34話 お兄ちゃんの100万回のプロポーズを聞いていた妹
とにかく暗かった。
自分が誰かも分からなくて。
暗い海に、ただ漂っていた。
外から声が聞こえる、毎日、毎日、小雪と、私のことを呼んでいる。たぶん私の名前だと思う。
外から聞こえる声は、とても優しい感じがした。
毎日飽きもせず、好きだとか、愛してるだとか、叫んでいる。
私はただ聞いていた。聞いているだけで、心が安らぐような、それでいてドキドキするようなそんな不思議な気持ちになる。
彼の名前は……たしか……
……思い出せないけれど、大切な名前。
彼の告白を聞いて、眠る。ただそれだけの毎日だった。
彼の告白を聞くたびに、心が締め付けられるように痛くなる。
私は、なんで、
目の前にある真っ暗なカーテンを開けたいけれど、開けられない。
名前も知らない彼の顔を見たい。見なきゃいけない気がする。
「お兄ちゃんのマッサージタイムだぞ、嫌ならはやく目を覚ますんだな!変なところさわっちゃうかもだぞ!!」
「小雪のあんなところや、こんなところだって綺麗にしてやるからな!ぐへへ…!」
……やっぱり見たくないかも。
「小雪、もうすぐ小雪が俺の妹になって1年経つぞ!……この1年いろいろなことがあったよな」
……わからない
「妹になってすぐ、お前が誘拐ドッキリしたの覚えてるか!? あの時お兄ちゃん本当に心配したんだからな!」
……私は妹になって
「でも、小雪のこと、本当に大切だって気づけたからよかったのかもな。だからって! もうしちゃダメだぞ!さみしくなったらちゃんと寂しいって、素直に伝えなさい!」
……私は寂しかったの…?
「あの時さ、本当は俺、お前に想いを伝えようとしてたんだ。だけどヤスが邪魔してさぁ、あいつめちゃくちゃいいやつなのに間が悪いんだよな!」
……なんだか、それは覚えてる気がする。とても、残念な気持ち。
「そのあとお前はおんぶ妹になったり、登山で遭難して背中に枝刺したまま熊に襲われたり……でも、楽しかったよな!」
……楽しかった、私は……一緒にいられて…楽しかった。
「小雪……返事をしてくれよ……」
今すぐに目を開けなきゃいけない気がする。目を開けたい。
けれど開かない。
ごめんなさい……
「小雪……大好きだ……世界中の誰よりも…。」
……お兄ちゃん…?
「小雪姫、私は貴方を愛している」
イマイチ
「小雪、俺様の物になれ」
ちょっと好き
「俺を……お姉ちゃんの彼氏にして欲しいんだ…!」
……悪くないね
「お姉ちゃんのちっぱい、俺、嫌いじゃないよ」
………
私の名前は白石小雪。
お兄ちゃんの妹。
「14年間、ずっと……ずっと、大好きでした。俺と付き合ってください。」
私も、ずっとずっと、大好きでした。
唇に、柔らかいなにかがあたった。
そのなにかくれた人は、とても優しくて、たまらなく愛おしくて。私が大好きな人。
眩しい。
………お兄ちゃん、なんで泣いてるの?
大好きな人は、痛いくらい私を抱きしめる。
そうか、私……どれくらい眠ってたんだろう……
口がうまく動かない。体もうまく動かない。
ごめんね、抱きしめてあげられなくて。
心配かけてごめんね……
「………おかえり、小雪…」
ただいま、お兄ちゃん。




