===夏の日=== 6
開け放った窓から夜風がそよいだ。
魔女の体の熱をさらって、新しい心地を運んでくれる。
懐かしい料理を前にして、やはりと心は思えど。体は素直で、動悸だけがひどい。
思えば、ばあやは武道に通じ、優れていた。
小柄な老婆であったが弓も槍もナイフ捌きも、玄人のそれであった。
魔術の練習と並行してそれらを叩き込まれて育ったから、よく知っている。
そんなばあやは、魔女と名乗っていた。名前はなかった。人々も魔女と呼んだ。唯一、自分だけがばあやと呼んでいたが、物心つく前からそうだったのだから、何の疑いもなく、ばあやは魔女だと信じていた。
ばあやの本当の名前を知ったのは亡くなったあとである。肌身離さず身に着けていた銀細工のペンダントの裏に、ユリア・アルクスと彫られていたのだ。
ばあやは人だった。
干し肉と香味野菜のスープ。
ソーダブレッド。
ばあやの得意料理。
計りもせずに適当に作ってしまう。なのにいつも同じ味だった。
この料理はいつも対になって、食卓に並んだものだ。
そうか、ばあやは王家に仕える騎士だったのだ。
謎が解けたら、ほろっと泣きそうになった。ばあやのことが知れて心から嬉しかった。
直後、新たな疑問が降ってきて、涙が引っ込んだ。
なぜ、私はばあやに育てられていた?
私は誰だ?
疑問だらけの頭に、なぜかわからないが、白星の話が降ってきた。
それは胸騒ぎを呼び起こした。王から白星の話を聞いた時と同じように。
(……いや、今は考えるのをやめよう)
ひとりでじっくり考えなくてはいけない気がする。
思考を断ち切り、気持ちを食事に集中させた。
『アルクス……そう。いい名前ね。ソルと一緒に旅をしている騎士様だもの、腕も立つんでしょう?』
『王を守れるよう、訓練は積んでいる』
『強くて、料理もおいしくて、素敵』
『魔女の長にそう言ってもらえて、光栄だ。旅の励みになる』
『それじゃあ、旅の王様気分で、お替りちょうだい、大盛りで』
『仰せのままに』
アランと魔女の和やかな食事を、ドア越しにソルとウィルトスが聞き耳を立てていた。
===




