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天井の染み、広がってきてる……。
木製の館だから、木目かもしれない、という希望的観測はなくなった。一階の廊下と、二階の部屋の間に何かがあるのかもしれない。
そう少女に告げると「雨漏りだと思う、早いうちに修理するね」とのこと。いっそ、引越したらどうでしょう。
気になって、夜中サラが床を踏む音さえ得体の知れない何かに聞こえて不気味だった。ちょっと、神経をとがらせてしまう。
……っと、いうことでルミノール試験薬、作りました。
出費が痛かった。それに、タンパク質を分解してしまうから扱いが厄介で後回しにしてた。
ゴム手袋とゴーグルで完全防備。失明の危険があるとか怖すぎる。
新しい血より、古い血の方が発光がいいらしい。事件現場で、血痕を調べるアレ。血液に散布すると青白く光る。
まず、黒い染みにルミノール試験薬を垂らす。
次に、窓の光が入らないように布とかで覆う。
最後は、黒い染みを確認。
「現場には、サラさんがいます。どうですか? 今の感想は?」
「早めに気づいて良かったね」
「……と、いいますと?」
「まあ、死後何年も放置するより……」
「ええええ、そもそも安かったのは、これが理由じゃないの? しかも、コレ誰かに言わなくていいの?」
「……とりあえず、売ってくれた所へ経緯を聞きに行く」
「犯人にされないようにね」
私が可能性の一部を述べると、少女は涙目になった。
「ま、まあ、大丈夫かもしれないけど……」
もし、前の館の主が潔白を主張して、その罪をサラに擦り付けようとしているとしたら、かなり困ったことになるのではないだろうか?
「まあ、天井の黒い染みは血じゃないかもしれないし……」
そんな気休めを言ってみる。まあ、どう控えめに見ても、状況的に染みが広がる原因が二階の部屋と一階の廊下の間にある訳だ。
二階の床を剥がして、それを確認しなくてはならない。
「……二階に行く?」
「うん」
言い出したのは、少女の方だった。家の主だから気になるのだろう。
二階の部屋で、染みの上になっている場所には、前の持ち主のモノが置いてあるそうだ。
湿気た空気がしていたけど、窓をあけて換気した。埃は除去済み。
床に、変な所は見当たらないから、片っ端から剥がしていくことになる。災難だよね。
「……って、ことでお願いっ!」
だって、怖いじゃない。床を剥がして何か出て来たら。
両手をすり合わせて、少女に頼み込む。彼女は、この事態に何も脅えてない。もう、死んでるのだから何が怖いのかわからない、という。
「じゃあ、開けるね」
パカッ。
そりゃあ、もう軽く。ペットボトルの蓋でも開けるように、あっさりと床を持ち上げた。
「……っ!」
広がる腐臭に思わず沈黙する。
口を押さえて、廊下までダッシュ。すぐさま、部屋を脱出した。
「っ、あー! ありえない!」
頭を振る、羞恥のあまり顔が熱い。
「もう、処理は済ませたよ」
彼女は、実に晴れ晴れとした顔で言った。
不安は解消されたのだ。
「まさか、ネズミだったとはビックリだね」
少女の視線が痛い。私は、思わず目をそらした。
廊下でルミノール試験薬を撒いたとき、壁や床に大量の血痕があったから、死体でも床下に隠したのかと思ったんだ。その発想こそが中二病の始まりだったわけだけど……。
もし、誰かがこの屋敷で死んでいたとしても、サラは昔のことなら気にしない、と言う。
まあ、死体がないなら、私もまあいいや、と思わなくもない。
……と、いうのも慣れていたからだ。
私が以前乗っていた車は、新中古(新品だけど型が古いなどで中古)と言われていたのに事故車だった。
しかも、シートを取り外して、違うものに取り替えようとして発覚。細かい部品とかに、染み込んでいたので大量の血が流れたのだろうと思われる。事故した人の生死は不明。
文句を言いに行ったら、車屋は潰れていた。高ったので、我慢して乗り続けることになった、というわけだ。
最初は、気持ち悪くても人は慣れる。
友達なんかは、買ってすぐにドアの色が少し違うような気がして、車をクーリングオフした。店側の言動が不審で、思い当たる点があるらしい素振りを見せたので何とかなった。事故車だと、わからない人が騙されるケースは多いのかもしれない。
「ま、まあ、いいじゃない。何にもなかったんだし」
「何にもー?」
「……ごめんなさい」
「よろしい!」
私が謝ると、サラは軽く許してくれた。
「もしかして、夜中に聞こえた足音……サラじゃなくて猫だったのかな?」
「夜中? 私、部屋に入ったらすぐ寝ちゃうけど……」
「……」
「……」
わたし達は顔を見合わせた。
「それって、ゆ……」
怖い怪談話を聞かせたせいか、サラは目に見えて狼狽えた。
「あー、あー、きこえなーい!」
必死に声を遮ろうとする姿が涙ぐましい。
――――――――――その晩
事件は起った。
踏み鳴らされる足音、笑う少女の声、空中に浮かぶ本や燭台。まごう事無き、幽霊です。
私はサラのところへ、サラは私のところへ、お互いに逃げていたから廊下でご対面した。
「浮いてた! モノが浮いてた!」
私は、サラと一緒になって騒いだ。
「こっちもだってば! 魔法で、どうにかして!」
「無理無理無理無理無理無理……」
「使えねー!」
高速で首を左右に振る姿は、壊れた人形みたいだ。人のことは言えず、私もガクブル。
「外行こう、外!」
提案すると、サラは聞いているのかいないのか、私にしがみついてプルプルしてた。
「にーげーるーよー!」
大声で叫ぶと、やっと起動したのか、コッチを向いた。
よし! もうひと押しだと「あっ! アレ、幽霊じゃない?」などと、煽ってみた。
効果はてきめん。
「ぎゃー!!」
こちらがビビるぐらいの悲鳴を上げて、視界が暗転。
覚えのある浮遊感が体を襲う。
私の世界へ逃げますか……。幽霊ついて来てないか、少し心配。
数日間、サラは私の家に泊まることになった。




