21話 私のお兄ちゃんがこんなにロックなわけがない【文化祭編/前編】
夏休みも終わり、二学期がはじまる。
9月に入ったというのに、うだるような暑さは健在だ。
放課後、俺は訳あって、リリィと一緒に使われていない軽音楽部の部室に訪れていた。
「あったぞリリィ!ギターだ!」
「ねぇ、アンタ本気でやるの?」
「ったりめぇだろ!小雪を元気づける為なら俺はなんだってやるぞ!」
「いやでも……無茶でしょ。文化祭まで3週間くらいしかないのに、バンドを組むなんて……まだアンタ1人しかいないんでしょ?」
「リリィもやるから2人だ」
「はぁ!? アタシもやんの!?」
「やるにきまってんだろ!もう決めた!俺たちは仲間だ!!」
「アンタはどこぞの麦わら帽子かっ!」
なぜ俺がバンドを組むなんて無謀なことを言いだしたのか、事の発端は1週間ほど前にさかのぼる。
「体調はどうだ……小雪」
「うん、そんなに、悪くないよ」
「そうか……」
小雪は、学校のすぐ隣にある大型病院に移され、入院していた。悪くないと本人は言っているけど、先生が言うには病状は芳しくないらしい。
心配で心配でしょうがないけれど、不安なのは小雪も同じだ、いや、小雪の方がもっと不安で怖いだろう。
不安を感じとられるわけにはいかない。俺はお兄ちゃんなんだ。小雪を元気づけてやるんだ。
「……お兄ちゃん、文化祭で何か出し物やったりするの?」
「いや、まだ何も決まってないけど……どうかしたのか?」
「先生に許可もらったんだ、文化祭は見に行ってもいいよって」
「そうか!!先生が許可くれるってことは、症状もよくなってるのかもな!!きっとそうだ!」
「そうかもしれないね」
「じゃあお兄ちゃん頑張る!小雪が元気でるような出し物するから、楽しみにしててくれ!」
「うん……たのしみにしてる」
小雪はうれしそうにはにかんでいる。文化祭、小雪が見に来るなら、なにか元気が出るような出し物をしなければ!今世紀最大の文化祭にしなければ!!
そして、1週間後の軽音楽部、部室に話は戻る。
「というわけで、文化祭で元気づけると言ったらバンドかなって」
「いやアンタ、軽音舐めすぎじゃない?」
「なんとかなるだろ、アニメとかでは結構なんとかなってたし」
「いや全国の軽音楽部に殴られるよアンタ」
リリィは相変わらずお母さんみたいなことガミガミ言っている。女のリリィにはわからないかもしれないけれど、男には、たとえ無謀だと言われようと、逃げちゃダメな時があるのだ。
ギターの埃を払う。うん、素人目だけど、まだなんとか使えそうだ。
「やるのはいいけど、いろいろと問題は山積みだよ? まず、歌う曲はどうするのさ」
「もう作詞作曲してある」
「アンタ、妹に関しての行動力すごすぎない?」
「おいおい褒めんなって」
俺が作詞作曲した『LOVELOVE sweet KOYUKIELU♡』の歌詞をリリィに見せる。目を見開いて、口をあんぐりあけて、リリィは歌詞を見つめていた。
ったく……そんなに感動したのか?
まぁ無理もない。俺の小雪への感謝の気持ちや応援の想いを、『好き』だとか『愛してる』だとかの言葉をさけて、綴っているからな。まるまる1週間、ほとんど寝ずに作った曲だ。
「コレ、本当に歌うの?」
「あたりまえだろ?」
「あのちっこいの、恥ずか死するんじゃない?」
「なんでだよ」
「この『ちっぱいだってonly one 俺は好きだぜ small size』とか喧嘩売ってない? 大丈夫? 」
「韻踏んでてかっこいいだろ」
「いやフリースタイルじゃないんだからさ、相手ディスってどうすんのさ」
「ふむ、確かに一理あるな」
「一理どころか百理あるよ、私も一緒に考えるから、ちゃんと応援できるような歌詞に変えるわよ」
「リリィ、お前いい奴だな……!」
なんだかんだでいつも力になってくれるリリィには感謝しかない。今度、お礼にリリィの曲も作ってやろう。
「で、メンバーはどうするの、最低でもあと1人、欲をいえば2人はいるでしょ?」
「大丈夫、3人目はバンド経験者だ。今回の作曲もこの人が手伝ってくたんだぜ。入ってきてくれ!」
軽音楽部の扉をガラガラと開けて、大男が入って来る。オールバックに和服、いかにもな格好な男、ヤスだ。
忘れている人は4話を参照してくれ!
「アンタ、なんで学校にヤクザ連れて来てんの?」
「失礼な、ヤクザじゃないぞヤスは」
「このかわい子ちゃんが、若のお友達ですかい? 怖がらせたならすんません。あっしは久遠組、金融機関の方を担当しております、ヤスと申します、以後お見知りおきを」
ヤスは強面にあわない、人懐っこい笑みを浮かべる。ヤスは俺たちみたいな高校生にも、分け隔てなく接してくれる優しい奴だ。昔、結構有名なバンドのドラムをしていたらしく、応援に来てもらったという次第だ。
「アタシがいうのもなんだけど、目つきが悪すぎてヤクザに間違われる高校生と、不良金髪ギャルに間違われる女子高生、ヤクザみたいなヤクザ。バンドメンバーちょっと異色すぎない?」
「ヤクザみたいなヤクザってなんだよ、ヤスはヤクザじゃないって言ってるだろ。お金返さない奴を、ちょんちょん、っとするだけだ。」
「ちょんちょんってなによ!」
「嬢ちゃん、世の中知らない方がいいこともあるんですぜ?」
リリィはまたお母さんみたいなことをガミガミ言っている。ここまで来たら覚悟を決めてほしい。
「ちなみにバンド名は『誘拐ヤンキース』だ」
「それアタシたちのあだ名じゃない……」
せっかく広まっている名前を使わない手はない。小雪が見に来るのにギャラリーなしは寂しいからな。
忘れている人は7話を参照してくれ!
「はぁ……本当にこんなんでうまくいくのかな……」
「リリィは心配しすぎだって、ヤス、そこにあるドラムちょっと試しに叩いてみてくれないか?」
「わかりやした!」
久しぶりで少し緊張しやすね、などと言いながら、今は亡き軽音楽部の遺品、すこし古ぼけたドラムセットの前にヤスは座る。
スティックをカンカンとリズムよく叩くと、ヤスの演奏が始まった。素人目だから、専門的なことは全くわからないけれど、ドラムだけで成立できてしまうんじゃないかと言うくらい、リズムよく迫力のある音が聞こえる。
ヘタしたらプロのドラムと遜色ないんじゃ、ってくらい上手く聞こえる。高校生の文化祭レベルじゃたぶん高すぎるくらいだろう
「めっちゃ上手いじゃん……」
「な? ヤスはギターもベースもできるから俺たちも教えてもらえればなんとかなるって」
「小雪ちゃんを元気づける為なら、あっしが人肌ぬぎますぜ!若!」
「はぁ……なんとかなりそうな気がしてきたよ……」
こうして、小雪を元気づける為に、『誘拐ヤンキース』が結成されたのであった。
日間ランキング1位を目標に今後は最低1日2話投稿をすることにしました。評価、感想、ブックマーク等をいただけると更新のモチベーションにつながります。できれば3話投稿したい…!
どうぞよろしくお願いします。




