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32 竜騎士団2年目 風邪と初詣

月日は流れ年末、ケイは例年とは異なり、地元に帰らず領都で年越しを迎えようとしていた。

夕方、自分の部屋で布団にくるまっていると、玄関のベルが鳴った。何も応対せずにいると、鍵が外されて誰かが部屋に入ってきた。


「あ、いた。大丈夫?」

「大丈夫、ではない・・・」

「何か食べた?」

「まだ・・・」

「ちょっと待っててね。すぐに準備するから」

「ごめん・・・」


入ってきたのはカオリ。大きな荷物も持ってきていた。

一旦ケイの顔色を確認すると、すぐに部屋を出て台所へ移動した。


包丁の音と何かを温める音。いい匂いがしてきた。

ケイが空腹を覚えたとき、湯気の立つ皿を手に戻ってきた。おかゆと温かいお茶だ。


「ほら、消化のいい物作ってきたから、食べて」

「ありがと」

「マヤさんから特製の薬も預かってきたよ。ご飯の後に1錠だって」


そう言い、傍らのカバンから取り出したのは毒々しい色をした小瓶。

このセンス、ユリさんだろう。


体を起こし、ゆっくりと食事をする。今日は朝から一日何も食べてなかったこともあり、非常に美味しい。

あっという間に平らげてしまった。


差し出された温かいお茶を飲み、薬を飲む。

ケイが食べる様子を見ていたカオリが口を開いた。


「食欲あるみたいで良かったよ。ケイが風邪ひくなんてね。珍しい」

「ごめん」

「謝ることなんてないでしょ?」

「でも、帰省するつもりだったんだろ?」

「予定はそうだったけど、この状態のケイを置いていける訳ないでしょ」

「ごめん」

「もう、また謝ってる!」


本日は仕事納め。

本来であれば詰所に出勤すべき日だが、ケイは朝から体調不良のため休んでいた。


マヤさんが連絡を回してくれ、カオリが急遽お世話に来てくれたのだ。

ツララもお見舞いに来ようとしてくれたが、カオリが行くと分かると遠慮し、お菓子を寄越してくれた。薬と一緒にカオリが預かって持ってきてくれたものだ。


「カオリのご両親、怒ってないかな?」

「大丈夫。お土産と伝言の手紙をサオリに持たせたから。・・・挨拶に行くときに、嫌みくらいは言われるかもね」

「それは仕方ない」


現在領都学校1年制の親戚の少女サオリは今日の朝、地元の町へと戻ったとのこと。


「話戻すけど、風邪ひくなんて、何かあったの?」

「ん。ちょっと仕事でしくじってね」

「大丈夫だった?」

「大筋は問題なし。最近は討伐任務が続いて疲労が溜まってたのと、前回の討伐対象がクセがつよい魔物だったのが敗因」

「無事に戻ってきたから良かったけど、今度からは気を付けてね。残された私はどうすればいいの?ってなっちゃう」

「はい。おっしゃる通りです」


体調を悪くする能力を持つ特殊個体。

長期的視点を持つ魔物なのか、単純にケイの魔術抵抗力が強くて効果が表れるタイミングが遅れたのか。

ケイ自身では後者だと思っている。


「何年ぶりの風邪?」

「そいういえば・・・5、6年ぶりだな。あのスキー場依頼だ」


そこまで言ったところで、思い出した。


「そうだ。今度の同窓会、スキー場近くの宿で泊まりがけでやらないか?」

「スキー場?2年の冬に行ったところ?」

「そう。何となく思い出した。でも、はっきりとした記憶がなくて」

「ケイは風邪ひいたからね。凄くもったいないことだよ」

「もう一回行きたいなぁ。近くのロッジに泊まったよな?」

「うん。あのロッジが今もあるかは分かんないけど、近くに温泉宿なんかもあったし、そっちでもいいよね」

「年明け目標で、計画立てよう」

「いいね!タイミングもいいかも・・・」


薬が効いたのか、体が楽になってきた。

再び横になったケイに布団を掛け、カオリは食器をもって部屋を出て行った。


洗い物を終えて戻ってきたカオリは既に寝間着に着替えていた。

水の入った容器とコップを枕元に置くと、そのままケイの布団に潜り込んでくる。


「風邪、移るぞ?」

「移した方が早く治るっていうよ?」

「いや、ダメでしょ」

「え~?」


ぶつぶつ言いながらケイの布団の隣に新しい布団を並べ、そこで横になった。

顔をそちらに向けると、カオリはこっちをじっと見つめている。

ケイが眠るまで起きて隣にいてくれるらしい。


「じゃ、お休みなさい」

「お休み」


目を閉じたケイはすぐに眠りに落ちた。

そんな様子を、カオリは何やら考えながら眺めていた。




薬が効いたのか、翌日の夕方には体調は戻り、二日後にはほぼ完治という状態にまで回復した。


今日は大晦日。

ケイは厚着をして、カオリと二人で初詣へとやってきた。

年が明ける30分前、神社の前には何千人もの人が整列して待機している。


「改めてみると、領都は人が多いな」

「うん。私の地元だとこの何十分の一、っていう人数しかいないよ」

「俺の地元は、この半分くらいかな」


ケイが例年お詣りしていた神社と同様、この神社も領都の側の丘の上に建っている。

高い所に作らないといけない理由があるのだろうか?こうなると去年のことを思い出してしまう。


「狐、いるかな?」

「いるんじゃない?神社だし・・・ほら、あそこ」


示された方向を眺めると、人込みの向こうに狐が大人しく座っていた。

そんなことを話していると時間は過ぎ、年があけた。


「明けましておめでとう」

「明けましておめでとうございます。今年もよろしくね」

「よろしく」


人の列が動き出した。

1時間ほど経過し、ようやく列の先頭まで来たので、お賽銭を投げてお祈りする。


(今年もよろしくお願いします)


熱心に祈るカオリを少し待ってからおみくじの列へ。

引いたところ、ケイは小吉、カオリは大吉。


仕事:問題は解決する。ただし努力が必要

 健康:油断すると悪い。節制につとめよ

 恋愛:順調。真摯に対応するべし


(頑張れば道が開ける、ってことかな)


カオリは何か書かれていたか見せてくれなかった。

ケイはおみくじを木に括り付けた。カオリは大吉なので持って帰るとのこと。


明るい参道の脇、屋台で栗を買い、つまみながら家への道を歩く。

途中で竜騎士団メンバーや知り合いをちょこちょこ見つけたが、人に阻まれて話かけることはできなかった。


マヤさんとは目が合ったので、向こうは気づいたと思うのだが、こっちが二人だったので気を使ってくれたのだろう。


ー  ケーン  ー


遠くで狐の鳴き声が聞こえた。



二人でカオリの部屋へと戻ると、つけっ放しにしていた暖房のおかげで部屋はあたたかい。

2時間以上真冬の外にいると、体は冷え冷えだ。


お風呂の用意をすると、先にカオリを入らせる。

女性の体を冷やすわけにはいかない。


5分後、油断したところでケイが乱入。


「ちょっと、寒いよ、てか冷たい・・・ン・・・あ♡」

「ふぅ。あたたかいなぁ」


文句を言うそぶりを見せたものの、スムーズに状況は移行した。

この一年で、二人はすっかり反りが合うようになっていた。

新たな一年が始まった。




年明け、体調を戻したケイは竜騎士団の業務を黙々とこなしていた。

相変わらず列島領への応援は続いており、そのしわ寄せによってケイが担当する討伐任務が増え、そうなると報告資料を作成する時間も増える。


ツララへの指導が十分にできない日も増えてきた。


「私のことは、心配しないでください!」


とは言われたものの、指導員としては情けない。

ツララには課題を設定し、進捗を確認する時間だけは確保するようにして、その他の指導はマヤに依頼することにした。

元々指導員に立候補していたマヤと、素直に言うことを聞くようになったツララ。二人は上手くやっているようだ。


来月から領都学校入学の準備を始めよう、とケイは予定を立てていた。


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