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120 会いに行ける〇〇


 大急ぎで両親宛に連絡を入れると、程なくして快諾の返事があった。

 

 急だったので駄目かな? と思いきや、むしろ大喜びで。

 これは後で聞く話だが、「アリス様にご学友が……!」「年越しを一緒に!? それはもはや親友の域……最優先事項ですよあなた!」「よし、冬の予定を変更する!!」と小躍りしながら冬の計画を練り直したそうで、両親&アルフォンスさんはしばらく三人でお祭り状態だったらしい。

 一人娘に友達が長いこといなかったんだもんね、心配してたよね……と申し訳なく思いつつ、安心させられたようでほっとした。

 

 そんな訳で冬の帰省計画は、エインズシュット領へ行く時間を捻出するため、私はオーキュラス領には寄らない方向になり。

 オーキュラスの親族もせっかくなのでまとめてハイメの領地に集結し、年末の挨拶をして、そこから身軽に移動出来るメンバーだけでエインズシュット領にお邪魔することとなった。

 三つの領地が近いからできる荒業である。

 

「準備はどう?」


 寮の一階広間で使用人に荷物の運び出しをして貰っていると、ヴィル兄様がひょっこりとやって来た。

 

「少ないのであっという間に終わってしまいました。ふふ、帰省楽しみですね!」

「ね。兄上も楽しみだって言っていたよ」


 にこにこする兄様、むふむふする私。

 今回の帰省では、入学前の親族会と同じメンツで集まろうということになったため、ヴィル兄様もオルリス兄様も一緒の旅行なのだ。

 

「ぐぬ……」

「ヨハン、その嫉妬まみれの顔はやめた方がいいですわよ?」


 楽しげな兄様とは正反対に、悔しげに呻いているのはヨハンだ。

 それをニヤニヤしながら諌めるマチルダと苦笑して見守るユレーナもどこか寂しそうなのは、自惚れでなければ私と別行動になるからだ。

 彼らは彼らで、親元の領地に一旦戻るのである。

 

 高位貴族の側近職は第三子以下の子供にとって出世街道とも言える。そのため、更に主人に気に入られるために献身を表し、冠婚葬祭以外では実家に帰らない者も多い。

 しかし彼らはまだ幼いし、家族を大切にして欲しいので、一年に一度は親元に顔を出すよう伝えたのだ。

 私と離れるのは少し寂しいようだけど、そう伝えた時嬉しそうにもしていたので、間違ってはいないはずだ。

 

「くそぉ、何故俺はアリス様の親族じゃないんだ……!」

「安心していいよ、ヨハン。お前の分も僕がアリスとしっかりいちゃいちゃしてくるからね」

「ぬぁあー!!」

 

 落ち着けヨハン、そして楽しそうに煽るなヴィル兄様。

 

 ふんすふんすしているヨハンはマチルダとユレーナに任せ、私はヴィル兄様に向き直った。

 

「そうだ、兄様。お任せしましたけども、自習と研究の方は大丈夫でしょうか?」

 

 決闘の時に宣言した通り、黄金の夜明け団メンツの教育はヴィル兄様に一任することにした。そのため、冬季休暇の間の教育計画も任せている。

 

「うん、大丈夫だよ。人族の子達はレギに、獣人の子達はユセフにまず質問や手助けを頼むように言ってある。その報告を全部僕が受けて管理、指示することにしているから、全体を見れると思う」

「それならよかったです。皆がどんな事をしてくれるか、楽しみです」

 

 ニマニマしてしまいそうな頬を、両手で押さえて止める。

 なにしろ、統一テーマにした「空を飛ぶ」……つまり飛行魔術は、この世界に転生してからずっと夢想していたことだったからだ。

 

 子供達がどんな発想をしてくるかは分からないが、今はとりあえず、興味を持ってもらえれば目論見は成功だと考えている。

 

 ちなみにこの世界には、人間が空を飛ぶ呪文とか、魔道具としての箒だの絨毯だのは存在していない。

 それを知った時はびっくりした。そういうものは御伽噺レベルで、現存するものは何も無いというのだ。

 

 不思議ぱわ~が満ち溢れてる世界なんだし、魔法陣とかもあるし、ちょいと頑張ればいけるのでは? と調べたのだが、無理やり浮こうとしても呪文を唱え続けなければならず非効率的かつ危険だったり、動きや高度を絶え間なく操作するのが不可能だったり。つまり流動的なものは非常に難しかった。

 道具にするとなると、今度は先が見えないほどの試作作業で膨大な時間と魔力と素材、更に人材を消費することが予想されるらしく。飛行機を知らないということは、人が空を飛べるという成功イメージもないということで。

 

 なにより、土の上で作物作れとうるさい某教団が幅を利かせている国で、そんなコストをかけて研究するのは、難しいというのが現状らしかった。


 でも、魔女っ子になったのに空を飛ばないなんて、絶対ありえない。

 有用性と、最終手段として魔術でなく科学で実現可能であることを知っているからこそ、邁進する勇気も持てる。

 ならこれは、私がやるべき事なのだ。

 

「それにしても不思議なこと考えるよね、空を飛びたいなんて。確かにできたらいいけど、想像しただけで怖くない?」

 

 空中に不安定に浮かぶ自分を想像したのか、ヴィル兄様はさすさすと自分の腕を撫でた。

 

「なにかと便利そうじゃないですか。それに空から攻撃できれば、戦いで負けることも少なくなると思いませんか?」


 私がそう言うと、ヴィル兄様は小さく笑った。

 

「確かに便利かもね。それにしてもアリス、空から攻撃だなんてドラゴンみたいなこと考えるなぁ」

「ドラッ……」

  

 急に飛び出してきたファンタジー用語にぐわりとテンションが上がる。この世界に実在することは知っているが。

 まさか……!

 

「ヴィル兄様。……まさか、ドラゴンを見たことがあるのですか?」

「うん、あるよ?」

「…………んええっっ!?」

 

 さらりと返された言葉に、思わずひっくり返った大声が出る。

 一階広間に私の声がわんわん響き渡り、慌てた側近達にしー!とされてしまった。

 

 そんな……そんな。


普通に会える感じなのか、この世界のドラゴンは。

 

 会いに行ける系の、ドラゴンなのか……!!

 

「ど、どうしたのアリス。そんなにドラゴンが好きなの?」

「好きです! 大好きです!! というか、もはや存在がロマン……そう、大きなロマンを感じるのです!」

「へ、へぇ」

 

 急に興奮しだした私にぽかんとしている皆。はっと一瞬我に返った私だが、ときめきは止まらない。

 

「ヴィル兄様、ドラゴンはどんな感じでしたか? かっこよかったですか!?」

「うーん、僕が見たのはかなり小型の有翼種だったよ。飛んでるのを遠目に見ただけだったからかっこいいかはちょっと……。というか、辺境のエインズシュット領に行くなら、運が良ければ見れるんじゃないかな?」

「……!?!?」

 

 目を白黒させて再び大声を出しそうになった私の口を、慌ててマチルダとユレーナが塞ぐ。

 

「ふむぐぅっ!」

「アリス、落ち着いて落ち着いて! ……ふふっ、女の子でドラゴンがそんなに好きなんて、本当に変わってるね」

 

 くすくす笑われてちょっと恥ずかしくなるが、好きなものは好きだからしょうがない。

 頬が赤いのをクールダウンさせるため、カッカとした頬っぺを再び両手で押さえて俯く。

 

 そんな姿を、側近達全員に微笑ましいものを見る目で見られてしまったのだった。


空を自由に飛びたいな、なアリスでした。

そして初めて魔物の話題です。


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