31話 白雪姫
約束の日
12月24日
小雪が帰ってきた。
小雪は眠っていた。
親父や舞子さんに聞いた。
なんで小雪は眠っているんだって、なんで起きないんだって。
こんな点滴だけじゃ、お腹空くだろ。俺がご飯を作ってやらなきゃ。
親父と舞子さんは言った、小雪はいつ目覚めるか、わからないって。
小雪は、遷延性意識障害、いわゆる植物状態になったらしい。
そんなの、聞いてない。すぐ治るって、小雪は言ってた。絶対に良くなって帰ってくるって言ってた。約束したんだよ。親父と舞子さんは何もわかってない。
親父を殴った右手が痛い…殴られて当然だ、なんで……黙ってたんだ。
いや……ちがう、これはきっと……ドッキリだ
なぁ小雪、また、この前みたいなドッキリなんだろ?
離れてて寂しくて、またドッキリしちゃったんだろ?
今回ばかりはお兄ちゃんも許さないからな、2時間くらい説教してやる。
お兄ちゃん、騙されるところだったよ。
………
………
なぁ小雪、そろそろ目を覚ましてくれよ。
お兄ちゃん、もう、耐えられないよ。
小雪の誕生日だから、高かったけれど、この2ヶ月間バイトして、指輪買ったんだよ。
3ヶ月分じゃなくてごめんな。
……高校生なのに背伸びしすぎかな?だけど、半年以上も待たせたんだ。これくらい、してもいいだろ?
なぁ小雪
そろそろ
目を、覚ましてくれよ。
約束の12月24日が、過ぎちゃうぞ。
…小雪……なんで……なんで何もいってくれなかったんだよ……
お兄ちゃん、お前が一番苦しい時に、そばにいてやれなかった。
お前が苦しんでるなら、地球の反対側だって、宇宙だって、かけつけたのに……なんで、なんで……教えてくれなかったんだ。
何もできなかったかもしれないけど……俺はお前のお兄ちゃんなんだ……小雪を元気にすることなんて朝飯前なんだぞ……?
小雪……頼む…頼むから目を……目を覚ましてくれ…
約束の
12月24日が
過ぎる。
12月25日。俺は、小雪の部屋で、小雪が寝ているベットの前で。一人、椅子に座っていた。
親父や舞子さんには、後で謝らなきゃな、怒鳴り散らしてごめんって。
虫のいい話だよ。小雪に半年以上も告白の返事を待たせておいて、自分は2ヶ月ぽっちで大泣きするなんて。
「小雪……お兄ちゃん、ずっと……ずっと……待ってるからな。」
「……」
「小雪が目を覚ましてくれるまで、この想いはまだ、伝えないでおくからな……っ」
「……」
「今度は……お兄ちゃんが…!……お兄ちゃ…んが……待つ番だよな……っ!!」
涙がこぼれ落ちる。
「何日でも……何ヶ月でも……何年でも…!待つから…!お兄ちゃん待ち続けるから……っ!」
「……」
小雪の瞳は、固く閉ざされたままだった。
雪が、雨にかわっていた。




