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136 朝日の差し込む廊下で


 クラルスの宿にて一泊した翌朝。

 

 夜中に一度起きてしまったものの、その後ぐっすり眠った私は、小鳥のさえずりと共にぱちりと目を覚ました。

 

 貴族は朝食を各寝室で取ることが多いのだが、商人も利用することが多いこの宿では大食堂での朝食が基本らしく。

 コニーに手伝ってもらって身なりを簡単に整えてから、食堂に向かうべく部屋を出た。

 

「おはようございます、ヴィル兄様」

「ん……おはよう、アリス」


 寝ぼけまなこで部屋を出ると、丁度ヴィル兄様もあくびを噛み殺しながら部屋を出てきた。

 そしてその後ろから、めちゃくちゃ眠そうなオルリス兄様も現れる。

 

「…………………ぉ……、……は………」

「んふっ…………げほごほ、おはようございます、オルリス兄様」

  

 眠そうっていうか、もはや目が開いていない。

 朝弱いんだオルリス兄様……。真面目なイメージと相反してなんとなく面白い。

 バージル家に泊まったことは無いから、朝が弱いのは知らなかった。思わず萌えてむせつつ挨拶をする。

 その様子を見てくすくすしているヴィル兄様と共にオルリス兄様の手を引いて歩き出すと、少し離れた部屋からオニキスお兄様とアテナお姉様も出てきた。

 

「オニキスお兄様、アテナお姉様! おはようございます」

「! ……お、はよう」

「おはようございます、アリス」

 

 どうやらハイメ家の寝起きは普通らしい。二人の後ろから側近と使用人も出てきて、やや大世帯になった。

 ……そのまま共に歩きだそうとしたのだが、ある事が気になって立ち止まる。

 

「……お兄様、もしやあの後眠れなかったのですか?」

「……ん?」

 

 眠そうなオニキスお兄様の目の下には、ほんのり青いクマがあった。いつも見かける時は勝気フフン顔ですこぶる健康そうなのに、珍しい。

 平気そうに見えていたが、案外バフォメットとの遭遇で大きくショックを受け、あの後も眠れなかったりしたのかもしれない。

 

「言ってくだされば、安眠のためのハーブか呪文を用意しましたのに……」

 

 まぁ呪文と言っても、羊が一匹羊が二匹的なあれだが。……いや、羊じゃ逆効果か?

そう思いながら目の下に手を伸ばし、少しでも血行が良くなるようにと親指でやんわりクマを撫でてやる。

 

 こんな幼い子のやわっこい肌にクマがあるなんていかんよ……いかんよ……。と思いつつ撫でていると、たっぷり十秒ほど間を置いてからオニキスお兄様が大爆発した。

 

 ……いやもう、大爆発という表現しか出来ないほど、顔面が真っ赤になり、目に見えそうな勢いで頭から湯気を出した。

 

「ちょ、オニキスお兄様!?」

「オニキス様!?」

 

 コニーと私の声がハモる。なんだどうした!?

 そう思うも、さっと悪い予想が脳裏をよぎる。

 

 ま、まさか。

 これ、人前で体調不良を指摘したような感じになってしまったのだろうか。……オニキスお兄様に恥をかかせた!?

 

 そうハラハラしていると、オニキスお兄様の後ろにひっそりと控えていた側近のひとりがブハッと吹き出した。

 

「んふっふふ、んぐ、グフッ」

「…………黙れ、サフィロ」

 

 額に手を当てたオニキスお兄様が真っ赤な顔を俯かせつつ呟く。

 すると、サフィロと呼ばれた側近の少年は失礼しました、と囁いてから、一拍置いて再び盛大に吹き出した。

 

「サ・フィ・ロ!」

「ふ、ふっ…………し、失礼しました」

 

 何が面白いのかブルブルしながら身を震わせるサフィロは、オニキスお兄様より更に年上……恐らくローヴァイン上級生くらいの、金髪の少年だ。

 オニキスお兄様にどつかれてやっと笑いを収めたサフィロは、改めて謝罪してから私に目を向けた。

 

「大変失礼致しました。……オニキス様はとても繊細ゆえ……体調不良を察せられたことは多少恥ずかしく思ってらっしゃるかもしれませんが、それでお顔を赤くされた訳では無いのですよ」

「へ?」

 

 そうなのですかと返そうとした瞬間、サフィロがすっと近寄り耳打ちしてきた。

 

「なんにせよ、アリス様がオニキス様、と一言お呼びすれば……お顔が赤いのは直ぐに治まります」

「…………? オニキス、様?」

 

 なんで?と思いつつオウム返しする。

 すると、今度はオニキスお兄様がボシュウと音を立てて更に顔を赤くしつつ、サフィロを無言でボカスカ殴りだした。

 どした……??

 

「あーあー、遊ばれてる」

 

 クスクス笑いながらヴィル兄様がわちゃわちゃする二人を強制的に止め、全員を食堂へ向かわせる。

 目線で問うと、ヴィル兄様は「サフィロとオニキス様は幼なじみなんだよ」と教えてくれた。しかも、側近になることが決まっているのにも関わらず、小さい頃からサフィロはオニキスお兄様をからかってばかりいたらしい。

 どうやら親しき仲特有の何かがあるようだ。

 

 ヴィル兄様の親戚情報にふんふん頷きつつ、なんらかのからかいのダシにされたのかと思い「ごめんなさい、オニキスお兄様」と謝ると、オニキスお兄様はそっぽを向いたまま「…………お兄様はつけなくていい」と返してきた。

 

 ……んん?

 

 謎の流れに「はあ……」と生返事を返すと、またサフィロが吹き出し、再びオニキスお兄様がそれに拳を向けた。なんだどうしたほんと。

 

 ……これはあれか。幼なじみにしか分からない身内ネタ的ななにかか。

 

 よーわからんけど仲がいいのはいい事だな~と思考を放棄しつつ、このささやかな騒ぎにも動じず半分寝ているオルリス兄様の手を引いて、私は食堂の扉をくぐった。

 

朝の旅館の廊下にて、親戚ちびっ子ズのわちゃわちゃでした。

上下関係があるのに昔馴染みって、貴族もので好きな人間関係だったりします。


10月中に更新するつもりが、1時間オーバーしてしまいました(ノω`)

お待ち頂いていた方はすみません……!

11月はちゃんと連続更新できそうなので、お楽しみに。

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