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37 竜騎士団2年目 同窓会の夜

スキー場から歩いて10分ほど。

ケイ達は別荘が立ち並ぶエリアの一角にやってきた。


そこそこの値段で泊まれる2階建てコテージ。

管理棟で鍵を受け取り、二人は持ってきた荷物を運び入れる。夕食は自炊予定のため、生鮮食材は大量購入済だ。


「いい所見つけたね」

「団長が教えてくれた。ここの管理人さんと知り合いらしい」

「さっきの人?顔が広いのね」


部屋をチェックしながら窓や扉を開けて回る。一階は大きなリビングにキッチン、お風呂は小さい専用温泉で、二階は寝室として使える部屋が6部屋。各部屋3人くらいは寝られる広さがある。


「ノドカさんたちが一部屋。ムツキさんが一部屋。ツララが一部屋。カオリとウルハで一部屋。俺とガイで一部屋って感じかな?」

「最初の割り振りはそれでいいかな」

「最初の・・・」

「夜中の移動は不問ってことだよ。みんないい大人だから、その辺は自己責任で」

「まあ、そうだな」


ケイがさりげなくカオリのお尻に手を伸ばすと、その手を抓られた。痛い。


その後、リビングから繋がるテラスにバーベキューセットをセッティングし終えたところで、他のメンバーもコテージへとやってきた。

各々食べたいものを持ち寄っている。


食べものがリビングのテーブル上に溢れたころ、ケイによる乾杯の音頭によってパーティーは開始された。


しっぽりといい雰囲気を出しながらお酒を飲むノドカ夫妻とは対照的にウルハとツララは食べる量を競っている。

そんな二人のために、テラスのバーベキューグリルでひたすら肉と野菜を焼いているのがガイ。近くにはムツキがいてガイに色々と世話を焼いている。


カオリはキッチンでちょっとした料理を作っては配膳、ケイとホノカは料理をつまみつつ楽しく過ごしていた。


夜も更けた頃、最初にダウンしたのはツララ。大食い勝負も結局ウルハが勝ったらしいが、食べ過ぎたと言って一緒に部屋に引っ込んだ。

なんだかんだ小さい子には優しい。


二人への料理供給任務がなくなったガイはムツキとテラスで過ごしている。。

何やら長い間話していたが、二階の部屋で飲み直すそうなのでとっておきの酒を渡してやった。


人数も少なくなったので、手分けして道具の片付けを行う。


「そうそう。ここのお風呂も温泉だけど、ちょっと歩いたら源泉かけ流しの大露天浴場あるらしいよ」

「本当?まだやってるの?」

「管理人さんに聞いたら、夜中までやってるって」


鍵と一緒にもらったパンフレットには、場所や営業時間が記載されていた。


「朝も営業してるんだ。でも少し距離あるね・・・もう遅いし、そっちは明日に回して、今日はここの小さい温泉でいいかな」


ノドカ夫妻は片付けを終えると、コテージ備え付けのお風呂へ向かった。


「ホノカはどうする?」

「私もパス。ここのお風呂にはいるよ」

「じゃあ、留守番頼めるか?俺とカオリは行ってくる」

「はいはい。楽しんできてね~」

「よろしく」



外に出ると、きれいな月が出ていた。


「今日は、楽しかったね」

「そうだな。ってまだ終わってないぞ。今から温泉入って帰ってくるという使命が残ってる」

「ふふ。そうだね」


月は明るく、街頭も所々にあるので、足元までちゃんと見える。

歩きながら、ケイは聞きたかったことを口にした。


「昼間の件、聞いてもいいか?」

「ミコトさんのこと、だよね」

「ああ」

「その話の前に、確認させて。・・・去年、ケイにあの時のことについて問題出したの覚えてる?」

「あの幻術で再現された夜の店で、カオリが俺に何かしてた。それは何か、だっけ?」

「そう。答えは分かった?」


この件はこれまで何度も尋問しているが、未だにカオリは口を割っていない。

ケイも半ば正解を当てることを諦めていた。


それをわざわざこのタイミングで尋ねたということは、今日の出来事、新たに知った情報に関連してるということだ。


「・・・ミコトさんの格好で、フブキと名乗ってた。幻影のモチーフになる人がいた」

「それは間違ってないけど、想定していた答えではないかな」

「・・・俺を診察してた」

「というと?」

「妖狐の魔力が悪影響を及ぼさないか確認してた」

「正解」


判定の言葉は簡潔なものだった。。


隠れ里での話し合いの中で、不自然に避けられた話題がある。助けられたケイがどういう状態で、なぜずっと記憶を失っていたのか。

どうして、今日失っていた記憶を思い出したのか。


「全然気づかなかったよ」

「そうだろうね。今はよーく確認しないと分からない」


魔力を譲渡する。その行為自体は簡単ではない。が、超高難度という訳でもない。

輸血のようなもので、準備を整えて十分な知識があれば可能である。


領都学校では特別な道具を利用した方法を教わるので、みんな知っている。

当時のミコトは道具をもっていなかっただろうから、突発で道具なしに魔力譲渡を行える程度にはミコトの魔力操作技術が高いとわかる。


「そこまで頻繁に確認する必要あったのか?何年も前のことだろ?」

「普通だったらもう完治ってことになるけど、ミコトさんは妖狐だから。人とは違うものが混じったことになる、しかも魔力を譲渡された時のケイは大分弱っていた。いわゆる‘存在の根源’にまで影響を与えた可能性もあったらしくて。経過観察をずっと頼まれてたの」

「このこと、竜騎士団の皆は知ってる?」

「マヤさんは知ってるはず。団長さんも知ってるかも」

「団長が、俺と狐の相性がどうこうって話をしたこともあるし、知ってたんだろうな・・・。記憶にもロックかけられてたのか?」

「それは違うよ。本当に忘れていたんだと思う。さっき見せたのは私の幻術だけど、それを見て思い出すかどうかは、賭けだったの」

「思い出したからよかったものの、思い出せなかったらどうするつもりだったんだ?」

「そのときは、狐の状態のフブキちゃんと触れ合って解散。今回の里訪問はパスのつもりだったの」


そんなことを話していると、温泉の入口である立派な門が見えてきた。

夜も遅いので周りに人はあまりいないが、門の奥にはそれなりの数の人影が見える。


二人はなんとなく話を止めて歩き続け、もう少しで入口、というところで何かが道の脇、暗がりから二人の前に飛びだしてきた。


その物体は進行方向を90度曲げるとカオリに飛び掛かってきた。


「!?」


最初は白いボールかと思ったが、よく見ると生き物。随分と汚れていたものの、見覚えがある。

今日、数時間前に遭遇した白狐だ。


「フブキちゃん!?」

「きゅー!きゅー!」


受け止めたカオリが驚く。

フブキは必死で何かを訴えようとしている。


二人と一匹が道を外れて回りから影となっている場所へと移動すると、フブキはカオリの腕から降りて人形態へと変化した。


「お願い、助けて!!」

「どうしたの!?」

「門が急に開いて、そこから魔物がいっぱい里に入ってきたの!お姉ちゃんたちが相手してるけど凄く数が多くて。手が足りないの!助けて!」

「そんな・・・」

「お願い、あのままじゃお姉ちゃんが!」


困惑する二人に対し、フブキは真剣な表情を崩さない。


「・・・わかった」

「ケイ!?」

「詳しい事情は分からないけど、大変なことが起きて急いで来たんだろ?だったら助けにいくよ」

「本当に!?ありがとう!」

「カオリ、いいか?」

「そうだね。のんびり温泉に入る状況じゃなさそうだし」

「今日の門まで行けばいいのか?」

「うん!案内する!」

「頼む。・・・カオリはコテージに戻って、ツララを起こして、竜騎士団のみんなに連絡をつけるように頼んでくれ。マヤさんや団長なら対応してくれるはずだ」

「わかった」

「俺はこのままフブキちゃんと里へ向かう」

「気をつけてね・・・」

「ああ。温泉に入らずには死ねないよ。そっちも気を付けて」


携帯していた酔い覚ましの錠剤を飲み込むと、体に回っていたアルコールが急激に分解される。思考がクリアになってきた。


再び白狐に変化して走り出したフブキを追って、ケイは暗闇の中、道なき道を隠れ里へ向かって走り出した。


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