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39 竜騎士団2年目 奇襲

大きく回り込み、不審者一団へと近づくケイ。

周囲にどんな魔物が潜んでいるかもわからないので、慎重に様子を伺いながら移動を続ける。

幸い、付近の魔物たちは里の住人が逃げ出すことを防ぐためにお社の周りを囲むように配置されており、不審者たちの周囲にいる魔物たちの数は多くない。

その代わり、巨人や岩竜、大鬼など、一匹一匹が強力な魔物が配置されている。


ある程度近づくと不審者たちの話す内容が聞こえるようになってきた。

小太りの男が得意気にお社に向かって話をしている。


「この結界を解除してくれないか?俺は慈悲深い。素直に投降するなら命だけは助けてやる」

「解除しちゃダメ。私たちはどうなってもいいから」

「お前は黙ってろ!」


男はコヨミを怒鳴りつけるが、聖騎士であるコヨミにはその怒りにも動じない。


「もう一人いるんだ。お前は死んでもいいんだぞ?」

「やるならやりなさい。私たちはお前たちの言うことなんて死んでも聞かない」

「は。威勢のいいことだ。なら、そっちのお嬢さんはどうだ?死ぬか?」


話を振られたコトネはビクリと体を震わせた。コトネはフブキよりも年上に見えるが、まだ10代半ばに見えた。

男は話を続ける。


「死にたくないだろう?なら、この結界を解除するように訴えればいい。この里の住人は優しいみたいだから、助けてくれるかもしれないぞ?」

「コトネ、ダメよ」

「黙ってろ!」


再びコヨミに対して怒鳴った男は、コトネに近づくと、顔を近づけた。

顔をそむけようとしたコトネの顔をつかみ、無理やり自分の方を向かせると、優しい声を発する。


「なぁ。俺は別に殺しをしたいわけじゃないんだ。この里の住人が俺の言うことを聞いてくれれば、従順になれば痛い目に合わずにすむ」

「・・・」

「それとも何か?お前らはつまらないプライドで俺の提案を拒否するのか?特に容姿がいい高値で売れる商品を潰したくはないんだがなぁ!」

「ひっ・・・」

「やめなさい!」


急変した男の表情に対し、コトネは嫌悪感を隠し切れずに声を上げ、コヨミが抗議の声を上げた。


「どうした?死んでも言うことを聞かないんじゃなかったのか?」

「・・・」


口をつぐんだコヨミに対して声を発したのはコトネだった。


「姉さん。私は大丈夫」

「おうおう。声が震えてるぞ・・・そうだな。どうせ死ぬなら一度味見してもいいな」

「・・・」


男は二人の身体に目をやる。獣欲を向けられたコトネは恐怖で声も出ず、顔も蒼白だ。

本気なのか、脅迫術なのか、男が服に手をかけて脱がせようとした。


一団のやり取りを聞きつつ周囲の仕込みを終えたケイは、そのタイミングで行動を開始した。


暗がりから2本の鎌を投げると即座に場所を移動する。鎌は回転しながら飛んでいき、一本がコヨミを拘束していた鬼の頭に突き刺さり、

もう一本はコヨミの足元に突き刺さった。


「ア・・・?」


事態を把握できずに鬼は倒れこみ、拘束が解かれた。

コヨミの行動は速かった。足元の鎌を使い、手を縛っている縄を切ろうとする。


魔術師風の男が回りにいる鬼たちを操りそれをやめさせようとするが、一瞬早く縄を切ったコヨミは鎌を構えて鬼の手を回避した。

魔術師風の男が舌打ちする。


一方、無個性な男は鎌が飛んできた方向に素早く向き直り、武器を構えた。

一瞬ガサゴソと背の高い草むらが動くのを見て、小太りの男もそちらを注視する。


「おい、誰だ!出てこい!」


都合よく男が大声を出したため、草むらとは別方向からケイが近づく。


「・・・シッ」


接近音に振り返ろうとする小太りの男を殴り飛ばし、その勢いそのままにコトネを抑えつけていた鬼の腕を鉈ではねる。

返り血がかかる前にコトネを抱きかかえて大きく跳躍。男たちから距離を取った。


剣鉈でコトネを拘束している縄を切ろうとしたケイの目の端に、こちらに素早く近づいてくる無個性な男が映る。

縄を切るのは間に合わないと判断し、コトネに剣鉈を押し付けると最後に残った一本の鉈で男を迎え撃つ。


先ほど鬼の腕を切断した鉈は、剣による一撃も防いでくれた。

そのまま男の猛攻を捌くこと十数合、端から見るとケイが圧倒されているように見えるが、その実、ケイは相手の実力をほぼ正確に測っていた。


一撃一撃は速い。が放つ殺気の鋭さにもかかわらず、剣を振るっての戦い方に隙がある。本来得意とする獲物はナイフのような短物で、暗殺系統技術を高めた武人だと判断した。


(一対一ならいける)


自分一人で目の前の人物の相手ができることに安心したものの、状況はあまり好転していない。

再び少女を捕まえようとする男は二人いる。一人とばかり相手をしていたらもう一人が少女を捕まえてしまう。それだけでなく、魔術師風の男によって周囲の魔物たちが集まってきた。


一番ヤバそうな三つ目の巨人までこちらに向き直ったところで、相手の剣を大きくはじくと、背後のコトネを抱えて逃走を開始した。なぜか男たちは追跡してこない。


「あっ・・・」


コヨミが一瞬何か言おうとしていたが、続く言葉はなかった。

魔物たちを避けて移動を続けながら腕の中のコトネの様子を確認する。


「大丈夫か?」


コトネは何とか自分で手の縄を切ったようだが、ひどく焦っていた。

剣鉈で首のチョーカーを切ろうとしている。


「ダメです!この首輪、爆発します。放して」


ケイはその時まで気づいていなかったが、首には小さな魔石と大きな魔石が一個ずつ取り付けられたチョーカーが巻かれていた。

小さい魔石が起爆トリガーになり大きい魔石が爆発する。爆発物取り扱いについて勉強する者なら多くが知っている、最も単純でありながら効果の高い遠隔爆発機構。

帝国では使用が禁止されている魔道具である。


コトネはそれを外そうとしていたが上手くいかないようだ。

チョーカーについた魔石・小が輝き始めた。こうなると数秒で魔石・大が爆発する。


ケイは判断を迫られた。




一方、コヨミは鎌を持って周囲の魔物たちを牽制していた。


彼女は、先ほど急に乱入してきた見知らぬ男をとりあえず味方と判断していた。

自分の拘束を解く手助けをした上で妹に手を出そうとする男を殴り飛ばして庇う、その流れがスムーズだったので、聖騎士団が助けに来たのかと思った。


だが、その顔に見覚えはなかった。

手に持っていたものが武器(剣や槍)ではなく道具(鉈)であったところを見ると、里に滞在する旅商人か何かだろうと推測できる。


渡されたのが鎌2個だったのが残念だが、逆に言うとそれしか準備ができなかったということ。ただの草刈り用の鎌でも、何もないよりはましだ。


男は妹を連れて逃げていった。これは正直悪手だ。

妹には爆発首輪が着けられている。起爆させられたら命はない。


だが聖騎士団の助けが来ない今の状況、時間稼ぎにも限界がある。あのままでは自分たちに待ち受けているのは確実に死。あるいはそれよりも辛いことだったかもしれない。

妹が苦しんで死ぬよりは、一息に楽になった方がよかったのかも・・・そんな弱気な考えまで浮かんできた。


複雑な感情を抱き沈黙するコヨミとは対照的に、小太りの男は他の二人に文句を言っている。


「おい、逃げたぞ!追えよ!」

「・・・」

「話が違うじゃねぇか!里の連中は全員この中にいるんじゃなかったのか?!」

「魔物たちによる調査ではそういう結論になる。何か索敵を回避する手段を持っていたのだろう」

「ちっ。使えねぇな。ちゃんとやれよ!・・・お前は何故追わない!?」

「・・・追う必要はないと判断した」

「商品が減るだろうが!」


魔物たちに囲まれているコヨミをにらみ、小太りの男は告げた。


「あっちはもういい。お前は楽に死ねると思うなよ」


小太りの男が指輪を操作した数秒後、彼方で爆発音が聞こえた。


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