18 竜騎士団2年目 進捗30%
その日、ケイは団長、クロカゲとともに会議室にいた。
団長が話を切り出した。
「今日はツララさんの指導に関して話をしたい。
入団からおよそ三ヶ月。彼女も竜騎士団に慣れてきたように思う。初期受入教育は順調に完了。直近一ヶ月は、クロカゲと共に諜報活動にでて詰所不在のことが多くなっている。」
「・・・」
「・・・」
「諜報活動に取り組むのをやめろということではない。が、彼女は一年間の仮所属状態だ。団長として、私は即戦力を求めるつもりはない。むしろ、この一年は基礎的な能力の向上、全般的な体力・技術・知識の向上がメインでいいと思っている。これはケイの認識も同じ。・・・クロカゲ、君の考えは?」
「団長と同意見だ」
クロカゲはもともと口数か多い方ではない。団長の話に関する返答も簡潔なものだった。
「今、焦ることはないと考えている」
「であれば・・・」
団長が続ける。
「もしかして、クロカゲから彼女に基礎訓練をつけているのか?」
「いや、諜報活動に必要な技術は教えているが、一般的な内容とは言い難い」
「詰所不在時に何をしているか、具体的に教えてもらえないか?」
「・・・俺だけの判断では難しい。一度市長と話す必要がある」
「市長・・・暗部関連か」
「そうだ」
ケイが置いてけぼりになっているものの、団長とクロカゲの間ではわかるやり取りらしい
団長がケイに補足説明を行う。
「クロカゲは今も暗部に籍を置いている。竜騎士団が本務、暗部が兼務。組織的に、暗部の頭は市長だ。彼女が今取り組んでいることが暗部に関係するのであれば、市長にも話を通した方がいいだろう」
「そういうことですか。わかりました」
団長が時計を確認した。
「少し時間が空くが、この後市長の時間を押さえている。二人とも、時間は大丈夫か?」
ケイ、クロカゲ、どちらも予定は入っていなかった。
時間まで一時解散というとき、珍しくクロカゲからケイへと話があった。
「ケイ。ツララについてだが」
「?はい。なんでしょうか」
「指導団員である君をないがしろにしていること。すまない」
謝るクロカゲ、というシチュエーションを見たことがなかったため、ケイは驚いた。
「いえ、それはいいんです。彼女がちゃんとやっていればいいので」
「すまない・・・」
クロカゲはもう一度謝罪し、それっきり何も話さなかった。
その後詰所へ戻ると、マヤとツララが市庁舎内の噂についての話をしていた。
帰ってきた3人を見てツララから問う様な視線を一瞬感じたものの、マヤは参加をためらうような話題を続けている。
漏れ聞こえてくる内容だと、案外ツララは噂に精通しているようだった。さすが元暗部だ。
自分の席で特殊個体に関する資料を見ているうちに時間は過ぎ、改めて3人で市長室へと向かう
団長一人で来るはずのところを3人できたことで、市長は団長の目的に気付いたようだった。
市長は応接用テーブルを勧め、4人が席についたところで団長から話を切り出した。
「竜騎士団の新人、ツララさん関連で相談がある」
「ん・・・」
詳細説明を要求する市長に対し、団長が続けた。
「ツララさんは元暗部だが、この1年は竜騎士団団員だ。一方で業務内容は諜報活動、指導団員であるケイが直接指導することができない。活動の詳細を知っているのはクロカゲだけだ。この状態で彼女の育成計画を考えるため、諜報活動で何をやっているのかを知りたい」
「つまり、竜騎士団に所属したとはいえ、実質は暗部のままだから彼女を指導できない。指導するために暗部の具体的な活動内容を知りたい、ということか?」
「そういうことだ」
市長は少し考えた後、話を始めた。
「カイ団長は知るべきことだから、教えよう。ケイ君も聞いてくれ」
「暗部が転生者に対する抑止力をもつ、ということは関係者には周知の事実だ。では、具体的に抑止力が何かというと・・・闇討ちだ」
「・・・」
これは普通に予想できる。暗部に所属する者が、特殊個体を単独討伐するような転生者と正面切って勝負するとは思えない。
転生者も人である以上気を抜く瞬間は必ずある。そこを狙えば容易いだろう。
「相性の問題だ。転生者は特殊個体に強く、特殊個体は暗部に強く、暗部は転生者に強い。昔からこの3すくみでバランスを取ってきた。
個人の能力で劣る暗部は、情報と組織力で転生者を上回ることで闇討ちを成功させてきた。・・・皮肉なことに」
市長以外の3人は、竜騎士団の組織力を強化しようとしている転生者の市長にとって、この事実が特別な意味をもつことに気づいたが、それを口には出さなかった。
「特殊個体の調査をするため、暗部の持つ情報収集能力が必要だった。そのため前団長は暗部の長だったクロカゲを竜騎士団に引きこんだ。当時から今現在まで、クロカゲは暗部の長だ」
「・・・」
さすがにこれには団長も驚いたらしい。表情が変わったが、そのまま黙っている。
市長は続けた。
「転生者の集団である竜騎士団に、暗部の長がいるとは思わないだろう?私も最初驚いたよ。だが事実、クロカゲは現役の暗部の長だ。今でも暗部の仕事を行っている。
今の役割は、領全土の暗部から上がってくる情報をまとめることだ」
特殊個体の情報は、暗部の特殊技能を用いてクロカゲ一人で収集していたのではなく、暗部という組織の成果だった。
竜騎士団団員はなまじっか各々が秘匿技術を持っているものだから、暗部も当然何か秘伝を持っていると思い込んでいたが、種を明かしてみれば普通の結論だった。
「では、今のツララさんは暗部の連絡係、つまりクロカゲの秘書?」
「そうだ」
ここまでの話を聞いて、ケイは悩んだ。今は仮所属とはいえ、将来的にクロカゲの業務を行うのであれば、今のままの業務を続けてもいいのではないか、と。
だが、続くクロカゲの言葉は違っていた。
「俺は、ツララに今の仕事をさせたくない」
「・・・どうして?」
「今は自身の力をつけるべきだ」
まだツララは1〇才。しかも覚醒したばかりという伸びしろが大きい時期を、秘書業務で潰したくはない。上司ならそう思うのもわかる。
「ただ、あいつは俺が後任選定を迷っているのを知っているから、それを埋めようと今の仕事継続を希望している、それが心苦しい」
「心苦しい?」
そこからポツリポツリと話だしたのは、クロカゲとツララの関係だった。
「ツララは、俺の義理の娘だ」
「え?」
思わずケイは反応してしまった。全然似ていない。
「俺は孤児となった子供たちを育てている。そこで育った奴らはみんな俺の子供だ。ツララもそうだ」
「身寄りのない子供たちを保護し育てる施設は必要だ。行政としてそこに少し介入し、才能がありそうな子を集めて暗部の道を斡旋している。クロカゲを慕う暗部は多い。彼女もそうだ。クロカゲのため、という気持ちが強いのだろう・・・」
市長はこのことは知っていた。
「本人の希望と、周りの希望の方向が一致しない、というのが今の彼女の状況だ。彼女が前途有望な転生者であるがゆえに自分の希望が通らない・・・心苦しいな」
ツララが一般の人であれば、自分がやりたい職種につくこともできる。彼女は優秀だから、雇いたいという人は多いだろう。だが彼女は自分の仕事を自分で決められる立場にない。
転生者であるし、元暗部でもある。そんな人間を野に放つことができない。
一方で、ツララとクロカゲはお互い相手を大切に思っているからこそ、互いの相手への希望がすれ違っている。
この状況を改善するには・・・
「まずはクロカゲさんとツララさんで、よく話し合ってもらってはどうでしょうか。彼女はクロカゲさんを大切に思う故に、クロカゲさんが望まない道を行こうとしている。本心が彼女に伝われば、分かってくれるのでは?」
「そうだな、そこで納得してもらうのが最も簡単な解決方だ」
結局のところ、今のツララの希望はどうあっても通らない。
決定権を持つものが皆、その道を否定しているからだ。
であれば、今後の彼女のやる気を維持するためにも、何らかの手段で彼女の考えを変える必要がある。しかも十分に納得感を与えたうえで。
その方法は、お互いの考えをオープンにして、認識を合わせること。
「ツララはあれで頑固だ。話し合いでは考えを変えないかもしれない」
「そうですか・・・」
育ての親の言葉だ、そうなのだろう。
「・・・いざとなったら、ケイ、君にお願いしたい」
「私に?」
「ツララが納得する何かしらの上下関係を教え込めば。ツララは君に従うだろう」
「そんな方法でいいんですか?」
「ツララは才能がある故に、色々と力でねじ伏せてきた。それを否定すれば、これまでの自分を否定することになる」
「ケイ、頼めるか?」
団長の問いかけに対し、ケイは了承した。
話し合いで解決してほしいなぁ、と思いつつ。




