から数分で、今ケイの近くで生き残っているのは3つ目の巨人と一匹の鬼、そしてその背後にいる魔術師風の男となった。


大鬼オーガロード霜巨人フロストジャイアント

「そちらは魔法戦士だったか」


あっという間に手下を壊滅させられたにもかかわらず、魔術師風の男は楽しそうな様子だった。遠巻きに配置している魔物たちを呼び寄せるそぶりも見せない。

自分の敗北などこれっぽっちも考えていない様子だ。


生き残った2体の種族としての格は岩竜を凌ぐ。大鬼は先ほどケイの一撃を防いた斧に加え、鎧まで着込んでいた。霜巨人の方も普通ではないと思われる。


対峙する男は魔物使い。里をうろつく多くの魔物とこの2体の高位の魔物を同時に制御しているのであれば、まず間違いなく精鋭。下手をすると竜騎士団員レベル。


向こうはケイの実力をまだ正確に把握していない。実際、残った2体も1対1なら勝てる。なるべく2体を同時に相手にするのは避けたい。どちらかを集中攻撃で先に斃すべき。


(最も、魔物使いがこれ以上何かしなければ、だが・・・)


構えるケイに対し、大鬼がゆっくりと近づいてくる。

武人然とした歩みは自信の表れか。霜巨人は動かず、魔物使いによって大鬼の持つ斧に魔術の光が宿る。


(先手を打たれる前に処理する)


チラッと背後の様子を確認すると、コヨミともう一人の男は戦闘を開始していた。

ある程度実力が拮抗しているようで、お互いに致命傷などは与えていないようだった。


コトネからの情報や鎌2本で魔物たちとの手から逃れていた状況からコヨミの実力は疑いようがない。あっちはあっちで頑張ってもらおう。


大鬼へと意識を戻し、ケイは右手に持つ鉈に雷を纏わせ、刃を伸ばす。得物をもった巨躯の鬼に対し、刃渡り50センチの鉈そのままでは厳しい。

構えを取り一呼吸の後、ケイと大鬼は示し合わせたように同時に踏み込んだ。


上から振り下ろされる斧に対し、鉈がぶつかる。真正面から受け止めるのではなく弾きに意識を集中し、相手の力の方向を変える。


わずかにケイの身体を逸れた斧は地面に当たる寸前に方向を変え、横っ腹でケイを殴ろうとしたが、その動きは最初の振り下ろしと比較して遅く、力も入っていない。


弾く瞬間に鉈のまとった雷が斧の表面を滑り、大鬼の腕に到達。ただの鬼であれば一時的に体の自由を奪うレベルの電撃であったが、斧と鎧の対魔術効果もあり、大鬼は腕を痙攣させたものの硬直するようなことはなかった。


ビクリ、と一瞬痙攣するオーガロードの腕を確認。ケイにとってはそれで十分だった。速さのない斧による横殴りを回避した後にさらに一歩踏み込み、鉈を持っていない方の手に魔力を纏わせ、大鬼の鎧の薄い部分を殴りつける。


ケンイチが得意とする、衝撃を内部に通す打撃。

大鬼の体勢が崩れ一歩後退したところで、体を回転させて雷を纏う鉈の刃を頸にたたきつけ、首をはねた。

互いの最初の踏み込みから数秒の出来事である。


「!?」


さすがに魔物使いもこの結果には驚いたらしく、目を見開く。


倒れこむ大鬼の躯の影から魔物使いを狙ってケイが投擲した魔石は素早く射線上に移動した霜巨人の拳によって迎撃された。

魔石は接触により爆発を引き起こしたが、霜巨人にダメージを受けた様子は見えない。


(あっちが本命か)


一呼吸置いて魔物使いたちの様子を確認する。


「おい。大丈夫なのか?」

「問題ない」

「そ、そうか。頼むぞ・・・」


小太りの男の質問に対して魔物使いは強い口調で答えていた。小太りの男が気圧されている。


魔物使いの侮るような表情は消えていた。

ケイを見据えたまま、霜巨人を強化する魔術を唱え始めた。


ケイも自己強化魔術を順次発動する。筋力補強、感覚鋭敏化、魔術耐性強化、対凍結防御。

短時間で決めるためのフルブーストだ。


ケイの接近に霜巨人は対応し、鉈による一撃を拳で受け止めた。手甲を着けているとはいえ、雷エンチャント状態の鉈による一撃を拳で対処する時点で格闘能力の高さが推し量れる。


(硬いな)


先ほどのように電撃が流れるが、霜巨人には特段影響を受けた様子は見られない。

2の打、3の打に初打と変わらないスピードと重さがある。種族的に霜巨人が電撃に強いということはないので、魔物使いの補助魔術によるものだと判断した。


霜巨人の背丈はケイの倍以上。互いに戦い難い体格差ではあるが、頻繁に体勢を入れ替え繰り返される攻撃、防御、回避、反撃という流れは映画の格闘シーンのようだ。


普段の特殊個体討伐任務ではまず発生しない、長時間の接近戦の中でケイは何とか打開策を見出そうとしていた。

霜巨人は背後の魔物使いからの補助魔法や回復による援護を適時受けられるのに対して、ケイは独力のみ。武器として使っている鉈の耐久も限界が近い。このままでは地力の差でじり貧だ。


かといって、一旦距離を取ってこの霜巨人から離れたら、集まってきた周囲の魔物達を相手にしなければいけない。

大鬼を倒した後から、徐々に魔物たちが集まってきている。

今は巻き込まれないために遠巻きに見ている周りの魔物たちが参戦してくると厄介だ。


一応、打開策はある。が、不確実だしこの後のことを考えるとなるべく使いたくない。


そんなことを考えていると、霜巨人の一撃の速さが上がっていくように感じた。ケイのバフが切れて遅くなっている。元々の筋力で劣るケイが段々と押されてきた。


体勢を入れ替えた際、霜巨人の向こうにお社が見えた。

結界のすぐ内側にこちらを心配そうに見つめるコトネ、その後ろにミコトの姿が見えた。


(・・・?)


その後もケイと霜巨人の戦いは続き、とうとう拳の一撃がケイを捉えた。

鉈で防御したものの、農具には無理があったのか、刃と柄を固定している部分が破壊される。ケイは後ろに飛んで衝撃を少しでも受け流そうとした。


すかさず追撃しようとした霜巨人だが、不自然に体勢が崩れて足が止まる。

左足が地面にめり込み、そこで固定されていた。


すかさず魔物使いの補助魔術が飛び、足は自由になった。足が地面から抜けるまでの時間は一撃を受けて飛ばされたケイが体勢を整えるまでの数秒であったがその数秒で勝敗は決した。


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