112 決闘開始
連続投稿中につき、未読話にご注意くださいませー!
デュカー家が複雑な家庭環境であることは把握していたが、この二人の関係はその最たるものだ。
本妻の子供がうちのヨハン、そして妾の子がこのニコラスなのだが。
本妻よりも半年先に妾が男の子を産んだものだから、モメにモメたようで。……父親の寵愛が妾に傾いていることも、歪みを加速させた。
そんな複雑な家庭環境にある子供を側近にするというのは、危ないのではないか。そういう意見もあった。
でも側近候補として会った時に、その迷子の子犬みたいな目を見たら。……もう駄目だったのだ。
この子は拠り所を必要としている、と直感してしまった私は、ヨハンを選んだ。
まさかその後に、その兄がガブリエラに気に入られるとは思いもしなかったが……。
「ほれ見よ、拗れまくっておる。これはもう決闘しかあるまい?」
「……」
眉間のシワを揉みまくったレイ先生は、「責任は学園長が取ってくださいよ……」と弱々しく呟いた。
♢
「それでは、決闘を始める!」
どでかい声を上げたオルテンシア様がそう言うと、集まった生徒達が熱狂的な声を上げた。
気分はお祭りのイベントを見るような感じなのだろう。上級生も入り交じって中庭は人で埋まっていた。
「この決闘は、賞罰を伴うものでは無い。すでに決まってしまっておる試験結果を左右するものでもない。じゃが、お互いの名誉を賭けた戦いじゃ!」
おいおい、面倒なことになるからあんまり煽ってくれるなよ……と遠い目をしつつ、中庭に引かれた円形の白線を見つめる。
この白線から出てしまったら負けというこれは、さながら相撲の土俵だ。行司たるオルテンシア様は何故かプロレスの実況じみているが。
「勝っても負けても恨みっこなしじゃ。これは大衆の目の前で行う由緒正しき決闘。不正があるかどうかは自ずと分かる。……では、最初の挑戦者、前に出よ!」
そんな実況者・オルテンシア様の声に従って、二人の人物が前に進み出た。
その二人とは。
「はぁ……。何故僕がこんなことをしなくてはいけないんでしょうね…… 」
面倒くさそうに呟いたのは、なよなよイケメンのキルシェ。
「お前は許さない。……噛み殺してやる……」
物騒なことを呟いて目を光らせたのは、なんとファニール君である。
ファニール君はこの決闘が決まった時、真っ先に名乗りを上げた。いわく、名誉を挽回したいと。
中庭の片隅をちらちら見ており、そこには植え込みの影にくすんだ金髪――恐らく私を心配して駆けつけたが、貴族の群れにびっくりしてこちらにこれないコニー――が見えたので、そういうこともあるんだと思う。
しかしなにより、団員証を破壊されたことを気にしているようで。
ニコラスに対しても怒っているが、団員証をスったのはキルシェだったらしく、そちらにも相当怒っていた。
「ルールは簡単じゃ。白線から出たら負け、もしくは私に戦闘不能と判断されても負け。……私の制止の声を無視しても失格、過度な追撃も失格じゃ。これはあくまでも決闘。無様な喧嘩はするでないぞ?」
それを聞いているのかいないのか、グルルと犬歯を剥き出しにしたファニール君と、フンと鼻を鳴らしたキルシェが白線の内側に立った瞬間、オルテンシア様が号令をかけた。
「では、――始めっ!」
「ガルッ!」
唸って飛び出したファニール君が地を蹴り、キルシェに飛びかかる。
するとキルシェは短い呪文を唱えた。
「“天を向く蔦、今解き放たれん”」
その瞬間、ドッと音を立てて地面から草が生い茂る。
それは攻撃的なものと言うよりも、雑多な雑草が絡み合って小さな壁を作ったような感じだ。しかし突然目の前に壁が出来たことに動揺したファニール君は飛び退いて進路をズラし、突進を止めた。
「あれ、どうしたんですか? ……遊んであげますから、こっちにおいで……。犬っころ」
そうあからさまに煽ったキルシェに向けて、ファニール君が再び飛びかかる。
策があるのかそれを余裕そうな表情で見たキルシェだったが、瞬間顔色を変えた。
しゅらんとアサメイを抜き、ガキンと音を立てて何かを受け止める。
「なっ……」
キルシェの視線の先には……鋭く伸びた爪があった。
「え?! な、何、あれ?」
試合を食い入るように見つめていたルシアちゃんが驚いたように声を上げる。私も驚いたが、しかしああいう光景は前世で見たことがあった。
「部分的な身体強化……か……」
やるなファニール君、めちゃくちゃかっこいいぞ。頑張れば血を出さずに心臓を抜きとる某一族みたいな暗殺術が会得できそうだぞ!
……と思って口にしたのだが、ケモっ子達がざわめいた。
「身体強化……?! て、ど、どうやるんだ?」
「魔力?魔力を集める的な感じじゃない?」
「えっえっカッコイイ!」
うん?もしかしてああいうお約束な身体強化って一般的じゃないのか?
そんなやり取りもいざ知らず、戦況は加速する。
「はっ?! な、なんだそれっ……うあ、やめろ!」
「ガウッ!」
動揺したキルシェに向かって鋭い爪を振りかぶったファニール君だったが、キルシェが「“吹き荒れろ、風!”」と叫んだ瞬間ぶわりと体を包んだ風に気を取られ、蹴飛ばされた。
「はぁ、はっ、……妙なことしやがって……っ。気持ち悪いんだよ!」
エセ丁寧な口調をかなぐり捨てたキルシェが、ゆらりとアサメイを構えて走り出した。
「ファニール君!避けて!!」
そう叫んだ瞬間、ファニール君がニヤリと笑ったのを見た気がした。
「“地を這わん、流れを奪われし水”」
聞こえるか聞こえないか、そんな声が聞こえたと同時にキルシェが大きく体勢を崩した。
見れば、キルシェの踏み込んだ場所には水たまりのような大きさの氷が張っていて。
「なっ?!」
そのまま大きく転んで転がって行った先は……、白線の外。
「え……」
観戦者達がポカンとする中、オルテンシア様が高らかに叫んだ。
「勝者、ファニール!」
戦闘シーン、書きなれないのですがずっと書きたかったんです……。楽しい。




