長い夜
デアの部屋にある侍従部屋へ、アランは越してきた。
ドア一枚隔てて寝起きすることに猛反発したデアだったが、言い出したら聞かないソルに『執事と侍従と講師を兼ねるし、それに護衛にもなるんだぞ、腕も確かだ、ほんとにほんとにすごい奴だから。ピアノもすごく上手だし』と押し切られる形でとりあえず落ち着いている。
部屋は静かだった。
デアは編み物をして過ごし、アランは自室で騎士団の仕事とこれから始まる講義の資料とをまとめていた。
けれども、知らない人(しかも異性)と一緒に暮らすというのは慣れないもので。時折、「出かけてきます」と一声かけてアランが出かけていく時がある。侍従の部屋から廊下に出るのだが、遠くでパタンとドアの音がすると、音の方に顔を向けてしまうのだ。編み物に没頭していても反応してしまうから、何の反射か?と自分でも思う。音がするのは隣の部屋だから当然見えないし、どのみちこの目で見ることは不可能なのに。
アランがどこに行くのか興味もないし、滅多に顔を合わせないけれど。音を聞いた後で、いつ頃戻るのだろうなどと考えることも不思議なのに、更に、いつ頃帰ってくるか聞いた方がいいだろうかと考えたりもした。
興味がない相手なのに、気になるとは。なんだかちぐはぐで気持ち悪い。それってかなり変だとわかっている。だが気になるのだ。
心のどこかで、また触られることを警戒しているのか? そういえば本で読んだことがある、嫌いな相手ほど気になってしまうものだと。
その夜遅く、アランは静かに部屋を出て行った。デアは物音に気付いてから眠れなくなって、今は侍従部屋に続くドアの前に座り、背中を預けて編み物をしている。ドアの形状や材質のせいだろうか、これが妙に落ち着くから不思議だった。いつもベッドやテーブルで編み物をしていたから、もっと早く知りたかったとさえ思った。
どれくらい時間が経ったか不明だが、体感的に優に一時間は過ぎたであろう頃、隣の部屋からドアの音が聞こえた。アランが戻ってきたのだ。
編み物の手を止めたデアは、従者部屋に続くドアをノックしようとして手が止まった。はたと思った。どこへ行っていたのか聞こうと思ったのだが、そんなことを聞いてどうするのか、聞いて何がしたいのかと。
(わからん)
深く首を傾げながら、再びドアにもたれて編み物を始めるのだった。




