223 絢爛の世界で その②
軌道修正。これは転生者である私の特権だ。
今回で言えば、「皇子が私に花を贈る」という状態を再現できればいい。大きくなってから、「あの時はああしてくれましたね」と言えればいいという事だ。
だから舞台を再現するために、白い花をニコラスに用意させようと思っていたのだ。
それをアギレスタ様の手で髪に飾ってくれとねだれば、ひとまずイベントの要素は満たせる。
……そんなイベントが、自分の目の前で行われたのだ。
そんなことは認められない。しかもアリスは転生者らしき〝サブヒロイン〟だ。
金薔薇はトリニティシステムというものを採用していて、正規ヒロインはガブリエラなものの、ユーザーが三人のうちから自由に主人公を選ぶことができる。
ローリエもサブヒロインの一人だが、行動を見る限り目立った感じはない。むしろアリスの腰巾着と化していて、もはやお邪魔キャラですらなく、モブになったと考えていいだろう。
そんなシステムがあるこの世界で、アリスは白い花を贈られた。
オルリスに、ヨハン。ついでに私の側近だったニコラスや、見た目のいいイヴァンなど……どんな手段を使ったのか知らないが順調に逆ハーレムを作り上げていて、実に忌々しいメス狐だ。
オルリスもヨハンも将来必要になるから、今のうちに多少は友好度を上げておこうと思ったのに、近づく隙すらない。
オルリスに至っては、上機嫌なお母様におねだりして近くに置いておけるよう取り計らってもらったのに、洗脳でもされているのか、それすらできなかった。
でも、まだ諦めない。
だって「中立貴族のお茶会」イベントで、アリスはローリエの髪飾りを奪おうとした。あれは私が主人公の時に見られるイベントだ。
〝幸せが約束された存在〟……つまり主人公は、私だ。
考えてみたら、花を贈ったニコラスはそもそも攻略対象じゃない。ヨハンだったら立ち直れなかったかもしれないが、違う。
それでもあの時の私は正気を失った。
森の中を走って、転んで、泣き叫んでうずくまって爪を噛んでいたところを家の者に保護されて。
私の行動を報告されたお母様は見たことがないほど激怒して、私は実家の「軟禁部屋」に入れられた。
それからしばらくの記憶は曖昧で、とにかく辛かった。
毎日お母様からどうあるべきかと説教されて、勉強させられて、私がぐずったり返答を間違えると冷たい言葉を吐かれた。
学園にも行けなくて。でも学園に行っても、アギレスタ様が相手をしてくれるか自信もなくて。
椅子の上で膝を抱えていた、そんな時だ。
部屋の扉が開いて、そこからひょこっと顔を出したのがイレ様だった。
「ありゃ。随分落ち込んでいるねぇ」
そんな軽い声で語りかけてきて。
陽の光を背後に受けながら語りかけてくる姿は、まさにヒロインを助けてくれるヒーローだった。
しかも、イレ様に続いて入ってきたお母様の表情は、見たことないほど優しかった。
「ガブリエラ、いつの間に皇族の方とこんなに仲良くなっていたの? 学園で見かけないからと、お見舞いに来て下さったのよ」
そう言ったお母様は、私がアギレスタ様と喧嘩して不登校になっているという話をでっちあげて話した。本当はお仕置きで閉じ込められているのだけどね。
それを聞いたイレ様は「そっか、それは不安だね」と私の頭を撫でてくれた。
更に信じがたい事に、「不安なら、これからしばらくは俺が一緒に登校してあげようか?」と、そう言ってくれたのだ。
それを聞いたお母様は狂喜乱舞だ。
その姿を見て、私ははっきりと再確認した。
お母様は、私が皇族と仲良くすれば優しくしてくれる。認めてくれる。愛してくれる。
皇位継承権を持つアギレスタ様と結婚すれば、きっとそれは永遠のものになる。
「次のイベントは間違えないわ……」
「何かおっしゃいましたか、ガブリエラ様?」
思わず口に出してしまっていたらしい。うっかり思考の海に沈んでいたようだ。
キルシェが聞き返してきたが、なんでもありませんわ、と返して次の曲をイレ様にねだった。
冬季休暇が明けて春になれば、今度は「思い出の天体観測」イベントがある。
今度こそイベントをしっかりと再現して、不安を払拭して。
私が主人公だという証拠を、積み上げてみせるのだ。




