224 冬の廃塔で その①
冬季休暇は穏やかに過ぎていく。
ヴィル兄様以外の幼い側近達を地元に返し、団員達とも年末の挨拶をして別れ、オーキュラス上屋敷と廃塔を往復する日々だ。
マチルダだけは「せっかくお師匠様が上屋敷にいらっしゃるのですから、今年は残りますわ!」と言って実家に帰らず、私のお母様&フレシアおば様の手作りサークルに毎日入り浸っている。
その甲斐あって、練習は針と糸の扱いから徐々に布小物の制作に移行しており、この前はイニシャル入りのハンカチを作ってくれた。
私の名前の隣に、金色の犬のマークと黒猫のマークが仲良く並んでいたのが何故なのかはわからない。……まぁ、可愛い刺繍の練習だったと思う事にしておこう。
ユレーナからは「実家に着きました。家の誰にも気づかれずに自室まで侵入できました!」と報告の手紙が来た。
慣れ親しんだ自分の屋敷とはいえ、使用人や警備はいると思うのだが……まぁこちらも、可愛いかくれんぼの結果報告だと思う事にする。
そしてヨハンとニコラスからも、喜びの報告が来た。
一代限りの男爵ではなく、念願の家の格としての男爵位を得た家は、諸々の手続きを終えてようやく落ち着いたらしい。
ヨハンの母とニコラスの母はそれぞれ険悪な仲だったそうだが、二人の息子が協力して爵位を掴んだうえ、驚くほど仲良くなって帰って来たものだから……いがみ合うだけの自分達がばからしくなったらしい。
女同士の対立が消えて冷静になったことで、ニコラスに当たり散らしていた方の母も丸くなったそうだ。
そして、母同士、息子同士を競わせていた当主の父親を、今度は逆に全員で取り囲み。
にっこりと「願いも叶った事ですし、これからは皆で仲良くしましょうね」と凄んだそうだ。
とはいえ、家内の対立を煽っていた父親は長男の死でおかしくなっていた部分が大きいそうなので、情状酌量の余地があると言うか……皆、そこまで恨んでいる訳でもないらしい。
全員でゆっくりやり直していきます、と手紙には綴られていた。
◇
「随分と仲が良いんだな」
恒例のアベルさんとの時間。
魔獣たちの観察記録をつけつつ、届けられた側近たちの近況を当たり障りない程度に話していると、そんな感想がもたらされた。
冬季休暇に入る前はまだ秋の終わりの気配が残っていたものの、大晦日となった今日は息が白くなるほどの気温だ。私の装いも休暇中なので、私服のもこもこコートと冬用のワンピースである。
羽ペンを握る手に息を吹きかけつつ、言われたことに首を傾げた。
「そうでしょうか?」
「ああ。詳しくは知らないが、先生から聞く話では側近と主というのはもっと淡白な関係だと思っていた」
そう言われて考えてみると、確かにうちほど……家庭問題に関わることになるほど側近と密接に関わる人は、どちらかというと少数派かもしれない。
身近な例で言うとアテナお姉様だ。
アテナお姉様の側近は、ハイメ派閥の筆頭らしく人数が多い。
しかし人数が多いぶん分担が細かいのか、日替わりでひとりが付き従って歩いているようで、アテナお姉様が大人しい事もあってか、会話している様子はあまりなかった。
ついでに言えばお姉様も自分の学年にサロンを持っているが、いつも穏やかにお茶会をしているのみで騒ぎを聞いたことが無い。……いや、普通はそうか。うちが変だと言う自覚は忘れちゃだめだね。
まぁ深入りしすぎて揉める事もあるだろうし、あれがお姉様なりのビジネスライクなやり方なんだろうな~と思った記憶がある。
それを参考にすると、うちは側近もサロンも、お互いに関わる方に分類されるだろう。
「確かにそうかもですね。私がおしゃべりってこともありますけど、共有する秘密が多いせいで話す機会が多いのも……理由かもしれないですね」
側近達にはなにかと気苦労をかけてしまっている。申し訳ない。
しかも生き物のお世話までさせているしなぁ……。ヴィル兄様なんて、今はトンカチ片手に、下の階で鳥系魔獣の越冬用の巣箱を用意してくれているし。
これは屋上に設置する予定だ。
何故かこの頃クロとトフェルはヴィル兄様にちょっと攻撃的なじゃれ方をするので、今頃は二体と攻防を繰り広げながら作業していることと思われる。
そんな会話をしつつ、廃塔研究室を出て屋上へ向かう。
階段を上がって扉を開けると、身を切るような冷たい外気と一緒にふわふわとした白が舞い込んできた。
夜にまた更新します。




