31 竜騎士団2年目 秋の訪れ
市長室での打合せから2か月。
秋が深まると同時に、事態はゆっくりと悪化していた。
列島領からの特殊応援要請が来たと思ったらその回数は週を追うごとに増え、ケンイチとレイジが毎週のように対応している。
ケイは両名の任務に1回ずつ同行した。
ケンイチと同行した際の討伐対象はデュラハンの特殊個体。
即死スキルを持つ難敵である。
一番の特徴である即死スキルは特製の魔導具で無効化可能だが、それを抜きにしても人馬一体となった剣技や半霊体の体に対する物理攻撃の効果半減など、厄介な特徴満載の魔物だった。
その際に見せてもらったのが、霊体を殴るケンイチの技術。
「魔力の性質を変えてやれば、本来は殴れない物だってダメージが通るようになる。属性変換は小技だが、覚えておいて損はないぞ」
というコメントの後、霊体を普通に殴り倒してしまった。
元々の魔力総量がそれほどでもないケンイチは、直接攻撃魔術を捨て、魔力の形質変化技術を習得している。
拳による打撃が有効化できれば、あとはいつも通り。
本来物理による攻撃では討伐不可とされている魔物を、体術のみで討伐できる理由がこれである。
見た目によらず繊細な技術を持っているのだ。
対象的に、レイジの技能構成は魔力極振り。
では、魔術を反射・無効する敵にどう対処するのか、というと、対策は至極簡単。
硬い弾丸を魔術で加速して撃つ、それだけである。
同行した際の討伐対象はエレメンタルバタフライ特殊個体。体長2メートルの極彩色の羽をもつ蝶で、通常個体は各種属性魔術を使いこなす。この種の魔物は、特殊個体化することによって新たにアンチマジックスキルを習得。
自身の周囲に攻勢魔術を無効にする領域を展開するようになるため、魔術師の天敵とも言える相手だった。
「魔術が聞かないなら物理で攻撃、事前情報があれば対策なんていくらでも考えられる」
レイジはそう言うと、魔術を用いて無数のレールガンを構成、
一人砲撃大隊とでもいうべき集中砲火によって、対象を跡形もなく消滅させてしまった。
両人ともに共通しているのは、結局自分の土俵で戦っているということ。
自分の得意なもの、有利な点を伸ばし、弱点を補う。
言葉にするとそれだけだが、闇雲な対策ではない。
ケンイチが一日中攻撃魔法の練習をしたり、レイジが毎日筋トレをしたりはしない。
各自の才能や現状のスキル構成を考慮すると、非効率すぎる。
竜騎士団の目的は特殊個体を討伐することである。
逆に言うと、討伐さえできるのであれば、自分の弱点を補う必要はない。
団員各自に求められる最も負担の少ない対策は、弱点を強みでカバーする方法を確立し、そこにリソースを注ぎ込むこと。
どうしても対応できない討伐対象は、別の人物が対処すればいい。
そのための事前情報も入手しているのだから。
自分の強みを理解し、必要な技術を見極め、そこに集中する。今は地力を上げる期間だとしても、将来は集中と選択が必要だ。
他の竜騎士団メンバーにはない、自分のみの強みは何だろう?ケイはそんなことを考えるようになった。
応援任務を優先し、二人が不在の日が多くなると、ケイの辺境伯領での討伐任務の頻度が上がり、担当する特殊個体のレベルも上がってきた。
今は何とか対応できているものの、この調子で件数の増加が増えれば年明け以降はいよいよスケジュールが厳しくなってくるだろう。
「キュー?」
「あ、何でもないよ。心配してくれてありがとう」
「キュッ!」
自分の上で固まったケイを心配したのか、飛竜が声を上げた。
現在、ケイはみーくんに乗って実家のある町へと向かっていた。
町の近くに2体の特殊個体が出現、それぞれ無関係で別の場所にいるため、町により近かった1体の処理を終えたところだった。
日も暮れてきたので一旦実家に泊まり、明日、もう一体の討伐を実施する予定である。
飛竜は、実家の農場にある、普段使われていない倉庫前に降り立った。
倉庫の中から少女が出てきた。
「ケイ兄ちゃん、お帰りなさい」
「ただいま」
「みーくんも、久しぶりー」
「キュッキュー」
話しかけてきたのは妹のアズサ。
倉庫の中で色々準備してくれていたようだ。
「藁、敷いておいたからね。いつも通り、この倉庫使って。リンゴはあそこ」
「キュッキュッ!」
みーくんは早速倉庫の中でリンゴにかぶりつく。
アズサはそんなみーくんの足をペタペタ触っていた。
実家の皆もそろそろ飛竜という存在に慣れてきたようだ。
「父さん達は?」
「お父さんとミノル兄は、まだ畑かな~。お母さんは母屋にいると思うよ」
「分かった」
みーくんに手を振って、ケイは倉庫から出ていく。
みーくんも尻尾を振って返した。慣れたものだ。
母屋に行くと、そこには珍しい顔があった。
「ホノカじゃないか。久しぶりだな」
「やー、ケイ。久しぶり~」
「どうしたんだ?こんなところで?」
「こんなところって、自分の実家でしょうに」
「そういう意味じゃない。ホノカがウチに来るなんて珍しいな、ってことだよ」
「ここに来る目的なんて決まってるじゃない」
ホノカはいやらしい笑みを浮かべて近づいてきた。
「遊びのお誘いよ」
「おいおい」
「一晩のアバンチュールなんてどう?お相手はピチピチで人気な市庁舎の美人受付嬢」
「お断りします」
「ありゃ、残念」
「カオリに何と言われることか、想像するだけで恐ろしい。絶対そんなこと出来ないね」
「・・・完全に尻に敷かれているわね」
「ほっとけ。ホノカこそ、アバンチュールとかピチピチとか、死語じゃないか?本当に俺と同い年か?」
「ひっひっひ」
おばあちゃんのように笑うホノカ。
そのタイミングで母屋の扉が開き、母親が出てきた。
「玄関の前で誰かいると思ったら・・・ホノカちゃんじゃない。いらっしゃい」
「あ、お久しぶりです」
「どうしたの?珍しいわね」
母親は元々町長夫婦、すなわちホノカの両親とは親しい。ケイが領都学校へ往復するのに、ホノカたちの馬車に同乗させてもらうくらいには仲が良い。
当然、ホノカやノドカとも小さいころから顔見知り。
そのまま世間話が始まりそうな雰囲気だったので、割って入る
「ちょっと母さん、息子には何もないの?」
「ケイも、お帰りなさい」
「ただいま」
「部屋はいつもの客間使ってね。わかるでしょ?」
「・・・」
ちょっと雑な感じがするが、母親はいつもこうだ。
母親はホノカと話を再開した。
「そう、ケイと一緒にご飯どうかなと思って誘いに来たんです」
「ん?」
今日実家に戻ることはあらかじめ家族に伝えてあった。
帰省時は家族そろって母親の手料理、というのがここ数年の定番だったのだ。
「いいわよ。行ってらっしゃい」
「え?でも・・・」
「たまにはお友達と食事もいいと思うわよ。ホノカちゃん、息子をよろしくね」
「任せてください」
「ま、いいけどさ・・・荷物置いてくるからちょっと待ってくれ」
「うん」
客間に荷物を置いて、戦闘服から普段着へと着替え、玄関に戻る。
ホノカと母親は世間話を続けていた。ホノカがケイに声をかけた。
「来たわね」
「お待たせ」
「じゃ、行こう。ケイ、お借りしますね」
「どうそどうそ」
「行ってきます」
二人は連れ立って、町の飲み屋街へと歩き出した。
「でね、お姉ちゃんが言うのよ、早くいい人見つけなさいって」
「そうか・・・」
「そりゃーお姉ちゃんはいいよ。あんな素敵な旦那さんを見つけてもらってさ。新婚さんでラブラブだし。でもさ、元はといえば、お見合いじゃん。出会いがセッティングされてたんだよ?それと比べてあたしには何にもなし。完全放置っておかしくない?」
「そうだね・・・」
「贅沢は言わないから、若くて背が高くて顔が良くてお金持ちの彼氏が欲しい」
「それは贅沢かもしれないな」
ホノカは居酒屋でアルコールを入れると愚痴りだした。
ケイは基本、料理を食べながらそれを聞き流していた。
「ホノカはそういう話来ないのか?」
「そりゃー、ないとは言わないよ?受付なんてやってると色々知り合いはできるし。でもさ、一回り二回り離れたおじさん達に誘われて、はいはい、ってついていく訳にはいかないよ」
「ノドカさんの旦那さんよりも年上ってなると、ちょっと考えるな・・・」
「そう、そうなのよ」
ノドカさんの旦那さんはまだ20代前半のはずだ。
ホノカはジョッキを空にして、追加の酒を頼んだ。
「私にだって相手に求めるものはあるの。今はそれを妥協したくないわ」
「そんなこと言ってると、行き遅れるんだぞ」
「その時はケイに何とかしてもらうから」
「俺?」
「騎士団の有望株、紹介しなさい」
「・・・その時がきたらな」
有能な独身若手騎士団員の知り合いはいる。
とは言うものの、ホノカのご両親が何も考えていないとは思わない。
きっと、ノドカが子供を産みでもしたらホノカに話がいくだろう、と思っている。田舎は色々と順番に暗黙の了解があるのだ。
話は仕事の話へと移る。
「私が受付するのは今年だけかな~」
「そうなのか?」
「産休に入っている先輩が復帰したら、教育委員会へ異動願いを出すつもり」
「教育・・・先生ってことか?」
「教壇に立つんじゃなくて、教育環境を整える方の仕事だけどね。領都の学校って設備やら教師のレベルやら凄かったでしょ?この町でも同じようなことができると思うし、教育って町の力の底上げに絶対必要だと思うんだよね」
ホノカは仕事に前向きに取り組んでいるし、目標もあるようだ。
話はさらに変わり、ケイの近況報告のターンになる。
「後輩も入って、竜騎士団にも慣れてきた。来年には1人前として扱われるから、今は追い込みの時期だよ」
「魔物を狩るのにも慣れた?」
「慣れてきたな。今の時期になって、情報って大事だなって実感してるよ。最近は出動件数も増えてきた」
「なんか、強い魔物が増えてるって噂になってるけど」
「強くはなってないかな。ただ、数が増えて、対処まで時間がかかるようになったせいで人目に付きやすくなったのかも」
「ケガには気を付けてね。竜騎士団は帝国の力の象徴なんだから、下手なことしたらイメージ悪くなっちゃうよ」
「竜騎士団のイメージね・・・」
近衛騎士団と比較すると存在感が薄いものの、強い魔物を狩る竜騎士団は徐々に認知されてきている。
領都の市長たちのアピールが項を奏しているのだろうか。
「ま、一番心配しているのはカオリだろうけどね」
「そう・・・かな?」
「そうだよ!」
そんなこんなで夜は更けていく。
飲み会後にホノカを家に送り、ケイは実家に戻った。
翌朝、ケイは残りの特殊個体を狩った後、再度実家に立ち寄り、獲れたばかりの農産物をお土産に領都へと戻った。




