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現実は
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「お替りをくれ。大盛りで」
ずいと差し出しされたスープ皿を、アランは受け取った。
「承知した」
吹雪の夜、緊張の糸が張っている食事は続いていた。
温かくて懐かしくて美味しい食事。しかしほろほろの干し肉のように、魔女の心は解けない。
当たり前だが、同じようにアランの心も開かない。
アランは王国のことを話した。緑が多いとか、豊かな土壌だとか、近隣諸国との貿易が盛んで手に入らないものはないとか。それから、今の時期はアクオニウムの花が見ごろだと言った。年に一度咲き乱れる花を民は待ちわびていて、食事をとりながら楽しむのだという。他には、魔法が掛けられた噴水があって、水が変幻自在に形を変えるとか。
どれだけ王国へ連れて行きたいのだろう。
仕方のないことだが、魔女は心から寂しく思った。
きれいに治ったあの時の指先をそっとなぞれば、思い出さなくていい部分が襲うように甦った。




