Prologue
同ペンネームで別サイトにも載せている一次創作の小説になります。
ネットに小説を載せたのは初めてではありませんが、あんまり慣れてないのでよく分かってないです。
異世界ものファンタジー路線の物語ですが、よろしくお願いします。
虹に守られし天の園。神秘より分かたれた人の庭。
双つの世界に災禍降りて穢れし時、天は裂け、人は堕ち、全ては地に呑まれる。
砕け落ちた天穹に、虹の再び掛かること能わず。人の堕ち去った庭に、灯の再び輝くこと能わず。
天と人が交わりし時、双つはひとつとなり、はじまりへと還らん。
————堕ちる天の伝説より
天が堕ちたらどうなるのだろう。私は常々そんな想いを巡らせていた。
本来交わるはずのない双つの存在が、融け合ってひとつになるかもしれない未来。この場にいる誰もが望まざる未来。そして、これっぽちも想像の付かない未来。
もしも、この未来が現実となって現世に押し寄せた時、私たちはどうなってしまうのだろう。
「————また例の伝説について考察中か」
ふと、隣から声がした。私のよく知る男が、いつの間にか隣に座ってこちらを見ていた。立った状態ではもちろん座っていても、私と彼の身長差は明らかだ。私は彼をつ、と見上げた。
「心でも読んだか?」
片眉を上げて苦笑する。胸の内を覗かれたような発言に少々驚いたのだ。
「まさか。“読心”は禁止魔法の1つだろうが。まあ、そんなもん使わなくたって、てめえの考えてることなんざお見通しよお」
敵わんな。そう言って溜め息を吐くと、彼はにやりと笑った。
私とは乳飲み子の頃からの付き合いである彼。普段は賑やかで楽観的、少々とぼけたところがあるそのくせ、私の思考は謎に正確に言い当ててくる。私が分かりやすいのか、はたまた長い付き合いの賜物か。いずれにせよ、呆れが一周回って尊敬すら覚える。
「そう深刻になるなって。あんな不吉な伝説なんざ、これから先はどうにでもなる。“予言の子”が、とうとう目覚めるんだからな」
昔からこいつは変わらない。あっけらかんとしていて、常にその瞳は前を見据えている。軽率に言っているのではない。強い意志と自信の下に励まそうとしていることはすぐ分かった。
「ああ。“予言の子”の目覚めが確定した今、芳しくないこの世界の情勢は好転するだろう。だが……心からは喜べない。お前もきっとそうだろう?」
普段ならば、快晴の空のような笑顔につられて首肯したことだろう。だが、今回は違う。我々にとっての懸念は、それだけでは済まない。彼とてそれは分かっているのだろう。指摘した途端、目に見えて顔が曇り、黙り込んでしまった。
他の者であったら違ったかもしれない。けれども、私と彼は……否、私と彼だからこそこの状況を喜ぶ以上の憂いに苛まれたのだ。
他でもない、”予言の子”という言葉が意味するところは――――。
「……そろそろ会議のお時間ですよ」
背後から声をかけられた。振り向くと、使用人が私たち二人を遠慮がちな眼差しで見ていた。深刻な話をしていると雰囲気で察したのだろう。
「もうそんな時間か……」
「すぐに行く。わざわざすまないな」
彼と私が答えると、使用人は軽く一礼して立ち去っていった。
座っていた石段から二人で腰を上げ、軽くほこりを払う。そして、その石段を上り、玄関口である扉をくぐった。これから行われる会合でも、”予言の子”については触れることだろう。加えて、現在の情勢を煩雑にさせている何よりの原因と対処についても、綿密に相談しなければならない。考えることは山積みだ。
(……情けない話だ)
廊下を歩きながら唇を噛みしめる。
当世において「秩序の守り人」などと呼ばれる我々ですら、現在の情勢には頭を悩ませ、限界を感じ始めているというのに。
そんなのっぴきならない現実に”予言の子”を巻き込まざるを得ない現状。そうでもしなければ、状況は悪化の一途をたどるという現状。本来ならば何の曇りもなく輝かしい人生を歩むはずの彼らを、すぐ傍で守ってやれない現状。そんなあの子たちに、彼も、そして私も、父親として何もしてやれないもどかしさ。
その全てが、情けなくて仕方がなかった。
(あの子たちが生まれた日から、覚悟はしていた。だが、こんなにも早熟と誰が思っただろうか)
————それは宿命。
受け容れる他はなく、どうすることもできない、神の絶対なる決定。それを前に、人の子とは何と無力なことだろう。
変えられるのならば……少しでも”予言の子”の目覚めを遅くできるのならば、父としての私は何でもするだろう。しかし「秩序の守り人」としての私には、腹を切ろうとそうすることは許されない。
この役目を全うするのは、あの子たちでなくてはならない。私だけでなく、この世全ての存在が、あの子たちを必要としているのだから。私は、彼らの道を示す導き手とならなければならないのだ。
窓を振り向くと、空は分厚い雲で覆われていた。しかし、ほんの少しの切れ間から、生まれたてのように淡い空の青色が垣間見える。私は、裂け目から覗く蒼穹の先にあの子を想いながら、祈るように声なく語りかけた。
待っているぞ、愛しい息子よ。
世界を等しく優しい雨で包み込む、“予言の子”よ。
更新は気まぐれかつ遅筆ですが不定期に続けていくつもりです。
途中まで進め終えているので、あまり間を空けずに続きを載せていく予定です。
興味がある方は引き続きよろしくどうぞ。




