32話 100万回のプロポーズ
2.21
前後編にしようかと思ったんですけど、両方短かったので1話にまとめました。
「小雪、お兄ちゃん、冬休みに入ったからこれから小雪と毎日一緒だぞ!」
約束の日から、眠り続けている小雪に声をかける。小雪の瞳は固く閉ざされたままだ。
親父や舞子さんが言うには、話しかけていたり、手を握ってやったりすると、たまに反応を返すことがあるらしい。
調べると、小雪の今の年齢なら、半年以内に回復する見込みは相当高いようだ。
「お兄ちゃんのマッサージタイムだぞ、嫌ならはやく目を覚ますんだな!変なところさわっちゃうかもだぞ!!」
小雪が目覚めても、問題なく動けるよう、俺は筋肉をマッサージしたり、関節を動かしたり、寝ている体勢を変えたりしている。
「小雪のあんなところや、こんなところだって綺麗にしてやるからな!ぐへへ…!」
まだ数日しか経っていないのに、小雪の体はどんどん細くなっている気がする。
「……っ」
涙がでそうになるけれど、堪える。小雪が頑張って闘っているのに、俺が泣いてどうする。
決めたんだ、小雪が目覚めるまで、俺は泣かない。どんなに辛くたって、笑ってやる。
冬休みが終わり、学校が始まる。教室に入ると、リリィが驚いたような顔をして、駆け寄ってくる。
「雨川、アンタ痩せ過ぎ、これ以上は見てられない」
「……いまダイエット中なんだよ、放っておいてくれ」
「放っておけるわけないじゃん…ちゃんとご飯食べてるの……!?」
「……食べてるよ、小雪が食べた後にな」
小雪の点滴が終わるまで、何も食べる気にならないんだ。お腹が空いている感覚もあまりない。
「………今日、ご飯一緒に食べに行くよ」
「なんでだよ、俺は帰って小雪の看病しなきゃいけないんだよ」
「引きずってでもいくからね」
「………うるせぇな!!放っておいてくれっていってるだろ!!!!」
教室が静まり返る。
頭が真っ白になって罪悪感に襲われる。
俺は……リリィになんてことを……リリィは何も悪くないだろ……。
「放っておけるわけ……ないでしょ……ばか…っ!」
青い瞳が、涙をこらえて、こちらを見つめている。
「日に日に痩せていくアンタを見て!放っておくなんてアタシにはできない……!」
「……ごめん…リリィ……」
「…謝るくらいなら……お願いだから、はやく元気になってよ…」
「………ごめん」
その日も、雪じゃなくて雨が降っていた。
3学期も終わり、春休みに入る。
「小雪、もうすぐ小雪が俺の妹になって1年経つぞ!……この1年いろいろなことがあったよな」
返事はない
「妹になってすぐ、お前が誘拐ドッキリしたの覚えてるか!? あの時お兄ちゃん本当に心配したんだからな!」
返事はない
「でも、小雪のこと、本当に大切だって気づけたからよかったのかもな。だからって! もうしちゃダメだぞ!さみしくなったらちゃんと寂しいって、素直に伝えなさい!」
返事はない
「あの時さ、本当は俺、お前に想いを伝えようとしてたんだ。だけどヤスが邪魔してさぁ、あいつめちゃくちゃいいやつなのに間が悪いんだよな!」
返事はない
「そのあとお前はおんぶ妹になったり、登山で遭難して背中に枝刺したまま熊に襲われたり……でも、楽しかったよな!」
返事はない
「小雪……返事をしてくれよ……」
返事はない
泣かないって決めたのに、止められない。小雪の、細くなった手を握る。
ずっと伝えられなかった想いが
怖くて、言葉にできなかった想いが
小雪が塞き止めた、想いが
溢れでる。
「小雪……大好きだ……世界中の誰よりも…。」
小雪の手がすこしだけ、動いた。
「えっ……?」
気の所為……じゃない。たしかに、一瞬だけ、小雪の手が動いた。この半年間、眠り続けていた小雪がはじめて反応を示した。
まさか…!!
「小雪、愛してる」
手がすこしだけ動いた
「小雪、俺実は、お前に12年間も片思いしてたんだぜ」
唇がすこしだけ動いた
「そういうことか……そういうことなんだな…!!」
希望が見えた。急に元気が湧いてくる。想いを伝えれば小雪が反応してくれる。なら話は早い。
いままで、積もりに積もった想いを
気の遠くなるほどの、思いの丈を。
13年間の大好きを、小雪が恥ずかしくて目が覚めてしまうくらい。
伝えるだけだ。
「お兄ちゃん、小雪が目覚めるまで、何度だってプロポーズするよ。」
春は死に、夏になる。
絶命の声は風になり、心地よい空気を部屋に運んでくれる。
小雪の部屋で、俺は大量の衣装や小道具を用意していた。
いまは王子様のような格好をしている。馬はダンボールで頑張ってつくった。
「小雪姫、私は貴方を愛している」
ぴくっ、と小雪の手が動いた。なるほど、王子様キャラはイマイチと…
「小雪、俺様の物になれ」
ぴくっぴくっ、と小雪の手と唇が動いた。どうやら小雪はちょっと強引な方が好きらしい。なるほどな。
小雪の反応をノートに書く。こうして反応の大きかったプロポーズを研究して、繰り返せば、小雪の覚醒に繋がるはずだ!!
次は学ランに着替える。
「俺を……お姉ちゃんの彼氏にして欲しいんだ…!」
耳と鼻がヒクヒク動いている。こういうのも嫌いじゃないんだな。
「お姉ちゃんのちっぱい、俺、嫌いじゃないよ」
……なるほど無反応。胸に触れるのはNGっと……。
なんか一人でこんなことしてるとかなり死にたくなるけれど、小雪のためだ、我慢するしかない!!
……12年間も告白できなかった俺が、何十回も告白するようになるなんて、人間、何が起きるかわかんねぇよな。
何十回じゃ終わらせない。何百回、何千回、何万回だってやってやる。
小雪が目覚めるまで、俺は何度だって告白する。
夏も、秋も死んで、冬になる。
絶命の声は風になり、冷たい空気が吹き付ける。
小雪はまだ目覚めない。
もうすぐ2度目の、約束の日
なんの確証もないけれど、目覚めるなら、俺はその日しかないと、確信していた。
渡せなかった指輪も伝えられなかった言葉も、ちゃんと準備してある。
「小雪、明日は小雪の17歳の誕生日だ」
「……」
「俺たちの2度目の約束の日でもある」
「……」
「いままで何万回と、愛してるだとか好きだとか、告白してきたけど」
「……」
「明日の好きは、特別だ」
「……」
思い込みや妄想なんかじゃなく、小雪が「楽しみにしてる」と笑った気がした。




