227 考察
ペア。ペアねぇ……。
私はもやもやと「ペア」について考えつつ、廃塔への道を歩いていた。
もやもやといえば、他にも気になっていることはある。
例えば、授業免除関係はまだまだ制度が協議・整備途中で、当初予定されていた「研究結果発表」も正式には無いままになっている。
一応担任教師に成果を報告という感じで去年済ませたが、口頭のみな上に成果物の提出もなかった。
つまり、拍子抜けなくらい、限りなく適当に誤魔化せるということである。
そのおかげで去年は、大研究室のルーン文字のお勉強成果を報告するのみで済んだが……。
それも大研究室を仮閉鎖しているために、図書館自習室にて研究機材なしで羊皮紙に勉強結果をまとめただけという代物だ。
そのへん、本格的に発表制度が整備されたら、タレ目皇子が関わってきそうな気配がぷんぷんする。
モヤモヤポイントその②は、試験が終わっても研究自体の中断が続いていることだ。
本来なら午前の時間は飛行具研究でうはうはしているはずが、イレ皇子がいつまた気まぐれにやってくるとも知れないため、部屋自体を仮閉鎖しているままなのだ。
「もう飽きました? もう来ませんよね?」と聞いてしまいたくて仕方ないものの、間違ってもそんなことは言えないので安心しようがなかった。
更に、今はモヤモヤポイントその③まである。
ぶっちゃけ考えないようにしてきたのだが、アギレスタ皇子がイレ皇子に「不思議な文字」のことを漏らしているから嗅ぎまわられているんじゃないか……という懸念だ。
これについては、もちろん最初に考えた。
しかし、イレ皇子とアギレスタ皇子が協力関係にあるとは思えない根拠があったため、思考から最初に排除していたのだ。
それというのも、イレ皇子とアギレスタ皇子の家は仲が悪い。
アギレスタ皇子の父親は、「グリエルムス・ディアドゴル・ツヴェト」という。
それに対してイレ皇子の父親……つまり皇弟殿下は、「クルシウス・エクサルファ・ヒルツヴェーニ」という。
つまり、皇帝陛下と皇弟殿下は実の兄弟であるのに家名を分けてつけ、ツヴェト家とヒルツヴェーニ家としているのだ。
それだけなら、大人しく分家として独立したと考えるだけで良いかもしれない。
しかし、実際はもっと不可解なのだそうだ。
イレ皇子のヒルツヴェーニ家は人脈が広く、地味に配下も多い。おまけに皇帝陛下と皇弟殿下はそもそも気が合わないらしく、会えば嫌味を言う仲なのだそうだ。
つまり、世が世なら玉座を狙っていてもおかしくなさそうな関係といえる。
しかしその割に、イレ皇子の皇位継承権をアギレスタ皇子誕生と同時に真っ先に破棄するなど、妙に従順な面も見せる。
そんな風に大人しい上に、ラーミナ教かハスタ教かという問題に対しても、がっつりラーミナ教なツヴェト家と違ってなんとな~くラーミナ教寄りと言うぐらいで主張がないらしく、これまた妙に大人しい。
無神教ではないのだろうが、日本人がキリスト教式に結婚して仏教で葬式するのと同じくらいの緩さだそうだ。
そんなわけで世間一般のヒルツヴェーニ家の評価は「皇帝と仲が悪いが、継承権のない無害な分家」というのが基本なんだそうだ。
アギレスタ皇子とイレ皇子の関係に話を戻すと、そんな背景があるため二人の仲はあまりよろしくないという事になっている。
実際に見てみると、喧嘩することもないが会話することもないというのが常だ。
ガブリエラを間に挟んでいるとはいえ、よく一緒に居るのにそうなのだから本当に話す気がないのだろう。
まぁアギレスタ皇子に関しては、最近無口すぎて本意がよくわからんが。
ん~……。
とにかく、二人の皇子が協力関係にあるとは思えないんだよなぁ。
それに見られてしまった不思議な文字、つまりアルヘオ文字について勝手に口外するということは、私がガブリエラを殺人未遂や傷害で訴えることを認める事になる。そういう約束だからだ。
あれだけの人数の前で行われたことだ、こちらには証人が沢山いる。そんな下手を打つだろうか?
ガブリエラ本人にはもちろん口止めしていないが、相当な馬鹿じゃない限りは言い触らさない筈。
なにしろ、それだと「ハイメ派閥の研究室に不法侵入して盗みを働いたうえ、相手を加害しました」と自分で自白するようなものだし……。少なくとも、目の届く範囲ではアギレスタ皇子が止めるだろう。
「でもなぁ、そうじゃなきゃこんなに粘着される理由が分からないんだよなぁ……」
「うん? 粘着って?」
「だから、けんきゅ……ってうわぁ!?」
私の独り言に割り込んできたのは、なんと件のイレ皇子だった。