16 竜騎士団2年目 進捗10%
季節が夏に変わろうとするころ、ケイは困っていた。
現状、4つの課題のうち重要度が高いのは2つ。自分の成長と、ツララの指導である。
残りの二つのうち、組織改革については、市長直々に今年は本腰を入れなくてよい、と言われている。カオリから出された課題は、ケイの精神衛生上問題ではあるが、別に解決が必須というわけではない。むしろこの課題だけは、今のままでいいような気までしている。思い出したように発生する尋問イメージプレイは結構いい刺激になるのだ。
ということで、重要な前者2つについての現状を整理する。
まずは自分の成長について。
こちらはまだ順調な方である。
ケイも竜騎士団2年目ということで、討伐任務には難易度が高い対象が増えてきた。
力強い、素早い、打たれ強い、等の純粋に戦闘力が高い特殊個体は対処が比較的容易だ。向こうが何をしてくるか予測が立つためである。
じゃんけんで相手がパーを出すことが分かっていれば、チョキを出せばいいのだ。
厄介なのが、想定外の特別な能力を持っている場合だ。パーを出す、と思っていたらグーを出してくる相手である。この場合、その場で臨機応変に対処する必要がある。
基本的に竜騎士団団員達は自分の技術を高めることによって、相手の特殊能力を歯牙にかけない戦い方をする。対象を特殊能力ごと押し潰すのだが、ケイにはまだそれはできない。
グーに勝てるチョキをまだ持っていないのだ。
ちなみに、団長は動体視力と超速の判断、瞬間的な手の変更によって、相手がグーを出したことを確認してからパーを出すような戦い方をする。
団員はその戦い方を舐めプと呼んでいるが、じゃんけんのルールが意味をなさないという点ではどっちもどっちである。
ケイが目指している方向は、どちらかと言えば団長に近い。相手が出す手を想定し、なるべく負けないように、負けた場合でもダメージを最小限に抑え、反撃の一手で確実に刈り取る戦い方だ。
去年一年かけて磨いたケイの刃は鋭く、良相性の状態でまともに入れば、大抵は一撃必殺である。
であれば、やることは二つ。
相手の出す手の予測精度を上げること、ダメージを最小限に抑えることだ。
ケイは2年目の目標をこの二つに絞り、タイムスケジュールを立てた。
予測精度を上げるためには、実戦も大事だが、知識を得ることも大事だ。
まずはこれまでに竜騎士団が討伐した特殊個体の記録を片っ端から確認する。
さらに、各団員が行っている敵の能力推測方法をヒアリングして回る。
そういうわけで、ケイは地下室・資料室通いの時間を増やした。
ユリが討伐任務に出ることは稀だ。ユリのメイン業務は、他の団員が斃し、持ち帰った特殊個体を調査することであるからだ。
ユリの資料は特殊個体の特徴が細かくまとめられており、非常に参考になる。
能力推測方法は、5感と魔力検知をバランスよく利用するケンイチの方法がケイの戦い方にあっているように思った。
魔力検知や精霊に訪ねる、といった固有スキルに強く依存する能力の活用は、ケイにはハードルが高すぎた。
ダメージを抑えることに関しては、もう努力あるのみである。
ケンイチから防御体術について教わりつつ、レイジから魔術障壁の効率的な展開方法や術を受けてしまった場合の中和技術を教わる。
最近はルイに頼み込んで戦闘訓練をしてもらうこともある。ルイは精霊を飛竜の形にまとめて操ることを好むが、実は形状は飛竜固定ではない。
違う獣の形状を取り、特殊個体の能力を疑似的に再現することもできるため、実戦経験を積むという意味でも有効である。ただ、対価として竜舎でこき使われることも増えた。
その関係で、今では飛竜とは仲良しだ。
そして、団員全員に言えることであるが、とにかく教えるのが下手だ。
教えることが専門の領都学校の教師は生徒たちが躓きやすい場所を把握しており、難しい所、簡単なところでの教え方の強弱がついていた。
帝国が用意した高度な教育環境は伊達ではない。
一方で団員たちは、頼めばやって見せてはくれる。それはありがたいのだが、既に自分が当たり前のようにできることのため、ケイが何に困っているのか、なかなか理解してくれない。
そもそも出来なくて困ったことがないのではないか?とケイは思った。
結果、ケイは自分が何に困っているのかを丁寧に説明し、それを理解してもらってから解決方法を教えてもらうことになる。その後、何日もの練習を経て習得後、やっと次の段階へ進む、と少しずつ前進するしかない状態だった。
ケイは生まれ持った才能の差に加え、教える、伝えるということの難しさを身をもって知ることになった。
とはいえ、前進しているだけこちらの課題はマシである。
問題はもう一方の課題、ツララの指導だった。
まず困ったのが、何を教えるか、だった。
情報収集担当のツララと討伐担当のケイでは業務内容が異なる。
かと言って接点がないと親しくもなれないので、マヤにお願いして、各種手続きや書類の回し方などをケイからツララに教えるようにお願いした。
マヤとしては残念だったみたいだが、ケイの事情も分かっているようで、快く役割を譲ってくれた。
話し方や理解度を確認したかったのだが、ツララは飲み込みも早かった。
教わったことは1度目で大体覚える。2度目を教えることはあったが、3回同じことを言うような場面はなかった。
次に考えたのが、技術を教えることだった。
体力のつけ方、体術の鍛え方、魔力の高め方などを教えようと考えた。
ツララは元暗部かつ仮所属ということで、去年のケイのように他騎士団との合同訓練には参加していない。
ケイが指導しようと思ったのだが、現状ツララは、その年齢としては十分すぎるそれらの力を持っているので、結果、突っ込んだ指導はできず、一般的な指導に留まっていた。
そうこうしているうちに、本格的な諜報業務が始まったらしく、ツララはクロカゲとともにどこかへ向かい、竜騎士団詰所には来ない日が多くなってきた。
ツララに教えるべきことが何か分からない、ツララの予定がわからないのでスケジュールも立てられない。放置気味になっており、ケイはこれからのツララの扱い方について心配していた。
「ツララちゃん、今日も来ないみたいですね」
ここは竜騎士団詰所。デスクワーク中にマヤがケイに話しかけた。
「そうですね・・・またクロカゲさんと仕事に出ているのでしょうか?」
「おそらく、そうでしょうねえ。業務内容を覚えるという点では仕事熱心でいいことでしょうけど・・・」
マヤとしても、1年間の仮所属とはいえ、新任の少女をいきなり実務で鍛えるような形になっていることに対し、モヤモヤを感じているようだった。
「クロカゲさんも大変ですよね。ふだんの業務にツララちゃんを連れて行くんでしょう?何をやっているかは分かりませんが、きっとフォローが必要で、クロカゲさんの負荷は上がってるでしょうね」
そこで、ケイはふと疑問に思った。
団長は、言った。クロカゲには余裕がない。クロカゲは今もフルに動いてもらっている。諜報活動以外の教育まで任せる余裕はない、と。
それは本当だろうか?
「クロカゲさんって諜報業務を担当していますけど、具体的に何をしているんですか?」
「何って、特殊個体の調査じゃないかな?ケイくんもクロカゲさんから討伐前に情報を受け取っているよね」
「確かに、そうですが・・・」
討伐任務前には、特殊個体の外見の特徴や出現場所、分かる範囲での行動傾向や特殊能力の内容まで記載された報告書を受け取っている。他の団員はともかく、ケイにとっては特殊個体と戦う上で欠かすことのできない情報だ。
ケイは、毎回その報告書を読み込んでいるが故に、去年から何となく感じていた疑問を口にした。
「すべてをクロカゲさん一人で調査するのって、不可能な気がするんです。特殊個体は領全土に出現してます。飛竜たちを使っても往復だけで一日かがりの場所に、クロカゲさんは調査に行っているんでしょうか?加えて内容も詳細ですし」
飛竜たちと仲良くなった今、クロカゲが飛竜たちを使っていないことは知っている。飛竜に代わる移動手段があるのか?
いつ報告書にまとめているんだ?
「そこは、暗部の技術というか、機密事項なんじゃないかな?」
「マヤさんも知らないんですか?」
「まあ、ね。竜騎士団は個人的なつながりはあるけど、組織としてお互い必要以上に交流してこなかったし。とくに、転生者じゃないクロカゲさんはちょっと別枠というか・・・だれもクロカゲさんの具体的な業務内容は知らないと思うよ」
これは、もしかして。
「クロカゲさんの仕事を知っているとしたら、団長くらいだろうね・・・こういう日に限って、団長いないんだよね」
「あ、じゃあ自分からちょっと聞いてみます」
「そう?じゃ、何か分かったら教えてね」
「はい」
ケイは団長に相談することを決めた。




