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280 星の海を行く

昨夜も投稿しているため、やや連続投稿です。読み飛ばしにご注意くださいませ。


 皇都上空。


 科学が発達していないこの世界の夜は暗闇が濃くて、月が陰ればどこへでも忍んで行けそうだった。

 

「綺麗だ……」


 ほう、とイヴァン様が眼下の街を眺めて溜息を吐く。

 見下ろす街は暗いが、所々がまだらに明るい。それがかえって星空みたいで幻想的だ。


「本当に綺麗ですね。……あ、見て下さい。向こうは皇城ですよ」


 私が指さしたのは、ここから離れた丘の上にそびえ立つ皇城だ。

 そこがこの周辺で最も明るい。その下にある貴族街と商業地区に街灯の魔石ランプが集中しているから、その周辺はさながら銀河系の中心みたいだった。

 

 ひとりずつ飛行具に跨っているのだが、アベルさんだけはドラちゃんに騎乗している。


 ……なお、アベルさんは終始無言だ。

 イヤイヤ変装したことをまだちょっと拗ねているらしい。

 サマになっているのになぁ……と思いつつ、拗ね顔が可愛くてニヤニヤした。


 今のアベルさんの格好は、一言でいうなら「オペラ座の怪人」だ。


 黒いマントと上等な服を着こみ、さらに顔の斜め半分も白い仮面で覆っている。これを着けてもらうため、わざわざ隠匿のモノクルを外してチョーカーに代えてもらった。

オペラ座の怪人に似たラブストーリーがこの世界にもあり、慰霊祭でお父様が着る予定だったそれを借りたのである。


 「遊びに行くんじゃないんだぞ」とか「浮かれた馬鹿に見える」とか言ってさんざん抵抗されたが、顔を隠すのは何かあったときのために絶対に必要だと言って強行したのだ。

 アベルさんもそれには一理あると思ったらしく、最終的には無言で着込んでいた。


 ちなみに私とヴィル兄様は赤ずきんの変装で、私はフード付きの赤いマントとエプロンドレス、ヴィル兄様は茶色い狼の耳と尻尾を着けている。

 これも顔や髪を隠す、印象を衣装に向ける、そして本人と実際の種族をちぐはぐにして偽るためなのだが……。


 ふよふよと夜空を飛ぶ私たちは、まるでハロウィンのパレード隊だ。

 傍から見たらかなり愉快なことになっているだろうなと思う。基本的には見えないけど。

 

 暫くそうして飛行しているうちに、ラーミナ大教会の尖塔が見えてくる。

 

 そこで、ふと私は思い至った。

 聞こうかどうか迷うが、アベルさんに問いかける。


「行くの……嫌ではありませんか?」

 

 アベルさんが「丘陵事件」についての尋問を受けたのは、恐らく皇城か教会のどちらかだろうと私は思っている。


 もしそこではなかったとしても、どちらにせよ良いイメージは無いはずだ。


 今から行くそこは「赤い瞳を魔獣に関連づけして異端視している人間」の巣窟。


 そう思っての問いかけだったが、アベルさんは気にするなと言った。

 

「いつまでも引き籠もっていてはいられないからな」

「ひ、引き籠も……」


 確かにアベルさんは、軟禁のようで軟禁でもない境遇だ。

 意外と政治的に影響力のあるらしい学園長によって管理されている&チートな道具のせいで今は自由の身に近いが、それでも私が突っつくまでは自主的に引き篭もっていた。


 自覚はあったんだ……と突っ込みそうになるが、その前にジト目で見返される。


「君のせいだぞ。おちおち世を儚んでも居られない」


 ……そう言われて、責められているのに何故か嬉しくなった。

 

「じゃあ、もっとやらかしていきます!」


 私がそう言うと、アベルさんが口の端を引き攣らせた。


「頼むからやめてくれ。大体、教会に不法侵入する以上のやらかしってなんだ」

「うふふ」


 あ、目をそらされた。冷や汗かいていそうな顔である。

 そんな不安がらなくても、わざと暴れたりしないんだけどな……。


 そんな風に会話をしている内に、大教会の真上に到着した。


「お、大きいですね」


 フレッジ様が息を呑むように言った。確かに大教会は大きい。

 

 アベルさん曰く、ここは学園と同じで元々離宮だった場所だ。それを改修して大聖堂をくっつけ、今の形になったらしい。


 そんな建物の周りに庭や温室、別棟まであり、それら全ての施設を外界から遮断するように非常に高い塀がある。

 しかも、ちらりと見ただけでも警備兵らしき人間がウロウロと歩いているのがわかった。ランプの数も多いので、塀の中は明るい。

 どれだけ儲けていたらこれだけの設備を整えられるのかとちらりと思った。


「では手筈通りに行きましょう。ただし、身の危険を感じたら即座に身を隠し、上空へ退避してください」


 そう言うと全員が頷いた。

 私とヴィル兄様、アベルさんは一旦ここで待機だ。先発隊に声をかける。


 「ヨハン、ニコラス。イヴァン様、フレッジ様。本当にお気を付けて。絶対に無理をしないで下さい」


 一人一人の目を見て言う。すると四人は「お任せ下さい!」と元気よく言って、それぞれの目的地へ降下して行った。


 それを見届けつつ、つい小さく呟く。


「……信頼していますが、しかし、心配です」


 必要だからと協力を仰いだものの、やはり心配なものは心配だ。

 全員アルヘオ文字の扱いはしっかりと身につけ始めているし、なにより飛行具から落ちなければまず誰にも捕まるはずがない。

 私の持っているものほど高性能ではないが、それぞれ自作した隠匿のチョーカーも身につけている。

 だから撹乱作戦まで至らなければ、誰にも気付かれずに終わる可能性が高い。

 滅多なことで危険は無いと信じたいが。


「まぁ信じて待とうよ。薔薇を見つけて戻ってくれば良し、もし見つけられなくても、合図が来るから」

「はい」


 ヴィル兄様に頷いて返す。アベルさんも頷いた。

 そうして、しばらく三人で待機した。


夜間飛行はロマンですよね。

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