===夏の日=== 5
料理名もさることながら、見た目も味も同じである。
ばあやのレシピとアランの家に代々伝わるレシピ。これが同一であることは事実となった。
秘伝のレシピを知っていたばあやの謎は深まるばかりだ。
そしてアランは続けた。
『俺の家は代々騎士を輩出している家系だが、古の王の旅に同行した際にこのレシピを考案したと伝わっている。王の気に入りの食事だったと言われているんだ』
『料理もできる騎士なのね。素敵ね』
言ったきり、心と同じようにほろほろになった干し肉の繊維を眺めていた。いつの間にか手が止まっていたところに、優しい声が掛けられた。
『まだ痛むか』
耳心地のいい声は、すべてを包んでくれようだ。
ばあやも優しい声で、柔らかい話し方であった。温かい日々が胸に蘇る。
『ううん、大丈夫』
顔を上げると、アランは小さく、微笑んだ。
本で覚えた言葉で言うと、知的で、寡黙。落ち着きがある反面、時に冷静沈着な横顔を見せる。
そのアランが、微笑んだのだ。胸に風穴を開けるくらいの威力であった。
笑みに促されるように、魔女は心を決めた。尋ねるなら今だと。
『アラン、突然なのだけど、苗字を聞いても?』
一大決心を持って投げかけた問いも、アランにとっては頓狂な質問だった。
アランは目を丸くしたが、それも一瞬。優しい声で言った。
『アルクスだ。アラン・アルクス』
ばあやの姓もアルクスであった。




