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間違いだらけのタンテイさん  作者: 河崎 奏
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遣らずの雨

こんにちは!

みなさん始めまして河崎です。


もしかすると初めてじゃない人もいるかもしれませんが

来たれ!老若男女、少年少女!

ああ、また捕ってしまった。


盗み見た西日に目が眩んだ。

「全く、四月から何回目だと……」

ーー多分片手で数えられます。

心中で返事をし、俯いて夕日に照らされた廊下を睨んだ。

「すいません」

こういう時は素直に謝るに尽きる。


五月の初旬、午後五時、生物準備室の前という何とも少女漫画が好きそうなシュチュエーションだが、当の僕は甘い時間などは全く過ごしておらず地獄を味わっていた。

なぜならば、目の前にこの人がいるからである。


僕に説教をしているのは白鳥というのだが、彼女は最近珍しい理系の女性であると同時に僕の学校の生物の教師だった。

校内では美人の教師で通っているが、実際は常に生活態度にその鋭い目を光らせる、いわば鬼のような存在ーー

それはいい。

問題は彼女が女性だということ。

そして僕は女性が苦手で、その中でも白鳥が特に苦手ということなのだ。


「ねえ、聞いてるの?」

「……以後気をつけます」

声を最大限に低くして重々しく返事をした僕は、白鳥がこのまま話を終わらせてくれることを祈った。

これは少しきつすぎはしないか?

僕としては「学生服のボタンを全て外すくらい、いいじゃないか!ボタンを止めるとひどく寝にくいんだ」と言ってやりたい。

「まあいいわ」

僕は内心でガッツポーズをする。

「そうだ、伊瀬谷くん。あなたE組よね、小田切さんへの伝言を頼まれてくれる?」

しかし束の間の喜びは跡形もなく霧散した。

声は柔らかく言葉には疑問符すら付いてはいるが、それが事実上の命令であることを僕はこの一ヶ月で十分に学んだんだ。


「なんでそんなにお前は女嫌いなんだ?」

この質問を一体僕は何回されただろうか。

高校に入って僕と友人になった人でこの問いを出さない人はいなかった。

答えはいつもこう言っている。

「前にトラブルがあったんだ」

たいていの場合はこれで納得してくれるし再度聞いてくる人もいない。

僕は自分のことを割と健全な男子高校生だと思っている。

たとえば女性のスカートが偶然めくれたとしても平常心でいられる自信が僕にはある。

そういう欲を持たない者は言ってしまえば、生物として悪質な失格者に分類されると妹は言っていたけど正直心外だ。

これから伝言を伝えに行く女子生徒に何を言われようともきっと僕は失格者のままなのだろう。


教室の扉は開いていて中は春特有の心地の良い風が吹いている。ホームルームが終わってだいぶ経ち、小田切以外誰もいなかった。

彼女は窓際にある自分の席に座り文庫本とノートを交互に見ている。

開けた窓から入る風にセミロングの黒髪がふわりと揺れて……なるほど、これが可愛いとちやほやされるわけか。異常に画になるのは確かだ。

「小田切」

僕が呼ぶと彼女は顔を上げ、次に不思議そうにこちらを見た。

「伊瀬谷くん」

微かにそのあと珍しいという呟きが聞き取れ

「何が」

と少し素っ気ない返事をしてしまった。

本当は只々、早く帰りたかっただけなのだが少し誤解させてしまっただろうなと思った。思った通り小田切は頭を下げいそいそと弁解し始める。

「あっ、その、いつも寝てるところしか見ていなかったので……」

最後の方は声量が小さくなって上手く聞き取れなかったが、よく考えてみれば僕と小田切は出席番号が近く席が隣だった。

授業ではいつも寝ているから、そのせいで起きている僕が珍しく見えたのだろう。

「白鳥から伝言。プリントを早くもってこいだってよ」

白鳥は小田切が教室に残っていることを知っていたんだな、と思った。

そして小田切が文庫本とノートを見ているのはわからないからなのだろうとも考えていた。

僕が見る限りまだ終わりそうにない。

だけどよく考えれば僕には全然関係ない。

そう思い帰ろうとした時、致命的なあることに気づき思わず唸ってしまった。

「雨……」

さっきはあんなに夕焼け空が眩しかったのに、全く運が悪い。傘を持っていれば帰れたが、生憎そんなもの持ってはいなかった。

その時背後の小田切がポツリと僕に聞いた。

「伊瀬谷くんは遣らずの雨って言葉を知っていますか?」

振り返れば彼女はプリントを持って微笑んでいた。

随分遠回しな言い方だな、普通に教えてくれといえばいいのに。女は苦手だが、困ってる人を見捨てるほど僕は野暮じゃない。


日が落ちて六時半を過ぎる頃には、物分かりの悪い小田切は、ようやく僕の嫌々ながらの助力もあってプリントを終わらせることができた。

雨はまだ止まない。雨の匂いに僕は半ば意識を漂わせながら頬杖をついた。

そしてなんとなく、帰り支度をしている小田切にさっきのことを尋ねた。

「遣らずの雨というのは確か、客を返しなくないように降る雨って意味だったっけ?」

最後に古典の教科書を鞄に入れ、一息置いて彼女は答える。

「そ。でも今日の場合はお客さんとはちょっと違うかも」

勝手に意味を変えていいのかと突っ込みたくなったが、別に僕は仲良くしたいわけではないので無駄なことはやめた。

それから小田切はプリントを提出するため、僕は傘を借りるために連れ立って職員室に向かう。

なんだか今日は疲れる。家に帰ったら早々に寝てしまおう。

ついに時は来た、昨日までは序章の序章で… (スパークル/RADWIMPS)

⬆︎勝手に使ってんじゃねーよ


まだ序章の序章ですが飛ばし読みはいけませんよ?

次回もどうぞお楽しみに!

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