130-正座と幻覚
沈黙が、場を支配していた。
「…………それで、どういうことなのかな」
「ふぐぅ……」
私の起こした騒音は普通に宿屋の皆様に動揺をもたらしたが、咄嗟に発した「風魔法の練習の失敗です! すみません!!」という言葉と、侯爵家令嬢による直角九十度のお辞儀つきの謝罪により、ひとまず不問となった。
駆けつけたオニキスお兄様やアテナお姉様は心配げ……というか、正確に言えば「何やらかした!?」という感じで厳しくツっこんできたが、とにかく「練習失敗☆ てへ☆」で押し通した。
学園で入学早々決闘だの派閥だのと大騒ぎしているため、そのへんには信頼がないらしい。しかし密室の出来事であるのでゴリ押しした。
まぁそうして、周囲を無理やり沈静化して。
室内であの現象に居合わせた私、バージル兄弟、コニーの四人で部屋に引き篭もった訳だが。
……仁王立ちして腕を組んだヴィル兄様により、私はベッドの上に正座させられていた。
「んん……まぁ、流石にね、放置……できない、かな」
「デスヨネ……」
眉を下げ、腕を組んで困惑しているオルリス兄様。そしてビシバシとオカン的な圧力をかけてくるヴィル兄様や、純粋に心配げなコニーらの様子に冷や汗が止まらない。
「まず、秘密の手紙を書くって言うのが嘘だったよね」
「は、はい」
ヴィル兄様のぎらりと光る目が怖い。その目線を直視できず、下を向きながら正座で震える。
「うーん……危ないこともしないって、言ってなかったかな?」
「はひ……」
オルリス兄様がおっとりとした口調で、しかし的確に急所を突いてくる。
「お、おじょ、おじょしゃば……っヒック、コ゛ニーは、コニ゛ーはしんば、心配じで……うえっんえええ」
「あぁああコニーごめん、ごめんて! 泣かないでええ!!」
えぐえぐするコニーに堪らずベッドを降りて駆け寄りぎゅっぎゅする。ほんと、泣かれるのには弱いんだって……!
そんな私とコニーが少し落ち着くのを待って、全員が座り直してから、話は再開された。
「アリス……。僕達って、そんなに信用がない、かな」
先程までの、心配による怒りでギラギラと燃えていた目線から打って変わって、ヴィル兄様がしょぼんと顔を伏せてぽつりと呟いた。
「っ! そ、そんなこと……!」
信頼してない訳じゃない。むしろ、みんなはこの世界での心の拠り所だと思っている。
そう思って反論するも、今度はオルリス兄様が真っ直ぐに私を見ながら、口を開いた。
「誰にも言えないことがあるのは、わかる、よ……。でも、僕はアリスがどんな秘密を持ってても、それごと守るよ。……僕を信じてくれたアリスのことを、僕は何があっても、信じるよ?」
「っ……」
その言葉が熱く響いて、何も言えなくなった。
「うぇ、ふえええっ、ふぐっ、うえっ」
「ちょっ、コニー!? おち、落ち着いて!? 深呼吸して!?」
続いて、泣きすぎておえおえし出したコニーの背中をさする。
うう、どうしよう。なんかもう全方向にお詫びとフォローと説明を入れないといけない状況……。
そう思ってテンパっていたが、次のオルリス兄様の圧倒的に衝撃を受ける言葉に、私は固まった。
「それと、ね。バフォメットが現れる前、アリスの周りに、幻覚みたいにして、見慣れない景色が広がってたんだ……。背の高い銀色の建物や、空を飛ぶ鳥じゃないなにか。……それに見慣れない服装の人々とか。…………あれって、何かな?」




