248 レイ先生の秘密 その①
秘密を明かすと言われてレイ先生の準備室に単身やってきた私は、勧められた椅子にちょこんと座った。
部屋の外ではヴィル兄様とヨハンが扉の両脇に立ち見張りをしている。
「どこから話したもんかな……」
私の前の椅子に腰掛け、額に手を当ててため息をついた先生は、意を決するようにぎゅっと目を瞑った。
随分緊張しているようなので、ちょっと軽口を叩いてみる。
「さくっとお願いします」
「だから……! もっと持てよ興味を……!」
がくっと前のめりになって顔を覆った先生は再び溜息をつき、ヤケになったように頭をがしがしとかいた。
そしておもむろに黒髪のカツラを外す。
「あっ。良いんですか?」
「ああ。この位置は外から見えない。扉にはお前の側近もいるしな……今からする話には必要だ」
カツラに続き慣れた手つきでメイクも綺麗に拭い去った先生は、完全に男の姿となった。
そうすればあっという間に攻略対象らしいイケメンの出来上がりだ。
細身で女顔だが、決してそれだけでは無い。
意志の強そうなオレンジ色の瞳に、気の強そうな眉。そして口調に違わぬヤンキーっぽさがほんのりと漂う、とてもレイ先生とは思えぬ、どこか男臭い表情だ。
セミロングの金髪は強めのウェーブヘアでサラサラだ。
真ん中分けの長い前髪、そしてカツラを被るためか後ろで1つ結びにしている。
「まぁ知っての通り、これが俺の素顔な訳だが……。見ていて思うことは無いか?」
「お、思うことですか?」
ええ、どんな質問だ。
言われてマジマジと見つめてみるが、特に思い当たることは無い。
いや、強いて言うならちょっとだけ思うことはあるが……。流石にありえない想像だったので言わなかった。
「分からないか。まぁその方がいいが。……で、まぁお察しだとは思うが、俺の差し出す秘密は俺の正体だ。それを握らせる代わりに、お前達が“隠している方の”研究に正式に一枚噛ませて欲しい」
「……分かりました。ですが、その前にひとつお聞きしても良いですか? ……どうしてそこまでして、私達の研究に加わりたいと?」
一応聞いてみる。何しろ天体観測の日、レイ先生は「正体がバレたら命に関わる」と言っていたのだ。
なので差し出してもらう秘密としてはこれ以上ないが、同時に「何故そこまで」という疑問が出てくる。
夜明け団を気に入っているからとか、勉強を推奨したいからとか、面白そうだからとか、手助けしてくれる理由は今までにもいくつか聞いてきた。
だがどれも、何となくだが……決定打ではない気がしていたのだ。
空を飛びたいとか、魔術が特別に好きというわけでもなさそうなのに。
するとその質問を見越していたのだろう。先生が薄く、冷たく笑った。
「復讐だよ」
「へ」
物騒なワードにびくりとするが、瞬きする間に先生はいつもの表情に戻った。
「もちろん暴力沙汰のことなんかじゃない。俺にコソコソと隠れて生きることを強いている奴がいるから、そいつに一矢報いて、安心して本来の姿で生きたい。そういう意味での復讐だ」
「なる、ほど……?」
「そのためにはまともなやり方じゃダメなんだよ。なんでもかんでも規格外なお前の存在が要る。活動を傍で見ていて、そう確信した」
レイ先生からチラリと漏れた殺気のようなものに驚いてしまったが、どうやら「隠れ生きずに済むようにしたい」という話のようだ。
「その、一矢報いたい相手というのは……?」
「……その話をする前に、約束して欲しい事がある」
カタンと椅子から立ち上がった先生が、机の引き出しの鍵を開け、何かを取り出した。




