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20 竜騎士団2年目 帝都出張

あの日、あの試合の後から、ツララのケイに対する態度は大きく変わった。

ツララは思った以上に体育会系気質だった。


「先輩、おはようございます!」

「ちょっと分からないところがあって・・・教えてもらえませんか」

「武術場ですね。ご一緒します!」

「お疲れ様です!これ、オススメのお菓子です。どうぞ」


クロカゲに何を言われたのかは知らないが、ケイに熱心に指導を求めるようになった。

先日まで避けがちだったのが嘘のようにケイに絡んでくる。


あの日、詰所に戻ってきたツララは、ケイに対して謝罪した。

ケイは謝ってほしいわけではなかったので困惑はしたものの、それを受け入れた。その後からずっとこんな調子である。


あまりにもあからさまな変わり身の早さであるが、団長やクロカゲ的にはこの流れは自然なものらしく、特に口を挟んだりはしてこない。

上下関係をはっきりさせれば言うことを聞く、というのが正しかったことが図らずも証明されてしまった。


あの戦いで、ケイはツララに実力を過剰に評価されてしまったらしい。

そういう印象を与えるために頑張ったとはいえ、実際はギリギリの勝利。正直、ネタがばれたら失望されそうなので、ぼろが露呈しないようにケイも鍛錬を続けていた。


最近は、先輩のいうことであれば、と逆にケイの助言に盲目に従いがちなので、自分で考えるように言い聞かせることも増えた。

ケイは、何事もバランスが大事だということを実感した。


現在のツララの指導は基礎地力を上げることに主眼を置いている。

戦闘の最後に見せた技、分身の精度の高さは称讃に値するものだった。アレを長時間維持できれば、色々と応用がきく。


ということで、当面の目標は二つ。

一つはあの分身を5分間フルで維持する基礎地力を手に入れること。

もう一つが、幻術の精度を上げること。


「ツララちゃん、午後は練習しましょうか」

「はい、お願いします!」


幻術と言えばマヤである。

幻術だけは、ケイではなくマヤが教えていた。


現竜騎士団員の中で、唯一教えることが上手な団員がマヤである。

特化型のマヤは学生時代から幻術の精度が極めて高かったものの、その特殊性ゆえに領都学校生活をその強みだけで一点突破することはできなかった。

学力、運動神経は人並みだったので色々と苦労したらしい。


ケイは先日、マヤから初めて幻術についてのレクチャーを聞いたときに感動した。

ちゃんと教えてくれる人がいるんだ、と。


先日ツララが見せた動きは、暗部特有の技術で体術と幻術の合わせ技である。

体術の方は基礎練習で上げていくので、同時に幻術の精度を上げるのは悪くない選択だ。

日々成長する後輩に追い上げられつつ、ケイも自分の課題をこなすのであった。




夏のある日、団長が団員を集めた。


「さて、今年も竜団会議の時期になった」


竜団会議は、各領の騎士団関係者が交流を深めるために、帝都で交流を深めるという行事である。

昨年は集合研修前ということで、ケイにはお呼びがかからなかった行事だ。


「今年の開催日は2週間後。私とケイ、ツララの3人で行こうと思う。二人とも、とくに予定は入っていないね?」

「はい。」

「はい!」


返事をしたケイとツララであったが、異議を唱える者がいた。ユリである。


「ちょっと待って。私も行きたい」

「ユリさんは去年参加したから、今年はダメです」


団長は要求を却下した。


「それに、参加人数は各団から団長に加えて一人か二人。枠としても無理です」

「そこを何とか。私は会合には出ないし、帝都への往復で飛行船に乗せてくれるだけでいいから」


この世界の飛行船は、海に浮かぶ一般的な船が魔道具の力でそのまま空を飛ぶもので、帝国が他国に秘匿している技術の一つである。

領都と帝都を結ぶ定期便があり、竜団会議にはその飛行船を使って移動する。


「旅費の問題?内容次第だよ」

「新しい人形のために、欲しい素材があるの。帝都から取り寄せって方法でもいいけど、どうせなら自分の目で選びたい」

「ん・・・あとで詳しく聞かせて」


そういって団長は他のメンバーにも目を向けた。


「他に異論や言いたいことがある人は?」


他のメンバーから、出席したいという話は出てこなかった。


「では解散。ケイとツララは会議に向けて準備をはじめようか。ユリさんはあとで話聞きに行くから」

「了解~」


ユリは詰所を出て行った。レイジやルイもそれに続く。

残ったケイとツララに対して、団長が詳細の説明を始めた。


「会議は帝都の近衛騎士団建屋で行われる。目的は交流だが、竜騎士団の交流といえば・・・なんだと思う?」

「もしかして、戦闘訓練ですか?」

「正解!ケイも分かってきたね」


正直、分かりたくはない。


「3日構成になっていてね。1日目が会合。参加する団員達が決まったテーマについて発表・討議する。2日目が懇親行事その1。ここで、各団の2年目若手達による戦闘訓練が行われる。そして3日目は懇親行事その2。これは普通の立食パーティー」

「2日目、面倒な感じがプンプンするのですが」

「過去の参加者として言わせてもらうと、普段とは一味違う訓練だから、やっといて損はないよ。同期のレベルや自分の立ち位置も分かるから、参加してよかったと思ってる。新人は強制参加だから、前向きにやった方が楽しい。うん、楽しい」

「そう、ですか。ちなみに、どんな訓練でしょうか?」

「それは秘密。当日まで言えない」


この含みを持たせた感じ。また何か隠しているな、とケイは察知した。

最近、団長がケイに与える事前情報が少なくなってきた気がする。


「あの、私もその二日目の行事に参加するのでしょうか?」

「ツララはまだ正式所属ではないから、今回は特例的な参加。だから第2部には参加しなくてもいい。どうしてもっていうなら参加してもいいけど、私の思いとしては、将来本採用になったときに参加してほしい。この行事の目的は同期との関係性を築くことだから」

「では今回は遠慮させていただきます」

「うん。・・・ツララは帝都に行ったことは?」

「ありません」

「であれば、ツララの主目的は帝都見学だ。色々と経験になるはずだから」

「・・・楽しみです!」


団長の情報から、今回の会議出席が実質帝都旅行だと分かったツララは本当に嬉しそうだ。

一方でケイは簡単に喜ぶことはできない。


「戦闘訓練ということは、それに向けて特別な訓練をするのですか?」

「いや、訓練時間を増やすようなことは不要だ。ただ、今日から時間があるときは私が訓練相手になるよ」

「・・・」


それを特別な訓練と呼ぶのでは?とケイは思った。


「ということで、第1部にはケイとツララにも参加してもらう。別に発言を強制するような会議ではないから、登壇者の話を聞いていればいい。第2部は言った通り。第3部では、一応自己紹介の時間があるから、考えておいてね」

「はい」

「はい!」


二人の返事を聞き、団長は安心したようだった

そして、ユリと話をすると言って詰所を出て行った。その後は早速ケイと訓練の予定である。


「先輩は、帝都へ行ったことはあるんですか?」

「あるよ。3年前に」


雑談を始めた二人にマヤが参加してきた。


「領都学校の研修旅行先は帝都なの。大体の人はその時初めて帝都に行くことになるのよ」

「帝都は遠いし、庶民にとって飛行船なんて滅多に乗れるものじゃないし」

「そうそう。特に運賃がね」


主要街道は整備されているが、それでも陸路で帝都へ向かうと何日もかかる。

かといって飛行船で往復すれば、それだけで月の収入が飛んでしまう。

ユリさんが団長に直訴したのも理解できる。


「帝都については聞いていると思うけど、やっぱり実際に行くのとは違うからね」

「楽しみです!」

「お土産よろしくね」

「はい!」


ツララとマヤは帝都の話で盛り上がっている。


「ケイくんは、今回の主役だからね。頑張って」

「先輩、頑張ってくださいね!」


二人の激励にケイは苦笑で返すのであった。


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