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聖戦④・魔竜は邪竜を撃破する

別作品が完結したので連載再開します。

 殺戮と破壊をもたらすべくはるか東より迫る魔王軍は神聖帝国の東側に位置する王国を瞬く間に蹂躙し尽くした。刃向う者がいた、逃げ惑う者がいた、神に祈りを捧げる者がいた。全てを平等に殺し、喰らい、穢していった。


 魔王軍の頂点に君臨する主は時期尚早だと血気に逸る将軍達の意見を退けた。将軍達は表向きは従いつつも下準備を続けていった。そんな中到来した絶好の機会、即ち魔王の不在。将軍達は魔王に忠誠を誓う参謀達の忠告を臆病者の戯言と一蹴して進軍を開始した。


 魔王軍は破竹の勢いで西進していく。闇が世界を覆い尽くすとは誰の表現だったか。絶望は如何なる存在だろうと防ぎきれず、そして逃れる術は無い。ただ飲み込まれていくのみ。戯れにすぎぬと軍師の将軍の一人は称した。退屈だと司令の将軍は吐き捨てた。


 人類は下等、それが魔王軍共通の認識だった。


「ようやく来たか。待ちわびたぞ」


 だからこそ華奢な女子が一人立ち塞がった所で何の障害にもならぬと笑い飛ばした。

 ――それが致命的な誤りだと気付いた時には、彼女は交戦を開始していた。


「はああっ!」


 咆哮と共に彼女、ヴァルプルギスの放つ拳は何倍もの体躯を誇る魔物の身体を打ち砕く。ヴァルプルギスの放つ蹴りは分厚い筋肉や骨を抉り魔物の身体を貫く。魔物の爪や牙は悉くいなされその暴力を発揮出来ない。瞬く間に肉塊の山が築かれていく。


 司令の将軍は一旦進軍を停止させてヴァルプルギスを包囲、数で押し切るように部下達に命じた。たかが人間ごとき一匹が調子に乗ろうと圧倒的優位は覆せない。さりとて魔王軍に刃向う者は容赦無く踏み潰すとばかりに。


 ……そんな司令の将軍の目論見が打ち砕かれたのは三日三晩過ぎた頃だった。絶え間なくけしかける魔物をもろともせずにヴァルプルギスは物言わぬ躯へと変えていく。それどころか彼女は散歩同然に前進を始めたのだ。他ならぬ軍を率いる司令の方へ。


「行け、我がヴァルツェルの軍勢。そして魔王軍を破壊しろ」


 そんな時、ヴァルプルギスの合図と共に西より現れたのは神聖帝国東の国境の要であるヴァルツェル辺境伯の軍だった。既にヴァルプルギスの猛攻で勢いを失っていた司令の軍勢はヴァルプルギスに呼応するかのように突撃……しようとせず、投石器や弓での遠距離攻撃に専念した。

 突撃すればヴァルプルギスに背を晒す事となり穿たれる。しかしヴァルプルギスを追い詰めれば降り注ぐ凶弾の餌食となっていく。戦力を瞬く間に削がれていく司令の将軍はここで初めて己の愚策、遊戯に興じた油断の愚かさに舌打ちした。


 司令は重宝する直属の部下達にヴァルプルギスを仕留めよと命じた。雑兵達を邪魔だとばかりに押し退けた部下達はヴァルプルギスとの交戦を開始。ところがここでも司令の予想は覆される事となる。


「遅くなりましたヴァルプルギス」

「遅いなレオンハルト。粗方片付けてしまったぞ」


 魔王軍の包囲を突き破った神聖帝国軍の騎兵が司令の部下とヴァルプルギスの間に乱入する。その中の一人、レオンハルトは騎兵達と共に巧みな連係により翻弄、次々とその喉や胸に槍を突き立てていった。


「例え人間一人一人が取るに足らなくとも結束して大きな力とする事は出来ます」

「成程。私にはそんな考えは無かったな」

「ここからは私共にお任せください。どうかヴァルプルギスはお下がりを」

「馬鹿を言うな。ようやく身体も暖まりだした所だ」


 ヴァルプルギスとレオンハルト、二人の男女は共に戦場を駆け抜ける。ヴァルプルギスはたった一人での暴力で、レオンハルトは他の騎士達と力を合わせて。両者の在り方は全く異なっていたが、共にこの場では強者である事に変わりは無かった。


「おっのぉれぇぇっ! たかが人間の分際でぇぇ!」


 後方で座していた司令はとうとう痺れを切らし、己が身体を変貌させていく。神を模したとされる人型を捨てた司令は瞬く間に大きくなっていき、やがて人間達にその脅威を知らしめた。邪竜という正体を晒す事で。

 圧倒的な存在に神聖帝国軍兵士達は恐れ戦き、戦意を喪失される者も現れ出した。それでもなお彼らが闘うのは他ならぬヴァルプルギスとレオンハルト達が拳と剣を振るい続けるからだった。それも現れた破壊の化身に向けて。


「巨躯を見せつけた所で大した脅威にはならん。レオンハルト、準備は良いな?」

「問題ありません。今こそザイフリートが嫡男の使命を果たす時です!」


 レオンハルトは騎乗していた馬から飛び降り、なんとヴァルプルギスの肩へと足をかけた。ヴァルプルギスはレオンハルトの足首を持ち、騎兵達を振りほどくばかりの速度で助走、一気に跳躍した。


「行け、レオンハルト!」

「おおおっ!」


 レオンハルトが手にするのはかつて巨悪の竜を打倒したとされる竜破壊の剣、始祖である英雄ザイフリートの得物だった。ヴァルプルギスの肩を蹴ったレオンハルトは更に加速し、巨大な邪竜の首めがけて突き進んでいく。邪竜が炎を吐いたところで勢いは止まらない。


 そして、レオンハルトの一撃が邪竜の喉を突き破った。


 人間達は巨竜の最後に歓喜の声を上げる。魔王軍は将軍の最後を信じられないとばかりに呆然とする。レオンハルトは偉大なる祖と同じ偉業を成し遂げた達成感に笑顔をほころばせた。ただ一人、ヴァルプルギスだけがそんな幼稚なレオンハルトを鼻で哂う。


「あの程度の小物を仕留めて喜ぶとはな。まだレオンハルトには精進してもらわなければな」


 ヴァルプルギスは飛び出した勢いをそのままに倒れた邪竜の上に乗りだし、戦場全てに轟くように声を張り上げる。敵将は仕留めた、掃討を開始せよ、と。そして彼女は再び魔王軍へと立ち向かう人間達を尻目に駆け出し、自分が射出したレオンハルトと合流した。


「あいにくまだ敵軍の数は多い。しばらくは暴れるぞ」

「ええ、分かっています。背中はお任せください」

「……いいだろう。私を失望させるなよ?」

「勿論ですとも」


 それでも、これまでよりは少し認めてやってもいい。

 そんな風に思っていたらヴァルプルギスは自分が笑みを浮かべていると気付いた。

 そうか、嬉しいのか。ヴァルプルギスは進展を実感して大きい背中に自分の後ろを預けた。

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