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食事は、普通に美味しかった。ここが山だからか、キノコと乾燥させた肉を煮込んだ料理とか、山菜のスープとか、薄味の素朴なモノなが大半。
ただ、水のかわりに白ワインが出されるとは思わなかった。確かに、日持ちするし、すぐに腐ったりしなくて保存にはもってこいだけど、私は酒が苦手だからキツイ。
「川まで遠いから、これで我慢してね」
「……なんか、移動手段ないの? こう、早く川まで着けるような道具とか」車みたいな。
「ない」
ハッキリキッパリ、少女は笑顔で言い切った。
世界から世界へと渡れるのに、なんで簡単な移動手段がないのか不思議だ。
「この世界と私の世界は、同じ時間がたってるんだよね?」
「そうだよ。でも、厳密に言うと同じじゃない。そもそも概念が違うよね。だから、同じとは言えないかもしれない。色々な条件で、こんな世界になる可能性は、たーちゃんの世界にもあった。でも、そうならなかった。ただ、それだけ」
うー……ん、もしかしたら、もしかして?
「この世界って、国とかある?」
「あるよ。一応、王宮で働いてた。下っ端だけどね」
一人一人の使える力が強そう。魔法って、すごいモノだよね。
少し自慢げな少女を、私は質問攻めにした。
「王様っているの? 国の代表、まとめ役の人」
「いるよ。オウサマって名前じゃないけど、国と国の交渉役ってことなら……。少数で国の経営方針を決めるの」
ここは一緒だった。
「国の偉い人は、どうやって決められるの? やっぱりそれなりの給料はもらってるの?」
「偉い人……って、数人が集まるオウサマってヤツだよね? それなら、魔法が使える人の中から選ばれるよ。指名を受けて、国の代表になる。あと、給料はたぶん高いんじゃないかな? 知らないけど」
格差社会か……。あんまりよろしくないような……。
「じゃあ、そのオウサマを決めるのは誰?」
「神官」
少女は、さも当然という顔をしていた。
「その神官って人は、この国で偉いの?」
「偉い……というより、神の言葉を聞く人だよ」
うわあ、それって……神様がいる、ってこと? だとしたら驚きだ。
「生き神様って、ことなのかな? 誰が神様になるの?」
「え? 誰がなるとかじゃないよ?」
彼女は、空を指差して「善行をすれば、神様は見ててくださる」と言った。
うーん、目に見えなくても神様はいるってパターンなのか。……魔法が存在するから居るのかな? 正直、怪しい。
最後に……
「世界が滅ぶほどの戦争は、あったりした?」
正直言うと、建築技術も料理も移動手段もあんまり進化してないって可笑しいよね。
「ここニ、三百年はないよ。この国はね。……ただ、世界が滅びそうな天災ならあったけど」
「それってなに?」
魔法があっても、災害には敵わないのね。こちらの世界でも、天候とかは思い通りにならないし、一緒な所はあるのかも。
「ずーっと、ずーっと、昔のことだよ。古い文献にも残ってないから、ただの予測だけどね」
それで、色々発達が遅れてるのかな?
予測は予測で、それを核心に変えるモノは何もない。
――――――――――
もう一人の私は、仕事があるはずなのに出かけない。
「いいの?」と聞いても「大丈夫」と言う。
まあ、本人は成人してるようなので放置する。子供じゃないんだし。
でも、正直ニートか?
と、ツッコミたい。まあ、同じ状態の奴に言われたくないか。
……で、今日は山を探索しに出かける。
ここに来た初日は、食べて寝るだけのお客さん状態だったけど、二日目は料理をしたり、布団をほしたり、屋敷を使える状態にするのを手伝った。あんまり、何もしてないけど。
今日は、魚を取りに罠を仕掛けるのだとか。干して保存するんだって。干物も苦手……。好き嫌いは多いです、はい。でも、贅沢は言わずに食べます。
「このカゴを、石で固定してね。餌をちゃんと、中にいれてよ」
ここに来て、もう一人の私は、物知りで逞しいことが判明。釣りも、食べられる山菜も知らない私は四苦八苦。
季節は、あっちと同じ夏。本来なら、川がある位置に国道があるんだけど、地理が違うのは当然なのかもしれない。
「ついでに罠も仕掛けるね」
川の上流から、山へ分け入り、少女はドラム缶のような大きな筒状の入れ物を土に斜めになるように入れて、果実を一欠けら放り込んだ。
植物や肉なんかは、私の世界と変わらない。
だけど、こんな罠は見たことない。一応、現代っ子なので想像もつかない。
ドラム缶を斜めに入れても、直角じゃないから獲物に逃げられそうな予感がする。
少女は、罠を何カ所か仕掛けて戻ってきた。
「山菜を摘んで帰ろ」
キノコや、食べられる野草を取った。野イチゴは季節的に終わったそうだから、残念きわまりない。
でも、森の恵みだけで、人って生きられないよね? どうするんだろう、買い出し。歩いても、結構かかるんじゃないかな。
森らしき場所を歩きながら、一人で「このまま、ここでスローライフとか憧れる」と妄想していたら、口に出ちゃってたみたいで……「たーちゃんが住みたいなら、私がアッチに……」と、即座に進められた。
「いやいや、冗談! 飢え死にするから!」と、冷静にツッコむ。すると、いやに納得されて少し凹んだ。
「狩りとか、どうして出来るの?」
それは、普通にこっちの人が持ってる知識だろうか?
「まあ、大抵の人は知ってる……と思う」
難しい計算や、歴史なんて役に立たないのかも。
少し向こうが恋しくなって来たから、一旦帰って、色々と持ってこよう。
お菓子とか、お菓子とか、お菓子とか。
味の濃い物も、たまには恋しくなる。あとは、お米があれば完璧。
調味料も欲しい。
少女サラに聞いてみたら「この間、運んできた荷物と同じ量ならいい」とのこと。
あまり増えすぎると、身体の一部をアチラの世界に置いてきてしまうから、ということらしい。すっかり忘れてた。この怖い法則。
「あんまり食べすぎると太るよ」
お前が言うな。そう言った私は悪くないと思う。