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26 竜騎士団2年目 帝都出張7

「さて、とりあえずのラストとなるわけだが」

「私の扉ね」

「海岸だっけ?」

「そう。海水浴場だった」


アイナが少し時間を空けて答えた。


「・・・蟹が出てくる可能性が高い」

「カニ・・・」

「どういう蟹?」

「正式名称は島蟹。大型のものだと全長20メートル以上のものがいる」

「情報として聞いたことはあるが、実際遭遇したことがあるのか?」

「ワフの海岸に流れ着いて、それを遠くで見たことがある。全長10メートルはあった」


先ほどの雪熊よりもさらに大きい、だと?


「町の住民は避難、騎士団総出の大捕り物。特殊個体ではなかったけど、最終的に竜騎士団がやってきて殲滅。その時対処したのが今のウチの団長よ」

「団長、リノさんはどう対処したの?」

「報告書によると、最大火力で消滅、ってことらしいわ。そのときの影響で海底の地形が変わったとか。私は遠くの丘の上に避難中で、討伐の様子は見てない」

「そうか」


そこまでおとなしく話を聞いていたコウキが口を開いた。


「今まで、各自の記憶にある魔物の特殊個体が出てきた。島蟹の特殊個体はいたのか?」

「いたの。とびっきりのが」

「とびっきり・・・」


アイナが続ける。


「災害レベルの個体。当時のワフの竜騎士団だけじゃなく、他領から応援を読んだ個体よ。硬い、早いのは当然として、水系の魔物を操り、水魔術を使って短期間で津波を連発する」

「ヤバイな」

「今の私たちでは無理ゲーね」


ゲームだけに。


「ちなみに、当時はどう対処したんだ?」

「補助人員を総動員して海水を排除、拘束の上で体内に極大魔術を打ち込んだ、だったと思う」

「ちょっと待て、海水を排除?」

「その個体は沖合の海底に潜んでたらしいわ。・・・地上に出てきてくれれば多少は楽になるかもね」

「一番大変な海水をどうこうする必要がないなら、なんとかなるか・・・?」

「さあ、なんとも。でもそう願いたいわね」


ケイとしてもできれば戦いたくない。巨大な敵を相手に前衛としてヘイトコントロールをするのは大変だ。


「ま、その蟹が出てくると決まったわけではないし、暗くなってもしょうがない。アイナ、他の候補はないのか?」

「あとは、シーサーペント、シーワイバーンとか・・・」


ワフ侯爵領は大海に面し島が多い。必然的に海洋関係の魔物が多い。

アイナから海に棲む魔物に対する基本的な対処方法を教えてもらい、三人は最後となる赤い扉を潜った。


洞窟を抜けると、そこは夏の海岸だった。

きめ細かい白砂の浜が続く海岸で、沖にはいくつか小島が見える。


「ワフの海水浴場ね」


アイナが確認するように口を開いた。

このときの三人の思いは一つ。蟹はやめてほしい。


最初に気づいたのはアイナだった。沖の方、海の中から何かが突き出て、動いている。

ケイとコウキもそちらに目をやると、その物体はゆっくりと海岸へと近づいてきた。


「・・・」

「・・・」

「・・・」


遠浅の海水浴場らしく、まだ随分沖の方にもかかわらず、魔物の上部が見えてきた。

巨大な岩。蟹には見えないだけましか?と思っていたところで、下部が見えてきた。

岩に見えたのは巨大な巻貝だった。巻貝の表面には巨大なフジツボや岩がびっしりと付着している。


「島蟹、ではないよな?」

「あれはヤドカリ。思い出した。巨大化した特殊個体の報告書があった」

「対処方は?」

「蟹と同じ。殻に守られた部分が弱点。破壊してそこに極大魔術を打ち込む。殻の強度は個体次第。水魔術に注意」

「ヤドカリの特殊個体か」


結局甲殻類と戦うのか、とケイは覚悟を決めた。

砂浜で散開した三人に対し、少し距離を置いた場所にヤドカリは上陸した。

背負った貝の大きさは10メートルほど。雪熊よりも大きかった。


「殻の強度を確認する。援護を」


そう言ってケイが砂浜を駆ける。同時にアイナの魔術が発動し、ヤドカリに雷が直撃するが、有効打になっている様子はない。雷は巻貝の表面を滑り、地面へと流されているようだった。


ヤドカリの無機質な目がケイを捕らえ、鋏をふるう。

雪原で使ったのと同系統のコウキの術によって砂が巻き上げられてヤドカリの視界をふさぐが、ヤドカリは意に介さず正確にケイを攻撃してきた。


ケイはその一撃をかいくぐり、空中を走り巻貝の露出した部分を狙う。

当初は雷刃の方が相性良さそうと思ったが、アイナの術が流されたことを考慮し、水刃で斬りかかる。


両断するつもりで斬りかかり、殻を途中まで傷つけることはできたが、これ以上やると剣が持たないと判断し一時離脱。追撃を受けて殴られたものの、コウキによる魔術障壁によってダメージが軽減された。砂浜に着地し、回避動作を続けつつ自分に回復魔術をかける。

結局ケイの刃は殻の内部まで届かなかった。想像以上に硬い。


アイナの遠距離魔術も同様だった。殻がとにかく硬い。レーザーを弾き、炎や氷を無効化する。最初に放ったあまり聞いていない雷が一番効いているような気までしてきた。


では、ということで殻から出ている足や頭を狙うと、ヤドカリはそこへの攻撃はハサミを振り回し徹底的に防御をしてくる。そもそも殻から露出している部分が少ない。

このままの調子で戦い長時間続けばケイたちが押し切れるが、決着前にヤドカリは逃走に入るだろう。今は陸上なのでまだやれるが、海中に逃げられるとお手上げだ。


様々なパターンで、他属性の攻撃を試すものの、どれも今一つ決定打に欠ける。

連携攻撃を継続し、ヤドカリを陸上で戦い続けるよう誘導しながら、次の手を考える。


「殻の防御力が異常だ。アイナ、何か情報はないか?」

「炎系はともかく、雷系が効かないのは不自然。殻に付着したフジツボが怪しい」

「共生関係か。やってみよう」


時々、先ほどの雪熊と雪精のように、複数の魔物がお互いの利益のために協力していることがある。

フジツボも魔物で、ヤドカリと共生関係にあるかもしれない。一部だけ殻が露出している場所があることも怪しい。敵にわざとそこを狙わせるためではないか。


ケイは接近し、再び殻を攻撃。ヤドカリは殻の防御力に自信を持っているのか、殻への攻撃に対する防御行動はあまりない。

今回は殻の露出部ではなく、その周囲のフジツボをこそぎ取るように剣を振る。


岩が砕けるような重い音と共にフジツボは殻からそぎ落とされた。

同時にアイナによる雷魔術が直撃すると、先ほどよりも、ヤドカリは先ほどよりも大きく震えた。上手くダメージを中和できていないようだ。


ケイは空中を蹴り、殻に付着した共生体を破壊していく。

ヤドカリもマズいと思ったのか激しく抵抗、ケイの行動を妨害しようと脚を振り回したり、回復系の術によってフジツボを修復しようと試みるが、コウキとアイナのフォローもあり結局大型の共生体は悉く破壊されてしまった。


その後殻を攻撃すると、明確に先ほどよりも脆い。水刃による一撃で殻を切り裂くことができた。


不利を悟り、体の向きを海方向に変え逃走に入ろうとしたヤドカリに対し、コウキが紙を3枚取り出す。

各々が牛顔の獣人の胴体、鋭い爪の生えた右腕、同左腕に変化した。合体し、牛頭を持つ獣人の上半身ができあがる。


紙の人形が両手を前にかざすと、ヤドカリは上から見えない巨大な手に抑え込まれたように地面に伏した。重力操作によって地面に縫い付けられ、その場から動けなくなった。


「効果は後10秒」


コウキからの通信に対し、ケイが答える。


「俺が殻に穴をあける。アイナがとどめを」


ケイはアイナとヤドカリの中間地点に立ち、腰の道具入れから銀色の球体を取り出した。魔力を通すことで形を変えることができる、ユリが作った特殊金属だ。

左腕をヤドカリに向け、魔力を用いて弓を形成する。金属は矢の形状に変化し、解き放たれた。


重力操作が切れた直後、矢はヤドカリの殻を貫いた。殻に突き刺さった状態で矢は形を変え、殻の内部、矢先の部分が爆発した。貫通力に特化したため爆発は小規模だったが、矢が刺さっていた部分は内部からめくれ上がり、どす黒いヤドカリの体が露出する。


その露出した部分に、アイナが放った魔力球が着弾した。

アイナの持つカートリッジロッドにはその名の通り、外付けのエネルギーカートリッジが接続されている。事前に装填しておいたエネルギーを消費することで一時的に術の性能を上げることができる杖だ。

空中でとどめの魔術を準備していたアイナは、その魔力球作成にカートリッジの残エネルギーを注ぎ込んでいた。


鬼蜘蛛を消滅させたレーザーの何倍もの威力を持つエネルギー体は、ヤドカリの体内に潜り込むと、そこで破壊の力を開放した。

大爆発が起こり、ヤドカリの本体は爆散。殻の一部が破壊されずに残ったものの、特殊個体の消滅は明白だった。


そのうち、残った殻の一部も光となって消え去った。

爆心部には赤いスワチカが落ちていた。


キーアイテムの周りに集まってきた三人は互いをねぎらいつつ感想を口にする。


「種が分かれば、対処できるものだな」

「情報って大事ね」

「敵を知り己を知らば・・・、ってやつだ」


情報を残してくれた先人に感謝である。


「まあ、例のカニじゃなくてよかったよ」

「本当、ヤドカリでこれだけ苦労するんだから、カニがでてきたらどうなってたことか」


そんなことを言いつつ、アイナはスワチカを手にする。

これまでと同様、台座のある大広間に自動で帰還した。


スワチカを台座にはめると赤い光を発し始めた。


「これで終了か。まだ何かあるのか」

「3連戦は正直疲れた。これで終わりがいいな」

「そうね」


青、黄、赤の三色の光が徐々に収まり、逆に台座そのものが発光を始める。

光はどんどんと強くなり、周りが白い光に塗りつぶされる。


光が収まると、そこは戦闘訓練が始まる前にいた地下室だった。

手足は椅子に固定されており、周りには同じような椅子が並んでいる。


「お疲れ様でした」


椅子の前に立ったのは、開始前にケイを拘束した近衛騎士団団員だった。

戻ってきた、と思ったが気は抜かない。

解放されたと思ったら実はまだ幻術の中、というパターンを警戒する。


が、特に何事もなく開放され、ようやく一息ついた。

解放されたコウキとアイナも近づいてきた。


「終わったようだ」

「そうね」

「本当に、お疲れ様」


そんな三人に向けて近寄る人物がいた。近衛騎士団団長である。


「お疲れ様。君たちが今年度の最初のクリアチームだ。3時間強でのクリアは歴代でも上位だよ」


残り2チームはまだ終了していないらしい。


「これで訓練終了でしょうか?」

「ああ。残りのチームが終わるまで、自由時間だ。食事等自由にこの部屋を出て構わない。定時前にはここに戻るように。」


そういって団長は離れていった。

ケイは気が抜けると同時に空腹感を覚えた。


「コウキ、美味しい店教えてくれ。というか飯食べに行こう」

「そうだな。三人で行くか!」

「賛成」


3人は部屋を出て建屋からも外に出る。

昼休みのピーク時間を外し、平日の昼に空いた有名食堂のランチは美味しかった。


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