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第14話 化け物より化け物な俺たち

「私を……巻き藁扱い、ですか。……。確かに潜在能力で見れば、私などあそこにいる化け物には遠く及ばないでしょう。ですが……たかだかその程度の保有魔力で挑もうなど、いくら勇者と言えど無謀です。新たな勇者よ、ここ数日観察した限りあなたはスキルこそ優秀ではありますが、それ以外は平々凡々。他の人間と同じ……いや、それ以下――」



 ――バッ。



 村長がべらべら喋っている間にも、俺は踏み込んだ足に目一杯力を込めて……地面を蹴飛ばした。


 

 たったそれだけ。



 それだけで俺と村長の距離は一気に縮まり、これでもかと研いたナイフはその首をかっ切ろうと一筋の閃光へと変わった。



「なっ!?」

「さっきまで相手してた魔族なら今ので終わりだったんだけど……。流石に格が違うか」



 完全に不意を突いた一撃だったけれど、村長は咄嗟に頭を反らし、これをかわした。


 ナイフの先端が一応触れはしたが……あと一歩足りなかったか。



「この私が……この状態で血を流すことになるとは思いませんでしたよ。その動き、そしてそのナイフ……これはいつまでも余裕な態度ではいられませんね」

「まだ本気だしてないだけ、と。なんだろう、小者っていつもそういったこと言うよな」



 「――こちらが下手に出ているからと調子に乗って……。いいでしょう。ならば出し惜しみはしません。そのスキルは非常に興味のあるところですし、勇者を生け捕りにしたとあらば魔王様もお喜びになったでしょうが……次の一撃は影さえ残らないと思った方がいい」




 ――ブワッ。




 明らかに苛立った様子の村長から魔力が溢れ出した。


 土を巻き上げるそれはフルーレの時とは違い、こちらが何かしなくとも全て視認が可能。

 きっとそれだけ質が高いことを現しているんだろうな。 


 それにしても……こいつらその演出好きすぎないか?




「――我は1等級魔族。この気高き魔力と引き換えに魔層に眠りし業火を呼び起こさん。……『獄炎の火種』」




 村長の詠唱とともに俺の正面には小さな魔法陣が浮かび上がり、そしてそれからは小さな灯りが漏れた。


 一見大したことのないように思えるが、その小さな灯りが保有する魔力は村長の保有魔力を大幅に超えている。


 こんなのがもし炸裂すれば……。



「多分即死ものだよな?」

「多分? いいえ、確実です。信じられないようですので、早々にその証明をしましょうか」



 村長がふっ、と息を吐くとその灯りは避ける暇もないまま俺の身体に引っ付いた。


 払っても取れない。


 でもその根本が分かっているなら……。



「根付き……咲き誇れ! そして悠久に燃え続けるので――」



 ――ぷち。



「おっ。やっぱりとれた。それじゃこれもあいつの餌に……。いや、もうレベル足りてるから俺の分でいいか」



「……。……。……。は?」



 ナイフを灯りにあてがってやると、炸裂するよりも先に俺の身体からそれは分離された。


 しかもナイフの効果によって魔力は俺の身体に吸収され、なんと経験値までも獲得できてしまったのだ。



「レベルも……今のでまた1上がっちゃったよ。……なぁ悪いんだけど今のもう一回頼めないか? あっちにいる相棒の手前ある程度レベル上げときたいんだよね」

「そんな馬鹿なことが……。まさか、まさかそれは本物の聖剣……。真の勇者のみが発揮できる力だというのか!?」



「――ああ、違う違う。これは干し肉を切るために用意してもらったただのナイフ。そう。俺が研いだけでなんの変哲もない、ありふれたナイフ。でも、これで食べると何でも余計に美味く感じるんだよな」



 そう言いながら笑って見せると、村長は魔法陣を展開するでもなく、攻撃を仕掛けてくるでもなく、俺に背を向けて走り出した。


 こいつは間違いなく遠距離タイプの魔法使い。


 それがこんなにも簡単に処理されたんじゃ逃げるのは当たり前。

 情けない姿だけど、やはり考えなしに突っ込んでくる馬鹿とはいっても比べ物にならないくらい頭の出来がいいようだ。



 ま、だからって逃がしてやるつもりはな――



 ――チリーン。チリーンチリーン。



「お、お前たち! まだ死んではいないだろ! 時間を稼げ!」

「「う、おおお……」」



 鈴の音が響き渡ると倒れていた村人たちがまるでゾンビかのごとく呻き声を上げながら立ち上がった。


 明らかに戦闘ができないと分かる怪我を負った人までその効果が及んでいるところを見るに、やはり複数を1度に奏でることで生まれる強制力はとてつもない。


 一応1つだけさっき拾ったけど……これだけじゃ抵抗できないよな?

 いや、だからって村人を殺すってのはやっぱり気が引けるし……試すだけ試してみるか。



 結局ルビーさんの症状を和らげるためにはこれを利用するしかないって思ってたしな。



 ――シュ……。



 村人たちの攻撃が始まってしまう前に、俺は慌てながら研磨紙を取り出して、鈴の表面を数度研いだ。



 ――チリンッ!



 すると内面を研いでもいないのに鈴の音は村長の持つものよりも高く、キレよく響いた。


 そして……。


「あ、あれ? 俺……なんで? うっ! いった! 身体いったあ!」



 1人の村人が声をあげた。


 さらにそれを皮切りにまた1人、また1人と村人たちは正気に戻っていく。

 

 

「ふぅ良かった。今までの道具と同じでスキルの効果が十分に発揮できてくれて。それに俺の読み通り、 鈴に魔族を揺り起こすだけじゃなくて、その反対の効果も付いていてくれて。詳細までは俺の鑑定眼だと見れないから、ちょっと賭けだったんだよな。……さて、と」



 俺の前を邪魔するやつはいなくなった。


 だから俺は再び足に力を込め、跳んだ。



「はぁはぁ。俺は……俺が、魔王の右腕に……。いいや、まおうに……」



「――なれないだろう、な!!」

「う、ぐっ!?」



 敗走中の運動不足魔族に食らわせたのは勢いが乗りに乗ったドロップキック。


 常に前衛で戦っていたこともあって実は体術とかの知識がないわけじゃないんだよな。



「だからこうして……拘束することもできるっと……。ほら、その鈴を手放せば骨を折るのだけは勘弁してやるぞ」

「いだだだだだだだだだだだだだだだ!! 分かった! 分かったから!! 負けです! 私の!!」



 さっきの攻防で62レベルまで上昇した俺による『腕ひしぎ十字固め』は効果絶大。


 思っていた何倍も早い時点で村長は負けを認めた。



 ――チリーン。



 そうしてまるで試合の終わりを告げるようにその手に掴んでいた鈴は地面へと落ち、俺は一気に力を抜いた。



 勝った――




「バカ、め!!」


 

 勝利を確信した瞬間、村長の野太い声が耳奥まで伝わってきた。


 しかも元から油断したところを狙うつもりだったのか、村長は腕……ではなく 魔族特有のその尻尾を器用に操り、腰にぶら下げた剣を引き抜いた。


 あまりに早い一手。

 おそらく俺に気取られないように絞められ散る途中からそっと尻尾を剣に当てていたのだろう。



 ――チリン。

 


 ドロップキックを食らわすためにナイフを一旦懐に戻してしまったから、俺にとれた咄嗟の行動は鈴を鳴らすことだけだった。


 見た目は頼りないけど、こいつも当然魔族なんだ。

 なら、対象を選択する意識を持って鳴らしてやれば……これで完全に言うことを聞かせられ――



「――ざ、残念……でしたね」



 しかし、俺の持つ鈴の音を聞いても村長の身体は止まらなかった。

 推測だが、人間と共に生活するうちに自分のことを魔族であり、人間であると……深層心理でそんな認識が芽生えたのかもしれない。



 人が魔族になれるように、また魔族も人になれる。


 そんな可能性があるなんてまるで考えたことがなかった。

 当然ながらそれが自分の窮地を作ってしまうことも。



 風を切る音が鳴り、村長の剣は眼前まで迫る。



 斬られる。

 そう思うと俺は無駄だとわかっていても手を前に出してしまう。



 どうせ死ぬなら正面から思い切りが一番痛くないってのに……俺ってやつはどうも諦めるのが苦手な性格らしい。



「はは……いつもいつもカッコ悪いな、俺」



 乾いた笑いを溢して目を瞑った。



「ん?」



 瞑ったのだけど……一向に攻撃を受けた感覚が襲ってこない。

 だから俺は不思議に思って目を開けた。


 すると……。



「えっと……。これってどういうこと?」

「それはこっちのセリフだ。勇者……お前まさか人間をやめたのか?」



 視線の先で剣は折れ、その持ち主である村長は地面に尻餅をついていた。

 まるで何かで弾かれたように……。



「……。あっ。そういえば昨日道具とか武器を磨くついでに指の爪も磨いてて……もしかして、それ?」

「化け物が……。いいや、化け物たちが」



 どうやら本当に俺の指の爪は剣を折り、村長を跳ね飛ばしたらしい。


 確かにそんな芸当ができるのは化け物くらいか。



 って、『たち』ってなんだ『たち』って――



「ワオン!!」



 元気に吠える俺の相棒。

 その口にはフルーレと思われる血まみれの魔族が挟み込まれていた。



 いやまぁ……確かにこれは化け物にしか見えないわな。


 

「ふぅ……。鈴は全部手に入って、お前の攻撃はどれも聞かないことが分かった。……。これもう俺たちの勝ち、でいいよな?」

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