107 試験直前、そして向日葵
連続投稿チャレンジ中なので、未読の話がないかご注意ください~( *´꒳`*)
まだ秋の初めだった入学式から季節は移り変わり、今や初冬。
落葉樹が葉を落として風景が寂しくなり、学園生達は第一礼装にセーターを足して着るようになってきた。
「それでは、日程を発表します」
ひんやりとした初冬の空気に冷やされたアウルムの教室に、レイ先生のキリッとした声が響き渡る。
「まず、本日。第一日目は歴史学と文学の試験を行うわ。次いで二日目は音楽、算術学。そして最終日は魔術学という配分よ」
真剣に聞き入る子供たちを見渡した先生は、続けて注意事項を口にした。
「まず全体的な注意事項よ。試験に持ち込むことが許されるのは、基本的に筆記具のみ。魔術の試験についてはユーダ石の持ち込みのみ認められるそうだけれど、その他の魔道具は厳禁。……なにか質問はあるかしら?」
現時点では誰も手を挙げない。
「では、タイムスケジュールも発表します。この試験期間中は午前に試験をひとつ、昼休憩を挟んで午後に試験をひとつという風に時間に余裕を持って行われます。……というのも、採点した答案をその日のうちに返却するためだそうよ。これについては学園長がお決めになったことなので、理由は分からないけれど……」
そこまで言って一瞬遠い目をしたレイ先生は、気を取り直して言葉を続けた。
「とにかく、その日の試験はその日のうちに結果が発表されます。以前も言ったようにこれは休暇明けのそれぞれのカリキュラムに大きく係わってくるものですから、各自、後悔しないよう最大限の力で望むように」
そう締めくくったあと、付け足した。
「そうそう、座学の時間は各自の教室だけれど、実技の際は各学年ごとに大講堂や大広間にまとめられるから。よそのクラスと揉め事は起こさないように。……特に心配な人物もいるのだけれど……あえて名前は出さないけれど…………、絶ッ対に、揉め事を、起こさないようにね?」
じっと見られる。さすがに「すでに昨日モメてる上、皇子と集団を巻き込んで大規模な賭けをしています☆」とは言えない。
ひとまず、安心してください!という顔を作って力強く頷き返してみたが、ハァとため息をつかれた。解せぬ。
「この後、歴史学の試験が始まるまでに一時間あるので、各自予習をするように。あとオーキュラスは廊下に来なさい」
……解せぬ。
♢
「なんでしょうか、先生?」
私も予習したいんですけど、レティシア様筆頭に皆の様子も確認したいんですけどォ~?という不満たらたらな顔で廊下に出ると、壁にもたれかかったレイ先生にギロリと睨まれた。
「なんつー賭けしてるんだ、お前は」
あ、素モードだ。キレてる。
てかなんでバレてんだと思ったが、普通に校庭で揉めてたし誰かが報告したんだろう。それなら仕方ない。
「試験の点数という完全に合法な方法でガブリエラと皇子を殴れることになったので、この機会を逃すものか……と思いまして」
「思考が物騒すぎる……」
はぁ、とおでこに手を当てため息をついた先生は、周囲を気にしてか咳払いをして女教師モードに戻った。
そして少し迷った様子を見せた後、心配そうな目をこちらに向ける。
「ニコラスとキルシェの事であなたが怒っているのはわかるわ。でも、だからってその流れで皇子に喧嘩を売るのはどうかと思うわよ?」
「喧嘩を売ったわけじゃないですよ」
「ええ?」
いや売ってるしさっき殴るって……と言った先生に、私はあえてのきょとん顔で問いかけた。
「だって、上の人間が間違ったことをしていると思ったら、止めるのが下の人間の役目じゃないですか」
「……」
動きを止めたレイ先生に、思っていることを伝える。
「ガブリエラやニコラスとキルシェに怒っていることももちろん原因です。でも、なにより皇子は大勢の前で、明確に差別を口にしました。それを諌めることができるのは、高位貴族だけです。それがあの時の私の役目であると考えました」
「役目、ね……」
まぁキレてるのが9割なんだけど。
「本来ならば、それは皇子の近くに侍っているガブリエラの役目だと思いますが……。誰も皇子の間違いを指摘しないのなら、その場にいた私が諌めるしかありません」
「ふうん……。なるほど、ね。でも、それじゃあなたが得をすることは何も無いんじゃない?皇子に嫌われて、損するだけじゃない?」
どことなく挑発的なレイ先生に、これまた思っていることを返す。
「損得を考えないために。商売をせず、国のことだけを考え行動させるために、貴族は皇帝陛下から領地や年金を頂き、信頼の元に活動しているはずでは?」
「そりゃそうだけど……それは理想論よ」
「まぁ、そうですけど……。でも、自分の身が可愛くて信念を曲げたら、もうそれは貴族ではないと思います。やるべき事をやらず、国のお金を横領している不正な金持ちですよ」
「ふ、不正……、横領……」
前から思ってたけど結構言葉が辛辣よね、なんて遠い目をしたレイ先生は、なにやら自分にも痛いところがあったらしく顔を青くした。
しかしひとまずは納得してくれたようだ。
まぁ……今語ったことは本心だ。
学園長とした“あの約束”、つまり目の前の人間をできるだけ救いあげてほしいというお願いを意識した結果でもあるから、本当の本当に純粋な行動かっていうと少し違ってたりするんだけど。
そこはぺろっと舌を出して秘密である。
「言いたいことは分かったわ。そういうことなら好きにしなさい。……でも、気をつけるのよ」
「気をつける、ですか?」
急に真剣な顔になったレイ先生に、こちらも少しピリッとした空気になる。
「四皇子の伝説は知ってるわよね」
「え、あ、はい」
思わぬ名前に少し動揺する。この国の貴族にとっては、おとぎ話のような憧れの存在だ。
「四皇子はおとぎ話として語られることが多いけれど、実在の人物でもある。だから、彼らの血を引くと言われる人間は各地に存在しているわ。それこそ、あなたのように」
「そ、そうですね」
本当は血、入ってないけど……とは言えない。
しかしそれと今と、なんの関係があるのか。
「……ガブリエラがね、その四皇子の血を引いていると豪語しているのよ」
「ええっ?」
それは初耳だ。高貴なる薔薇の会(笑)で吹聴しているのだろうか。
「そんなわけで、四皇子の直系であるアギレスタ皇子、そしてガブリエラ、あなたが揃って、今年の第一学年はまるでかつての四皇子戦争のようだって囁いてる者もいるのよ。……最後の一人はいないから、ちょっと違うとは思うのだけど」
「よ、四皇子戦争ですか……」
四皇子は救国の英雄達でもあるが、その後、袂を分かち各地へ消えていったというエピソードも持っている。
誰かが、そんなエピソードになぞらえて話を大きくしているということだろうか。……一人足りないのに?
「そんなわけで、裏ではあなた達の動きを面白おかしく言って回ったり、話を大きくしたりする輩もいるわ。そこも含めて気をつけなさい」
「……はい。ご忠告、本当にありがとうございます」
知らなかった情報に素直に頭を下げると、レイ先生は目を丸くしてから思わずと言ったふうに呟いた。
「なんだかあなたって不思議な子よね。強気かと思えば泣き虫だったり、誇り高いかと思ったら謙虚だったり。……でも、なんだか目が離せない。……応援したくなるってこういう事かしら」
「え」
突然のデレに固まっていると、レイ先生がにっと楽しそうに、明るく笑った。
頭をぽんぽんとされる。
「ま、頑張りなさい。ちゃんとお礼を言えるいい子は、また何かあったら助けてあげるわ」
「……あ、りがとうございます」
くるりと背を向け、手を振って去っていくレイ先生の後ろ姿を見送りながら、ぼんやり思った。
「……ただの突っ込みオカマキャラかと思ってたけど、元ヤン現良い教師キャラ、だったのかぁ……」
そう言えば前世の後輩、そういうの好きだったな。
レイ先生に聞かれたらぶん殴られそうなことを呟きつつ、最後にひまわりみたいにニッカリ笑った先生の顔を思い出して、ちょっとほっこりしたのだった。
いよいよ試験日です。盛り上げきれるか心配ですが頑張ります!(笑)




