21、ヤン…デレ…??
舞踏会が終わり、1人で騎士団宿舎の部屋に帰ろうとルナは歩いていた。
眩しいほどの祝賀会に、まだ目の前が煌めいている。
そして、自分に想いを伝えてくれた、強く気高い二人の男性。
軍神ヴィクターと、大魔導士リロイのことが頭から離れない。
マテリアドラゴンの炎にて命を落とす結末ではなく、地道にスキルを上げたおかげで無事、ヤンデレ二人のどちらかと死ぬメリバエンドにはならなかった。
最初は、死にたくないから頑張ろうと思っていたけど。
今は、ヴィクターとリロイを救うことが出来て、本当に嬉しかった。
もっと二人の笑顔が見たい。一緒に過ごしたい。心からの願いだった。
『勝利に導く光の聖女ルート』に入り生存できたので、今度は、彼らと真剣に向き合ってみようか。
死亡エンドを回避できたので、きっと大丈夫。
ちゃんと、二人のどちらかと恋愛して、その想いに応えよう。
共に幸せに生き続ける人生を送りたい。
これからが、自分だけの恋愛シナリオの始まりだ。
乙女ゲーの逆ハーエンドは素敵だが、ルナは真剣にそう思っていた。
宿舎の部屋の前の廊下まで来た時、乾いた拍手の音が響き渡った。
音の方を見ると、1人の男性がゆっくりと拍手をしながら歩み寄ってくる。
「我が騎士団にて、素晴らしい貢献してくれてくれて礼を言おう!」
手を叩きながら近づいてきたのは、ラインハルト騎士団の創始者、ラインハルト騎士団長その人だ。
「騎士団長様、いらっしゃったのですか」
振り返り会釈をする。
しかし、ルナのその言葉に返事はしない。
彼はその綺麗な金髪を掻き上げると、いつもの朗らかな笑顔ではない、歪んだ、暗い表情を浮かべた。
「まさか、私の可愛い部下たちを次々と虜にしてしまうとはね、聖女ルナ」
いつもより低い声でそう呟くと、一瞬でルナを壁際へと押し当てた。
「……彼らをどうやってたらし込んだのか、僕にも実践してくれるかい?」
壁に押し付けられ、ルナは顎を掴まれる。
清廉な美形のラインハルト騎士団長は、ルナの心の中を覗き込むかのように、野生の獣のような凶暴な笑みを浮かべていた。
軍神と大魔導士。騎士団にはなくてはならない存在の二人を心酔させ、最強の魔獣を倒した聖女。
そんなルナは、騎士団の命運を握る団長の彼にとっては、讃える存在ではなく、最要注意人物なのかもしれない。
その暗い瞳から、なぜか逸らすことができない。
「聖女様、こんな愚かな僕にもお恵みを」
そうして、彼は試すかのようにゆっくりと唇を近づけてきた。
トゥルーエンドを迎えて、生存確定かと思ったのに。
どうやら、隠しシークレットレアルートである「ラインハルト騎士団長ルート」に入ってしまったらしい。
多くの優秀な部下を集め、一代で成り上がったラインハルト騎士団長の過去には、作中では一切触れられていなかったから、油断していた。
まさか、騎士団長までヤンデレだったなんて………!?
玄人向けのヤンデレ特化型乙女ゲーム、「ブラック・ナイト・パレード」。
まだまだ、この世界からは出られそうにないようだ。




