17 竜騎士団2年目 進捗20%
ケイは翌日、詰所にやってきた団長に、時間を取ってもらった。
急ぎの任務は入っていないということで、二人して会議室へ向かう。
「団長、今日はツララさんのことで相談があります」
「うん」
会議室、机を挟み、まずはケイが話を切り出した。
「自分が指導団員ということになっていますが、実際はクロカゲさんとツララさんがセットで動いています」
「そうだね」
「改めて、確認させてください。自分は、ツララさんに何を教えればいいのでしょうか」
「それは、竜騎士団として必要な基礎知識だよ。あとは諸々。クロカゲが教えなければいけないことはケイには教えられないから。逆に言うと、それ以外を教えてほしい」
そこでケイは団長にさらに詳しく説明することにした。
「基礎知識と諸々、ということですけど、その諸々がよく分からなくて・・・他部署との書類のやり取りや、基礎訓練方法は一通り教えたので。彼女は覚えもいいですし。ツララさんがクロカゲさんの後任であれば、やはりクロカゲさんが指導した方がいいと思います。」
「そうか?うーん、そうなんだけど・・・」
団長もツララの現状については何か思うところがあるらしい。
ケイは直球で聞いてみた。
「クロカゲさん、普段何をしているんですか?ツララさんと二人で、何をしているのか分からなくて・・・ツララさんが一年後に目指す姿、どういう能力が必要か、というのが自分には分からなくて、計画が立てられないんです」
自分自身のことであれば、中長期的な将来の姿、短期的な将来の姿をイメージし、それを具体的な課題に落とし込み、必要なことを積み重ねればよい。
だが、ツララの将来の姿が見えない。
「それとも、ツララさんの状況的に、この一年そういう具体的な目標が不要なのでしょうか?学校入学前に変なクセをつけたくない、と」
現状ツララは仮所属。来年度には領都学校入学、という予定になっている。
学校での他方面への才能開花を見込み、変な先入観を持たせないために通り一遍の教育しかやらない、という方針を団長が持っているのであれば、それはそれでいいとケイは考えた。
ツララの年齢、天才性や、もともと暗部の監視を外す名目で竜騎士団に所属したという背景を考慮すると、これが正解に思えてきた。
「私や市長はそう思ってるんだが・・・」
団長は困ったように話し始めた。
「クロカゲは、別の考えのようだ・・・ここからの話は内密に」
そいう言って団長が続けたのは、クロカゲの背景から始まる話だった。
「クロカゲは先代団長のころから竜騎士団に所属している。少なくとも、私が初めて会った時、10年以上前から外見に変化はない。彼、外見は何歳くらいに見える?」
「・・・40くらいですか?」
10年以上前から、あの外見?
「そう見える。でも誰も本当の年齢を知らない。私は、実際はもっとずっと上なんじゃないかって思う」
ケイの直感も、そうだと告げていた。
「年月によって磨かれる技術はもちろんあるが、失われるものもある。ここ数年クロカゲは自分の後任を探してたんだ。でも、転生者関連の事情を考慮すると、後任はなかなか見つからなかった。そんなときに現れたのがツララさんだ」
「・・・」
「暗部の中でも若くて優秀なツララさんに、クロカゲは自分の知っていることを全部教えようとしているように見える。しかも、可能な限り早く」
「年齢的に、何か急ぐ理由があるのでしょうか?」
「・・・本当のところは分からない。一度、クロカゲと話をするべきだろうな」
団長はさらに続けた。
「情報収集業務については、これまでクロカゲに丸投げしてしまっていた。上司である私が内容を把握していない、というのは組織として問題だな・・・」
「団長も、知らないのですか?」
「ああ。竜騎士団団長として評価するとき、クロカゲは特殊個体の調査報告書を確実に上げてくれる。必要な成果は上げているんだ。・・・その過程で発生する問題についての話をクロカゲからは聞いていない。専門外だということで放置しすぎたか・・・」
ケイが1年見てきたクロカゲという団員は、そういう悩みや問題を回りに相談するような人物ではない。
団長の悩みも少しは理解できる。
まぁ、竜騎士団の団員は、誰も彼も弱音を吐くような、他人に弱い所を見せるような人物ではない。
「クロカゲが戻ってきたら、一度現状について聞いてみる。ケイにもまた話を聞くかもしれないから、そのときはよろしく」
「あ、はい。」
とりあえず、何かしらの前進はありそうだ、とケイは思った。
その晩、ケイは居酒屋で人を待っていた。
個室で、となりにはカオリが座っている。
「よーっす。ひさしぶり」
「おー、ひさしぶりだなー」
「ひさしぶり、ガイくん」
やってきたのは学生時代からのマッチョな友人、ガイだった。
この一年で、筋肉が少し小さくなったような気がする。
「何かあったのか?元気ない感じじゃないか」
ケイの問いに対し、ガイは奥側ケイの正面席に座りながら答える。
「分かるか?ちょっとな・・・詳しいことは、ウルハがきてからな」
「そうか」
メニュー表を見ていると、ウルハがやってきた。相変わらず分厚い眼鏡をかけていた。
「久しぶり」
「時間ピッタリだな」
「久しぶり~」
そんなこんなで同窓会飲みが始まった。
ガイとウルハは二人とも、卒業後出身の町に戻っている。
ガイは地元の町で土木関連の部署に就職、ウルハは内緒ということで教えてくれないが、時々領都に出張できているらしい。
今日はたまたま、二人が同時に領都に来る日だったため、集まろうということになっていた。
ホノカも来たがっていたものの、どうしても抜けられない用事があったらしく、今日は不参加である。ホノカは地元の町の町庁舎で働いている。親のコネではない。
「いやー、お前たちがくっつくとはな」
アルコールが入ったガイが、並んで座るケイとカオリを見て言った。
カオリとのことは事前に知らせておいた。さすがに馴れ初めまでは話せない。
「ケイがそういう関係になるとしたら、ノドカさんだと思ってたぜ」
「いや、まぁ、色々あってな・・・」
「私はこうなるって思ってた。だってカオリは・・・何でもない」
一方でウルハの見方は違っていたようで、いつものように食べ物を次から次へと胃袋へ収めるのをやめ、何か言おうとしたが、カオリの顔を見て言葉を引っ込めた。その後、箸の動きを再開させた。
ケイがこれ幸いと問い詰める。
「え、何?」
「何でもない」
「何でもないって、そんな・・・」
「気にしない方がいいよ」
ケイの質問はカオリに止められた。怖い。
「まあ、ノドカさんはもう人妻だしなぁ」
「・・・そうだな」
ガイのフォローにケイは乗っかった。
ノドカはホノカと共に実家のある町へと戻った後、すぐにお見合いをして秋には結婚式をあげていた。
その連絡を受けたケイは少なからずショックを受け、その影響もあってフブキちゃんに入れ込んでしまった。
「気持ちの整理に半年、その後私と付き合うようになったのよね?」
「ああ」
対外的には、カオリとは年度末までは何もなかった、という扱いにしている。
カオリにとって、フブキちゃんだったときはノーカンらしい。
「めでたいことだよ」
「ありがとう。そういうガイはどうなんだ?」
「いやーキツイよ。出会いを求める余裕がなかなか・・・」
ガイはぽつぽつと話し出した。
「俺たち領都学校卒だろ。俺の地元の町じゃあエリート扱いなわけ。俺は体動かす方が性に合うと思って土木部入ったけど、うまくいかなくて」
「そんなにキツイのか?」
「肉体的なキツさじゃない。そっちならいくらでも耐えられるが、精神的にな。図面引いたり、年上のおっさんたちに指示してやらせたり・・・自分で体を動かすことなんでまずないぜ。段々慣れてはきたが、最初は失敗したって思ったよ。
俺の部署、若いのが俺しかいなくてさ。近い先輩でも7コ上だぜ。期待されてるのは分かるし嬉しい。けど教わること、覚えることが多くて色々とパンク気味だ・・・」
「そうか・・・でもエリートだ。実はモテるんだろ?」
「・・・お誘いはある!」
珍しく弱音を吐くガイだったが、本気で凹んでるわけではないようだ。
「ケイは仕事どうなんだ?」
ケイも愚痴りたくなってきた。
「俺は、今年から新人の指導任されたんだけど、その新人と俺、業務内容が違っててさ。結局、新人は別の、業務内容が同じ人とばっかり仕事してるんだよ」
「そりゃー指導員の選択が間違ってるんじゃないか?」
「んー、上の人の考えでは、一年目にはあまりディープな仕事させたくないみたい。俺が指導した方がいいって」
「じゃあ、新人とその人にそう言ってもらわないと」
「上の人もその人の業務内容あんまり知らないらしくて、強く言えないみたいなんだよな」
「手詰まりだな」
「やっぱ、その人が新人に入れ込みすぎてるのかな?」
「そうだと思うぜ」
そこで、二人の話を聞いていたウルハが参戦した。
「あるいは、新人がその人の技術を盗もうとがんばってるのかも?」
「そういう可能性もあるか・・・?」
「可能性ね」
そういう見方もあるな、と思ったところで、ウルハが珍しく話題を振った。
「可能性・・・最近面白い話を聞いた」
「え?何?」
「うちの町の噂。面白い技を使うのがいるって」
「面白い技?」
「そう。手、体、視線の動き、相手と呼吸を合わせて、相手の力が抜ける一瞬に自分の全力を出す技らしい」
「ふーん?まあ、武術って究極的にはそういうものだしな」
「噂になるくらいだから、精度が高いんだと思う。ケイにもそういうことできる?」
昔からウルハは色んな噂を持ち込んできた。デマの場合もあるし、真実の場合もある。
「どうかなー。俺が目指す方向もそうだが、実物見ないと何とも言えないな」
「そうか・・・残念」
そういってウルハは食事を再開した。
「そういえばホノカって今何してるんだ?」
「今年から庁舎窓口だったかな?」
「そりゃー出会いは多いだろうな、羨ましい」
同窓会の夜は更けていく。
その日の飲みは日付が変わる直前まで続いた。




